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「官能小説の行方」

茶屋ひろし2016.06.13

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 先日、近所の業務用スーパーで買った4袋入って298円のレトルトカレーがおいしくなくてショックでした。
 まずいカレー、というものを想定したことがなかったからです。
 保存料の風味でした。
 同じ店に売っている、3リットルで1480円の箱型ワインも保存料多めなのか、二日酔いまで行かなくても翌日は頭がぼーっとします。脳みそに澱が溜まっているような感じです。

 異業種の話を聞いてみよう、という、ある書店のセミナーで「福島屋」というスーパーの元社長で現会長さんの話を聞きました。
 青梅市でご両親がされていた酒屋を引き継ぎ、それをスーパーにして、40年間黒字経営で、その秘訣が近年マスコミに取り上げられて、このたびは六本木や秋葉原などにも進出を果たしたという、とんとん拍子のお話でした。

 商品自体はちょっと高めの値段設定だけれど、生産者の顔が見えているものしか取り扱わず、できるだけオーガニック&無農薬のものをそろえている、野菜に含まれる窒素の量を十数年表示し続けて、原発事故のあとは、放射能測定器を2千万で即座に購入、お客様に向けて、「福島屋」なら安心、というブランド化に成功している、というようなお話でした。

 他業種とのコラボレーションをもっと進めていきたい、との展望で、書店は魅力的と話されていました。
 今のツタヤグループとはすぐに組んでいけるそうじゃない? とどこか他人事のように聞いていました。
 なんとなく頭にひっかかっていたのは、書籍をすべてオーガニックにするわけにはいかないわ・・、という思いでした。よくわからない例えで恐縮です。

 年末に、官能小説の文庫を万引きした72歳の男性を捕まえてから、文庫の棚の並びにあった2本分を、レジ近くのエロ本コーナーと抱き合わせる形で、場所を移動しました。
 すると、万引きはなくなりましたが、売り上げが激減しました。
 最初の内は、エロの吸引力ですぐに客が戻るはず、と、「棚を移動しました」と書いた紙を張り付けただけで楽観していました。
 ところが、一か月たっても二か月たっても、なかなか、かつての売り上げまでには回復しません。
 ああ、ここはもう置かなくなった、と棚を探せなかった人が、そんなにいたのか、と考えましたが、違いました。

 場所が悪くなったのです。そこの場所は雑誌コーナーの一角で、いきなり官能小説の棚がどんと2本できたわけです。
 その場所にいるということは、目的がそれだと周囲にばれてしまうわけです。

 確かに、文庫の並びに置いていた時は、立ち読みする人は自在に移動して、岩波文庫の前で読む人が多発していました。
 その光景にも、あの人たちは買う気がないのだわ・・なんて思っていましたが、これも間違いでした。
 買う人は必ず中身を確認するものだそうです。

 そのことは、エロ漫画を大量に扱っている書店の店長さんに話を聞いたときに教えてもらいました。そこでは新刊がどのタイトルも山のように積まれていて、必ず一冊は見本用にシュリンクされずに置かれていました。
 「エロ漫画は実用書なんです」とその若き店長さんは言い切りました。
 「中身を吟味して買っていくお客さんがとても多いです。微妙な違いが購入基準に関わります。私どもも、ゆっくりご自分の性的嗜好にあうものを選んでいただきたいと思っています」

 週末にまとめ買いをされる方が多いそうです。
 そのお店は、漫画専門店でしたが、女性向けの漫画はほぼゼロで、『ワンピース』の新刊が10冊しか売れない購買層なので、場所的にも買う人にとっては滞在しやすいのだと思われました。

 そうか、そんなにデリケートなジャンルだったんだわ、と反省して、売り上げもほしいので、先週棚を元の文庫の並びに戻したところでした。申し訳ございませんでした。

 近いうちに改装も考えていて、それこそ、オーガニックでお洒落な内装にしてみたい気もしますが、じゃあ、こうしたジャンルはどうするのよ、と悩ましいところです。あまりお洒落にしすぎて(って、そんなことができるかどうかはおいときまして)、これまでのウチのお客さんが離れて行っても困ります。ただ、ツタヤチェーンにも見られるように、大手書店がイメージ戦略で下世話な本を排除していく傾向を見ていると、それを手放すことも考えられません。

 スーパー「福島屋」ではプライベートブランドも展開していて、保存料をできるだけ使わない製品をつくるのにとても苦労したと、会長さんがおっしゃっていました。ハムをつくる過程では、最後に「亜硝酸塩」を抜く許可を得るまでに時間がかかったそうです。
 「より良い生活」のお手伝いをするためには徹底する、という経営理念をお持ちでした。

 なぜそれとこれを並列で語っているのかよくわからなくなってきましたが、ウチのお客さんにとっては、官能小説が切り取られているより、さりげなく売っていることが大事だったわけで(あ、それがお洒落ということか、違うか、どうでしょう)、私は出しゃばらず、自分勝手にあまり思い込まないようにしなければいけません。保存料にやられている場合ではなかったのです。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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