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「妄想が特技」

茶屋ひろし2015.05.28

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前回に引き続き、コミック店の改変は、新しく店名をつける、というところまでやってきました。
昔から名前をつけることが苦手です。奇をてらったものでも、ありきたりのものでもなく、という設定ですでに白旗をあげてしまいます。
困ったときは人に聞こうと、スタッフの人たちから名前を募集することにしました。
奇をてらうのが好きな副店長からは、「こみっくぼったくり」とか、「こみっくごーるど」という案が出ます。なぜ、ひらがな、それにゴールドって、「漫画ゴラク」の隣になかったっけ・・。そう、コミックなんとか、にすると漫画誌になってしまう可能性にも気を配らなければいけません。
そしたらと、私は思いつく限りのありきたりな店名を羅列したアンケート用紙をつくりその中のどれかを選んで貰うことにしました。その最後に、自分で思いついた名前があれば書いてくださいと空欄を設けます。
まんが王国マンガ天国コミックランド・・およそありそうな名前を20個くらい並べました。書店員のみならず出版部の人たちも巻き込んで、あれでもないこれでもないと2週間かけた結果、社長の一声で、編集部から出た「コミックステーション」とあいなりました。
久米宏のニュースステーションのテーマが頭に鳴りながら、もう少し愛嬌のあるほうがよかった、とがっかりしました。
まあでも、ミュージックステーションも長生きだし、ここは駅前だしね・・と前向きに捉えようと頭を切り替えながら、看板屋さんに受注するためのデザインを考え始めました。走っているような字体はどうかしら、とインターネットで検索をかけたら、「コミックステーション 鶴橋店」が出てきました。
あった・・、とクリックすると、そこはいくつかチェーン店を出しているネットカフェでした。そういえば、名前を考えるときに既存店のことを一切確認しませんでした。
アニメイトや虎の穴など、有名どころは大体知っているし、という、そのレベルと自店を並べて語る驕りと怠慢のせいです。
ということで、他に得票数の多かった店名を次々に検索のふるいにかけると、そのほとんどがすでに使用されていることが判明しました。そこで仕切りなおしというか、私が静かに温めていた名前を披露するときがやってきました。フォントや色を考えて今までも小出しにプレゼンしてきましたがスルーされてきたものです。その名前をここで言うわけにはまいりませんが、けっきょくそれで押し切る形になってしまいました。
今の名前も前任の店長が押し切ったと聞きます。ずっとその名前が恥ずかしくて仕方がなかった、と当時のスタッフたちから聞きました。にもかかわらず・・。
年末にお客様へのアンケートをとったときもそうでしたが、様々な声を聞いたとしても、方針や名前などは最終的に絞らなければいけません。
それがアンケート結果と違った場合、「私の意見はなんだったのさ」とむくれる人が出てきても仕方ありません。
「あくまで参考としてちょうだいしました・・」とお茶を濁しているだけでは納得していただけないので、決定事項の理由を毅然と述べる必要が出てきます。
毅然と・・、このあたりで述べているこちら側としては詐欺をはたらいているような気もしてきます。なぜなら、それはまだ実行されたことのない話だからです。けれど、こうしたらこんなふうになるはずです! と自信を持って言わなければ、誰も賛同してくれません。
それで、賛同とまではいかなくても、「まあ、そこまでいうならやってみたらいいんじゃないの」と平たい目つきでいわれる感じに落ち着きます。
そんなコミック店のアルバイトの面接では、ある日、履歴書に「特技は妄想です」と書いてきた男子がいました。19歳のその肌はもっちりしていて、直毛の前髪が両目に軽くかかっています。その雰囲気は、『3月のライオン』(羽海野チカ、白泉社、毎巻泣く・・)というマンガに出てくる二階堂という棋士に似ているので、二階堂とします。
最初に履歴書をぱらっと見た段階で、もうその箇所を突っ込んで終わりにしていいわ、と思いましたが、そういうわけにもいかず、副店長が必要事項を確認している間にむずむずしていました。
はいどうぞ、というときに、「妄想が特技ってどういうこと? 普通の生活に戻るために働きたい、って書いてあるけど?」と、愉快で顔がほころぶのを止められずに質問しました。
チャ、っと擬態語が出るように二階堂は前髪を片手で払って、「小説を書いてるんですよ」と言いました。前髪は一瞬で戻ります。「どんな?」
するとちゃんと嬉しそうに、誇らしげに、「内容は、シュールっていうか、哲学的なので、人には理解されにくいんです」と言いました。
可愛い・・たまらん、と胸の中で悶絶しながら、ああ、そしてここがギリ・・と感慨にもふけっていました。
どうぞこのまま大人にならないで、その特技を人々は求めている、そんな俺はいつまでもすごい奴でいられる、というループから、できるだけ早く抜け出せますように・・、と祈りながら、「来週月曜日の夕方6時に、採用の方のみお電話いたします。お電話がない場合はご縁がなかったということで・・」という副店長の声を、チャ、っとする二階堂といっしょに聞いていました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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