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「仲間おろし」

茶屋ひろし2015.08.05

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職場の書店では、又吉直樹の『火花』(文藝春秋)が大変よく売れています。一週間で軽く100冊を超えました。今までにない速さです。新規のお客さんも来られているように思います。
近隣の書店でも売り切れていたりするため、「あそこにあったで」みたいな情報が出回っているのかもしれません。
ただ、その冊数を仕入れるだけの力はウチにはありません。電話で直接50冊注文しても、店の規模と売り上げ実績によって、コンピューターかなにかで減数調整されてしまって、5冊とか、10冊しか入りません。
けれど場所は梅田なので、そんな数ではすぐになくなってしまいます。
なので、組合価格で卸してもらえる大型書店へ仕入れに行くことになります。仕入れと言っても、事前に用意してもらうわけではなく、一般客と同じように棚から取ってレジで会計をします。
この一週間でほぼ毎日のように20冊、30冊と仕入れに行っていたら、さすがに店員さんから声がかかりました。
事情を知らない人からすれば、なんなの、このひと、になるでしょうか。
「この商品は大変人気となっておりますので、おひとり様1冊でお願いします」
と、咎める目つきで言われました。
私は組合卸の話をして、文芸書担当の店員さんからその日の入荷数を聞いて、30冊のところを20冊に減らしました。
すみません・・と微妙に謝りあいます。
大型書店でも減数調整されていて100冊の入荷、でもウチは10冊よ、とつい比べてしまいます。都心でこれなら、市外のたとえば駅前の個人経営の本屋で1冊入るか入らないかでしょう。
全国では年間数百単位で本屋が閉店していると聞きます。原因はここにあるように思います。限りある刷り部数をフェアに分配しようとして、末端には届かなくなってしまう。大型書店だけではなく、大半はアマゾンに流れているんじゃないか、と思います。書籍の年間売り上げでは紀伊國屋を凌駕しているそうです。
百田尚樹の『殉愛』(幻冬舎)や、『絶歌』(元少年A、太田出版)、ピケティのときも他店仕入れに走りましたが、こんなに走っているのは初めてです。これで、ウチがお客さんにとって「使える書店」になってくれたら助かります。けれど、今回の大量仕入れで、組合のルールも変わるかもしれません。あんたなんか仲間とちゃう! となって、仲間卸(と言う)がなくなるか、一店舗10冊までと制限がかかるようになるか・・。
書籍だけでは厳しいと言われる中、ウチもようやく文房具を仕入れるか、という話になりました。社長のツテで、文具を仕入れている東大阪の書店に話を聞きに行きました。
郊外の住宅街で、駅を降りて歩き始めるとすぐに小学校と中学校が見えて、マンションや団地も現れます。
文具といっても、この地域だと、学校や家で使うものが中心になりそうです。
この春から文具を始めたというその店の店長さんは、実は老舗の文房具店がこの近所に3店舗あるので、ベーシックな商品だけではなく、ちょっと変り種の文具を中心にそろえている、と話してくれました。他店への遠慮もあるようです。
そこのお店はチェーン店のフランチャイズで、80坪の二階建てで店内は広く、店の前の駐車場も同じくらいの広さを確保していました。
文具の売り上げは好調だという話の中に、その老舗の3店舗が、軒並み売り上げが下がっていて、その原因のひとつに、「入りにくくなってしまっているからではないか」という推測がありました。
売り上げが下がる、古い在庫が増える、店主の顔が厳しくなる、お客が入りにくくなる・・。切ない話です。他人事じゃありません。
こういうことって、文房具屋と本屋だけの話じゃなくて、たくさんの商店街で起こってきたことではないでしょうか。
イオンモールめ・・。
店内が明るくて広くて商品が安くてたくさんあって匿名性がきくところに人は集まるのです。
せめて大型店は市にひとつかふたつにしてほしい・・、と思いますが、たくさんの雇用も生み出しているのか・・と唸って、でもその大半は非正規雇用で、業績が悪化したら大型店は撤退も早いし・・と先行きは暗い。
商店を軒並みつぶして、撤退されたら、あとには何も残らないじゃありませんか。アマゾンだけで人は生活できない・・と思います。
私はいま、梅田からちょっと外れたところに住んでいますが、その間にある町は昔ながらの路地や町屋が残る住宅街で、そこにカフェや雑貨屋、美容室など、若い感じ店がたくさんできて賑わっています。
同じ小売でも、オリジナルを売っている店は、時間の流れ方が違うように思います。
ベストセラーを仕入れるのはこの商売の義務としてやっていますが、『火花』に頼らなくても経営が成り立つように持っていくべきなのか、書店流通の仕組みを変えようと働きかけていくべきなのか、などと思いながら、それでも一点集中型の消費の力には圧倒されてしまいます。
『殉愛』は読みましたが、『絶歌』と『火花』は最初のほうしか読んでいません。店のことで考えることが多くて読書に集中できないようです。読みたいけれどもしかして、仕事のほうが面白くなってきているのかもしれません(!)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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