ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

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遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
ラブピースクラブは去年、20周年を迎えられました。女性が主体的に、安心して性を楽しめる場をつくりたい、という思いで始めた会社です。とはいえ、ではそれはいったい具体的にどういうことなのか。改めて突きつけられた一年でもありました。「性」を巡る物語が、暴力的に、そして冷たいものに感じることが、かつてないほど多かったように思うのです。それは、何故なんだろう。そんなことを友人たちと語りあい、また多くの方にお話を伺い学ぶ一年でした。
年末に佐藤優さんとの対談本「性と国家」(河出書房新社)を出しました。いったん自分の仕事を強制終了させられるような体験を2014年冬にして、それから2年近く、「性」の問題も、「権力」の問題も、自分の中で再構築しなければ前に進めませんでした。それでも尊敬できる友との時間や、佐藤優さんとの対談を通して、楽しみながら世界を考える自由を取り戻せてきたように思います。
見えていないこと、言葉にできていないことも多いけれど、今年は丁寧に書いていく、言葉にしていく、見ていく、を目標にしたいと思います。よろしくお願いします。

さて、もう一月も大分過ぎてしまいましたが、皆さん、御正月はどのようにお過ごしになりましたか。私は大晦日からずっとソウルにいました。
ソウルでは今、朴槿恵政権への抗議のため毎週土曜の夜には光化門前に市民がキャンドルを持って集まっています。土曜日が大晦日と重なったこの日も、光化門前の巨大広場(幅34メートル×長さ557メートル!)、さらに12車線の道路全て塞いでもなお人の波が路地に溢れるほどの熱気に満ちていました。ちなみにこの日の気温、マイナス4度。正直、ちょっとだけ見てすぐに帰りましょ・・・というくらいの気持ちで出かけたのだけど、これが思いも書けず“楽しい“集まりだったのです。


seoul1.jpg光化門前に設置された巨大ステージでは次々にスピーチやライブが行われていました。誰もが知る有名な歌手がステージに上がったときは、街が揺れるほど歓声があがり、夜空を照らすライトは眩しくて、隣の人と手を取り合って大きな声をあげたくなるような気持ちに。それはデモというより、真夏のフェスのようでした。温かい食事を出す屋台や、コーヒーショップも充実していて、子ども連れの親子や、若者や、高齢のご夫婦など様々な世代の人々が集まっています。驚くのは20万人近くいるはずなのに、誰も交通整理しておらず(日本だったら拡声器もって交通整理する人が絶対にいるところ)、怒声もなく皆穏やかで、キャンドルを持ってすれ違っているのに危険な空気も一切なく、ゴミも散らかっておらず、不思議な秩序を保っていたこと。鼻の奥が凍るような冷たい夜なのに、あまりに明るく優しい雰囲気に、結局3時間以上その場で盛り上がってしまいました。


権力への抗議のデモで行われるのがシュプレヒコールだけでなく、歌や踊りにお芝居やパフォーマンス・・・といった韓国のお祭りっぽいデモ文化は、日本ではなかなか馴染みのないものです。実はこれ、日本軍「慰安婦」の被害者とその支援者たちがつくってきたとも言われています。私も何度か参加したことがありますが、ソウルの日本大使館前には、毎週水曜日になると日本軍「慰安婦」被害者や支援者が集まります。中学生から老人まで数百人が集う場で行われるのは、歌や踊り、芝居、そして丁寧な語り。芸術性が高いパフォーマンスから、子どもたちによるKPOP風なダンスなど、思いと言葉を届けるためには「怒りの言葉」だけではなく、伝えるための「表現」がどれほど重要なのかを突きつけられる1時間です。


92年の1月から決まった時間に、彼女たちは立ち続けてきました。以来欠かさずに続けてきた集会を初めて休んだのは、阪神・淡路大震災のとき。大使館前での抗議を「反日」と言いたがる人はいますが、東日本大震災の時は追悼集会を開き、去年の熊本地震の時は、被害当事者である金福童ハルモニ自ら募金を呼びかけていました。ときどき「独島は韓国固有の領土」と勇ましいプラカード持つオジサンが周囲をうろついているのだけど、こういうオジサンは人権と平和を訴える女たちの集会で完全にアウェイ。ホント、場違い、としか言いようがない感じだし、全く相手にされてない。
水曜集会が始まったばかりの90年代前半の映像を見たことがあります。そこには、たった数人の女性たちが「日本政府は謝罪しろ!」と声をあげ、街行く人は関心を見せず足早に前を通り過ぎていく様子が映っていました。「恥ずかしい過去を何故語る?」というのが当時の韓国社会のフツーの眼差しだったといいます。
そういうなかで、四半世紀、女性たちは日本大使館前に立ち続けました。「これは女性の人権の問題なのだ」と訴え、韓国内の世論と、国際社会の意識を変えていったのです。
「戦争があれば、悲惨なことはいくらでもある」
そう言いたがる人はいるでしょう。でも、許してはいけない、忘れてはいけない、二度と繰り返してはいけない! と、最も痛みつけられた女たちが、国家権力に丸腰で、素手で、「謝れ」と闘いを挑み続けた。「恥ずかしい女」という同じ民族からの蔑みのなか、「お金が欲しいのか?」という日本人からの暴言を浴びながら、「忘れない」と言い続けた。歴史上はじめて戦時の性暴力を告発した女たちの闘いを、私は大げさではなく、フランス革命に匹敵する革命、人権のための命がけの闘いだったと考えています。ほんとに、そう思ってる。


そんな女たちの闘い、その千回の集会を記念して2011年に創られたのが、「平和の碑」(一般に「少女像」と呼ばれている)。日本大使館前にあることに文句を言う人もいるけれど、四半世紀もの間、彼女たちが闘い続けてきたその場は、「日本大使館前」というよりは、もう十分に彼女たち自身の記憶の場になっていたはずです。
彼女たちがこれまで一貫して求めてきたのは、事実認定と謝罪と賠償、そして記憶継承のための教育と再発防止措置です。「忘れてはいけない」と言い続けてきた女たちにとって、彼女たちの要求を無視した一作年の「日韓合意」は、当然受け入れられないものでした。日本の言論人の中には日韓関係をまるで夫婦げんかみたいに捉え「一方が謝ったのだから、一方がいつまでも許さないのはどうなのか」みたいなことを言う人がいたけれど、問題は「日韓の政治関係」ではなく、女性の人権の問題なのです。しかも被害者と支援団体がつくった「平和の碑」についてまで言及されたとなれば、反発が大きくなるのは当然でした。
今、大きな話題になっている釜山市にある日本領事館の前の「少女像」は、「合意」後、日韓政府への抗議として主に大学生たちが主体となって企画しました。そう、韓国では今、本当に若い世代がこの問題に強い関心を持っています。ソウルの大使館前には「合意」後に「平和の碑」を守るために学生たちが零下の中、泊まり込みを続けているほど。釜山でも女子大学生が中心になって、人々を動かしました。


最初は設置を許可しなかった釜山市東区の区長と市民の間で、激しい軋轢がありました。その段階で日本領事館が「建てたら日韓関係がどうなるかかってますよね」という内容の圧力をかける手紙を東区長に送ったことから、多くの市民たちの怒りの炎に油を注ぐ結果になってしまった。ここは誰の国だ? 主権はどこにある? そのような釜山市民の怒りを、いったい日本の誰が責められるというのでしょう。東区と釜山市民の闘いを一気に「日韓政治問題」に発展させてしまったのは、日本領事館側でした。日本の圧力によって釜山の「少女像」設置は一気に早まり、また、「少女像」の周りは、まるでそこが日韓の争いの現場であるかのような空気がつくられていきました。
釜山の「少女像」は、ソウルの日本大使館前の「平和的の碑」とは、設置の背景も設立した団体も違います。「少女像」がこのように「日韓関係」を象徴するような像として捉えられることが、正直、私は悔しいし、今後は「竹島」にも建てるという声を聞くと、女たちの運動の象徴であった「平和の碑」が、どこに向かうのか不安な気持ちにもなります。それでも私は、「撤去せよ」「建てるべきじゃない」とは言わない。言うべきではないと思う。例えどんな理由であっても、国家の横暴に「それは違うだろう」と声をあげる権利がどの国民にもあるはずだから。なにより釜山の日本領事館前の「少女像」は、韓国の民主主義が機能している証なのだから。
日本のメディアは「国家間の約束を韓国が反故にした」とまるで日本が被害者のように報道している。それでも、ここは冷静になりたい。「忘れさせよう」とする国の力と、「忘れてはならない」と考える人々の声。どちらに私たちは寄り添うべきなのか。なにより私たちが今問うべきは、「合意」の行方などではなく日本の民主主義そのものであるということ。そのことを、「少女像」を巡る日本の過熱報道から思う。
ということで、今年は、東方神起が徴兵から帰ってくるし! 良い一年にしたいものです。日韓平和を祈るような気持ち。「性」の問題に直視し、「過去」を直視し、「国家権力」を吟味し抵抗する力。そういうものを身につけたいものです。今年もよろしくお願いします。


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※週刊朝日(1月25日号)の「ニッポンスッポンポンNEO」の記事に加筆しています。
※「平和の碑」の写真はソウル日本大使館前2016年9月某日水曜集会にて。著者撮影。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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