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「2テンポの遅れ」その2

茶屋ひろし2015.03.03

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(前回の続きです)
話を聞きつけたスタッフたちがわらわらと集まり、みなが見守る中、彼、仮名・凡人は、そのことに気がつく様子もなく、彼女のことだけを意識しています。
私は声をかけてしまいたい気持ちを抑えて、落ち着かなく店内を回遊します。
前もそうでしたが、昼休みということなのか、そんなに長居はせず、10分ほどで帰ります。
その日も何も買わずに、ふらっと店を出て行きました。うしろ姿を見送るように店を出た私は、そうだ、尾けてみよう、と思い立ちました。
コンビニの袋を手に提げた凡人は、店内にいるときとは打って変わって、地下の繁華街を、迷いのない足取りでさっさと歩いていきます。
こちらに来て丸2年が経った私も、この複雑で広い地下街をようやく把握し始めたところです。対抗意識を燃やそうとしたら、3分ほどで、彼は地上に出ました。
それから道路を渡って、大手百貨店の裏口に向かい、従業員入り口から中に入っていきました。彼はいつも私服なので、そこで何の仕事をしているのかまではわかりませんが、仕事場は突き止めたわ、と、ちょっとやり遂げた気分になりました。防犯カメラの映像はプリントアウトして置いてあるし、もし何かあったとしても、それを持ってここへ来れば正体がわかるはず、とサスペンスドラマの主人公のようにしばらくその場に佇み、従業員入り口を見つめました。
店に帰って、皆にそのことを報告しましたが、彼女は、だからなんなの、とは言いませんが、納得のいかない様子でした。それもそうで、何かあってからでは遅いからです。
一応、社員(男ばっか)で話し合って決めた対応策ですが、何もしない、というその手段に、彼女はあきれているようでした。
「主人に話したら、そんなとこ辞めたら? と言われました」と、少し強めに笑います。
私以外の男性スタッフの反応は、どちらかというと凡人に寄り添う感じで、週に一度、仕事の昼休みに近所の気になる女性の店員を見に来る、ということであれば、そんなひどい話ではないんじゃないか、むしろ牧歌的で好感すら持てる、といった具合です。
だからオレはヤダって言ってんだよ、という彼女の叫びが聞こえてきそうな、見事なすれちがいです。
というわけで、翌週やって来た凡人に、私は誰にも断ることなく、声をかけました。
「すみません」と言ったとたんに、「あ、変ですか?」と聞き返されました。
思わず吹きそうになって、それを抑えたら、「というか、あの、前々から、ウチのスタッフがみな、気にしていまして・・」と、とても曖昧で、けれどその「変」という自覚を捕らえて離さないような思いが、勝手に口から出ました。
ウチのスタッフに何か御用ですか、という台詞は考えましたが、急にそれを言うのは変じゃないか、と事前に他のスタッフに指摘を受けていたので、特にどう言おうとは考えていませんでした。
おずおずと切り出したせいか、凡人もおずおずと「ダメですか?」とまた聞いてきました。なんでしょう、具体的な内容は出ていませんが、すでにすべて伝わった模様です。
よかった・・と、どこかほっとしながら、「というか、みなが気にしていまして・・」と私は同じことを繰り返して、「すみませんが・・」と言葉を途中で切って頭を下げました。
すると凡人も会釈をして店を出て行きました。
それから3ヶ月経ちましたが、凡人は姿を見せなくなりました。
私は同調圧力を使ったのかしら・・、とあとで思いました。それは、私が周囲から掛けられていた技かもしれません。
その後、彼女に何事もなく、結果うまくいってよかったのですが、これからはもっと早く対応しなければ、と思っていたら、今度は夜の学生のアルバイトの女の子から、同じアルバイトの年上の男性スタッフが、ラインを頻繁にして来るので返事に困る、あと、頭をぽんぽんしてくるのも止めて欲しい、と苦情が入りました。
口説かれているわけではないけれど、対応に困っている、ということです。「親に言ったら、そんなところ辞めたら、と言われたんですけど・・」と、前にも聞いた台詞が飛び出しました。
辞めないでそんなことで、というか、止めるのはあっちでしょう、と、「注意して(行為を)やめさせるわ」と、翌日に彼を呼び出して話しました。
彼女と仲良くしていると思っていた彼は、驚いていました。私は、そのことには驚きませんでした。彼は、それらの行為をやめることを了承してくれました。
翌週、彼女にその後の様子を聞いたら、「もう、大丈夫です。ありがとうございました」と笑顔でお礼を言うので、安心していたら、そのまた翌週に、「今度の出勤を最後に辞めたい」と彼女がラインで言ってきた、と彼から聞いて、驚きました。ライン、って・・あなたたち、続いているの?
その夜、直接電話で、彼女から理由を聞けば、来月から資格を取る学校に行くことが決まったため、ということでした。彼のことは原因ではない、と言います(何度か確認してしまいました)。
もともと辞めたくて機会をうかがっていただけなのか・・、もやっとしたまま、受理しました。
そして彼女は最終日に、「働きやすい職場でした」と笑顔で私に言いました。
解決していなかったかもしれません。
(終わりです。が、今後も何かありそうです)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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