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「プラカード 1 」

茶屋ひろし2015.10.28

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週末に、地元の同窓会に誘われました。医者になった同級生がこのたび独立することになったそうで、そのお祝いを兼ねて、ということでした。
小学校6年生のときのクラスメイトが数人と、担任だった先生も集まりました。
子供のころからすでに、顔が良くて頭もよくてスポーツも出来た彼でした。リアル出木杉君です。しかも鼻やあごの線がシャープで、漫画の人よりは、もう少しシュッとしたイケメンでした。
大阪に帰ってきてから、何度か参加した同窓会ですが、いつも彼の姿は見当たりませんでした。その代り、女子たちの話題には必ずのぼっていました。当時、彼を好きだった子も多いようです。
小学生の私はまだ性的に未分化な状態で、好きな女の子がいましたが、今にして思えば、彼は別格にしていたような気がします。

それは見に行かないと、といそいそと出かけることにしました。脳外科医と聞いて、出木杉君がブラックジャックに変換されます。なんということでしょう、
そんな人物に近しいふりして会えるなんて。

前回の集まりで女子が放った、「せめてハゲていたらいいのに」という一言に受けました。相手のレベルが高すぎて、それくらいのことがないと、会ったときに心のバランスが取れない、という理由でした。
けれど幾らお給料を貰っているとお思いか、禿げても一瞬で植えることができるはずです。
もしくはあの顔なら、禿げ方にもよりますが、ダンディーに見えるかもしれません。

そういえば昔「ハゲ差別」について書かれた本を読んだことがありました。頭髪の減少は男性に多く見られることから「男性差別」にもつながるとの展開にはうなずけませんでしたが、身体的特徴を貶めることはいけないわ、と笑った端から思います。ただなんとなく、女性の脇毛問題と同様に、この国で暮らす人の、毛という生理現象に対するコントロールフリークの問題のような気もしています。

ともあれ、細身のスーツの内側にベストまで着こなして登場した姿は、当時のイメージを破壊するものではなく、減少していない頭髪が癖毛だったことに、そうだったね、となつかしさもよみがえりました。

新しく開業する病院の、受付の人や看護師の面接をしていて遅れたと、向かいの席に着いた彼にビールを注ぎながら、私もさっきまで本屋で面接していたわ、ということをすぐには言えず、もうちょっと酔ってから言おうと思いました。

また18、19、20歳くらいの男女と出会い続ける面接を始めたばかりでした。
ネットで募集しているせいか、圧倒的にこの世代がアクセスしてきます。
実際に会ってみると、同い年でも、男女で受け答えはかなり変わります。男子は、ぼんやりしすぎです。
特に大学生だと、何しに来たの? というくらい覇気がない。専門学生やフリーターのほうがまだ会話になります。ところがその日は久しぶりにヒットした男の子がいました。マンガ好きなのに恰好が小ぎれいで生き生きとしていて会話が弾む、そしてイケメン・・。

やっぱ、イケメンはいいわ、眼福がんぷく、とそんなことを思って、「受け付けの女の子を顔で選ぶな、と嫁に言われてさ」と目の前で笑う同い年のイケメンに、まあそれはどっちでもいいんじゃない、なんて言いながら、またビールを注いでました。

そのまま酔いつぶれて近所の実家に帰った私は、翌日の日曜日、京都へ行くために昼過ぎにようやく起きました。
今年初めての木枯らしが吹いたんやって、と母親に言われて、一日で急に空気が冷えたことに気が付きました。着替えに持ってきた服では夜にはもう寒いかもしれないと思いながら、近所の駅に向かいました。

電車に乗って向かいのドア付近に立って、しばらくしたあと、ふいに斜め後ろに大きな白い拡声器を発見しました。その前に座ってスマホを見ている坊主頭のスーツ姿の男性は、川東という人物でした。ネットの情報によると在特会の元幹部(?)です。地元が同じことは知っていました。顔を認識できたのは、彼をインタビューしたシーンのある『ヘイトスピーチ』というドキュメント映画を見たことがあったからです。

彼の顔が画面上に広がり、しばらくそれを眺めざるを得ませんでした。何を話しているのかはちっとも頭に入ってこなくて、こんな人がクラスに一人はいたような気がしました。年は彼のほうが幾つか上のようです。

その日は午後から在特会らが円山公園でヘイトスピーチを行い、そのあとデモまでする予定でした。私はそのカウンターに行こうとしていました。行き先が同じなわけです。どうしたらいいんだろう、と思いました。ここで行く手を阻めばいいわけ? でもどうやって・・。ナンパするにはタイプじゃなさすぎて立ちくらむ思いです。

とりあえず跡をつけようと思いました。特急に乗り換えて、少し離れて拡声器が見える位置に座りました。円山公園は八坂神社の隣にあるので、降りる駅は「祇園四条」ということになります。昔はただの「四条」でしたが、こちらに帰ってきたときに観光を意識した駅名に変わったことを知りました。
秋晴れの日曜日で、京都行きの電車の中は混んでいます。
彼がスマホを見ていたことを思い出して、ツイッターで彼の名前を検索してみます。それらしき画面が出てきましたが、なんだか同じ内容ばかりが続いていて、そういうことに詳しくない私は、気持ち悪い、と画面を閉じてしまいました。車窓から見える青空や車内で談笑する人たちの姿を見ながら、その穏やかさと浮かない気持ちのアンバランスを抱えます。

あの殺伐とした世界を持つ人も乗せて、同じように目的地まで電車は運ぶのね・・、と南野陽子みたいな歌にしようとしても落ち着きません。
四条に着いたとき、拡声器が動くかどうかを席から首を伸ばして確認します。動かない。
次の三条で降りるのだとわかりました。
こんな私にまで知られている有名人だもんね、拡声器、目立ってるし、それでも人目を忍ぶのでしょう。

(続きます、すみません)

*参照映画
『ヘイトスピーチ』監督 佐々木航弥 (大阪芸術大学卒業制作、2015)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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