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#WithYou の声を#MeTooと共にあげていこう。もう、諦めない、黙らない。何故なら、それは性暴力だったのだから。

北原みのり2019.04.01

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伊藤詩織さんに出された反訴状を読んだ。
性暴力被害の事実認定と慰謝料を求め民事裁判で訴えている伊藤さんに対し、被告側代理人(弁護士)から出されたものだ。1億3千万円の請求や謝罪広告要求といった内容にネットでは批判の声が多く見受けられるが、私が最も衝撃だったのは反訴状を書いた代理人の性暴力問題への無理解、無知のすさまじさだった。ここは、中世か、魔女狩りか。おそらく、この代理人はフェミニズムや性暴力問題関連の本を一冊も読んだこともなく、性暴力問題の現在進行形に、まったくついていっていないのだろう。その反訴状は、女性嫌悪に貫かれた、画に描いたような強姦神話のテキストそのものだった。

反訴状を読み具合が悪くなるのではないか……と懸念していたが、それは一読しただけでは、私の心身には起きなかった。あまりにもお粗末だったからだ。洗練された論調で、硬直した司法の言葉で被害者を糾弾するものであれば、息苦しさに胸を押さえたかもしれない。が、正直なことを言えば、私は反訴状を読みながら思わず吹き出しもした。もし、これが裁判所に“まとも”に採用されるとしたら、日本の司法は相当まずい状況だ。しかしすでに相当まずい状況なのかもしれないので、やはり油断してはいけないのだろう。
これが私たちの生きている日本社会のひとつの現実なのだと、直視したい。

反訴状には、男がいかにすばらしい経歴を重ねてきた人物であるか、そのことにページが費やされている。一流大学を卒業、一流企業に入社、輝かしい仕事と名声の数々だ。一方、代理人は伊藤さんの人生を数行でまとめる。無名の、無職の、特筆すべきことのない若い女。社会的信頼の高い男 vs 無名の若い女と、わかりやすく対比させている。
さらに代理人は、伊藤さんをパーソナリティ障害であると断定する。なぜならば、被害者らしくないから、と。被害者ならば記者会見で笑うはずがない。加害者を実名で告発するなどあり得ない。性暴力被害者なのにあまりにも性暴力被害者の像からかけ離れている。つまりはこの人はパーソナリティ障害なのである、と。
また代理人は、伊藤さんが美人であることを複数回記している。美人が言うことに社会は同情するのだといった論調だ。それはご自身の価値観なのだろう。

これが弁護士の書く文章なのか……と言葉を失いつつ読み進めているなか、あまりのことに吹き出したのは事件当日について記述している箇所だった。激務が続く40代男性にとっては娘のように若い女性と性交するより、”眠りたいと思うのが人情”ということが記してあった。
「人情」である。疲れているから休みたい思うのが人情なのだから、性交目的でホテルに連れ込むはずがない、レイプするはずがない、と言っているのである。

男の立派さ、男の判断、男の人情……。それだけ、で押し通そうとする反訴状。それだけで”通じてきた”社会に生きている人たちによる世界観。お粗末、哀れ、そして強烈な性差別。



「強姦神話」という言葉は1970年代のフェミニズムから生まれた。
先日、性暴力問題を取り上げた「ニコ生」で同席した信田さよ子さんが番組中に、「昔は性暴力という言葉もなかった」と仰っていたが、合意なき性交を「これは性暴力だ」と言葉にしてきたのは、被害者の声、そしてその声と共に闘った支援者たちの運動だった。

女性の貞操が奪われるから強姦が犯罪なのではない、他の男の所有物を奪うから強姦が犯罪なのではない。女性が望んでいないことを強いたから、それは犯罪なのだ。

そのように、「強姦」の意味を変え、それまで信じられてきた「常識」を、「強姦神話」と名づけ過去のものにした。さらに刑法のありかたを問い、被害者が救済される医療、社会的制度、行政の関わり方など、被害者救済のシステムを形成してきた。それは社会の価値観を変え、新しいシステムをつくる運動だった。

先日、友人が、こんな話をしてくれた。もう30年以上前の話だ。アルバイトの帰り、店の男に車で家まで送ってもらうとき、男が彼女の家とは違う方向に向かい、山道に入り暗闇で停車した。そして「舐めて」と言ってきたという。笑ってごまかそうとしたが、男の真剣な顔に彼女は諦めるしかなかった。彼女は長年それを「性暴力」だと考えなかったという。なぜなら自分が選択したから、と。警察に行くなど発想もなかったという。なぜなら自分が男の車に乗ったのだし、抵抗もせず、車から降りなかったのだから、と。でも、違うのだと気がついたと彼女は言った。先日のニコ生を観て、性暴力問題に取り組む女性たちの話を聞きながら気がついたと、こう言った。

「圧倒的に不利な状況で行為すること自体が、性暴力なんだよね。私が体験したあれは、性暴力だったんだ」と。


30年間、心の奥底でずっと「あれは何だったのだろう」とくすぶってきた記憶。そういう記憶に名がつけられる瞬間。それが #MeToo なのだと思う。あれは、性暴力だった。なぜなら、私は望んでいなかったから。あのとき声をあげることはできなかったけど、でもあれは、性暴力だった、と。
性暴力問題は生きているのだと思った。成長し続けている。それはこの問題自体が、被害者の声が社会に放たれ、そして解決に向かうために道を築いてきた歴史だからだ。それはまだ終わることない闘い。いや、それどころか日本社会においては、今、始まったばかりの闘いなのかもしれない。だから私たちは今、立ち止まってはいけないのだと思う。絶対にあきらめない、そして被害の声に寄りそう力を、今、腹にためて叫ばなければいけないのだと思う。 #WithYou だ。


[#WithYou #MeToo お知らせ]
4月10日に伊藤詩織さんの民事裁判を支援する会の集会があります。裁判の行方を社会が注目していくこと、被害者の闘いに共にあることを表明する会です。
4月11日19:00〜  都内でスタンディングデモ  「もう我慢できない、もう黙りたくない」、そういう声を、やはり出していかなくちゃと、友人たちと企画しました。仕事帰りの19時くらい、一緒に声をあげていきましょう。場所は9日に公開します。 https://twitter.com/itisrape_japan


以下は4月10日の案内です。


「Fight Together With Shiori」(FTWS)はじめます

2019年4月10日、伊藤詩織さんの民事裁判を支援する「Fight Together With Shiori」(FTWS)を立ち上げます。伊藤詩織さんの民事訴訟は現在、弁論準備手続(非公開)を重ねており、早晩、公開の口頭弁論が始まる見込みです。

#Me Too 運動が世界に拡散する中、日本でも声を挙げる女性たちが出はじめ、日本の #Me Too 運動も確実に始まっていると感じます。それでもなお、声をひそめている被害者たちがいます。そのような人々が声をあげるためには、被害者が言われのない中傷や非難を受けない、その勇気がまっとうに支持される社会が必要です。
私はあなたを信じる。私はあなたを支持する。私はあなたと共にいる。
「With You」の声が、今も声を押し殺している女性たちに届くような取り組みが切実に求められています。

「Fight Together With Shiori」は、声をあげた被害者を孤立させず、その勇気にこたえようとする人々の闘いが、被害者と共にあらねばならないと考えます。「With」の先にはたくさんの「Shiori」さん(You)がいることを念頭に、伊藤詩織さんの民事裁判をサポートするFTWSの活動を、多くの方々と共に開始したいと思います。性暴力のない社会を実現するため、共に声を挙げましょう。
日時:2019年4月10日(水)19:00~21:00(18:30開場)
場所:文京シビックセンター4階ホール

内容:伊藤詩織さんの弁護団による話、性暴力被害者支援団体による話など

Email:info@ftwshiori.com

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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