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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 子だくさんママが大臣になれる国

中沢あき2019.04.12

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ちょっと前の話になるが、東京医大が入試で女子受験生に対して減点をし、入学数を操作していたことが発覚した事件は衝撃だった。
そのニュースを目にしたのは、お腹の子が女の子だとわかった頃で、余計に暗澹たる気持ちになった。

ドイツで生まれてくる娘が将来日本で教育を受けて仕事につくという可能性はあまりなさそうだとはいえ、友人の子どもたちなど身近な人のことを思えば他人事とは思えなかった。
日本の社会にはまだまだ女性に対する差別があることは知っていたつもりだけど、それにしても医学という、勉学と経験による能力が評価されるべき職業においてこんなあからさまに差別が行われていたことにショックを受けた。

「現状としてしかたない」とその差別と差別の存在によってしか機能できない労働環境を認め、受け入れている現場の声にはさらに打ちのめされた。
実際、しかたないとしか言うことができない状況なのだろうけれども、それがこの時代においても積極的に変えていこうという大きな声が上がらなかったことに暗い気持ちにさせられたのだ。
体力勝負の現場において、体力のない女性は不利だから、または、女性は結婚や出産、育児などの理由で離職率が高いからという説明で一括してすべての女性の能力の可能性を排除するなんて、合理的とすらいえない。

特に医師のようなハイキャリアを選択するとき、女性は将来像まで見すえなくてはならない。
そこには結婚や子どもを持つという選択が対となってある。
仕事と相反してしまうのは、結婚して家庭を持つことによって、家事や育児の負担が女性側に多くかかることがほとんどだからだ。
妊娠出産が女性の側になるのはしかたないとして、その他の家事育児が女性、という従来の、男性が大黒柱という家族像がそうさせているのは言わずもがなだ。

ドイツでも医者は過酷な職業だ。
何年も前の話だが、とある女性誌で呼んだ女性外科医のインタビューをよく覚えている。

30代半ば目前の彼女の話は、夜勤のシフトや何時間にも渡る手術の大変さ、医長を始め男社会である外科医の現場で数少ない女医の立場の居心地の悪さなどと、その辺りは日本と変わらない。
休みは隣町に住む妹や友人と過ごしたりと一人の女性としての時間を楽しむも、結婚や子どもという選択につながる出会いを探したいけれども時間がないことにあせりを感じているとか、どの国でも同じ話なんだなと思ったのを覚えている。

医者だけに限らず、ドイツでも実際には女性のキャリアとプライベートはまったく相反しないとはいえない状況だ。
まだまだ女性のほうが子育てに多く時間をさく家庭が多いし、となれば必然的に休職や退職となるケースもわりと多い。
それでもドイツの女性たちは自分たちの権利をあきらめていないし、その権利を守るための法律も作られたりする。

結婚、出産を経ながらもキャリアを継続する女性医師もたくさんいるドイツで有名なのは、メルケル政権で国防相を務めるウルズラ・フォン・デア・ライエンのキャリアだろう。
2005年から第一次メルケル内閣で家族・高齢者・婦人・青少年相を務めていた彼女は、政治家に転じる前は産婦人科医であり、医大の研究者でもあった。

そして彼女は同僚だった夫との間になんと7人の子どもを持つ子だくさんママ。「スーパーママ」とマスコミに名づけられた彼女のイメージはそのポジションにピッタリだったのだが、そんな彼女が2013年にドイツ初の女性の国防相に抜擢されたときは、サブライズ人事として世間を騒がせた。
華奢で穏やかな外見の優しいママのイメージがある彼女が!? そして国防相に就任して以降、ヘアスタイルから声色までなんだか厳格な感じになって、政治家のイメージ戦略もすごいなあと思ったもんだ。
その人事発表が世間を騒がせたその頃、友人のバースデーパーティーである人がこんなことを言っていた。

「彼女が国防相だなんて、なんだかなーと思うけど……、でも彼女が家族相だったときに成立した両親手当や保育所増設案は本当にありがたかったのよ、あれに救われたわ」

現在私もお世話になっている両親手当(Elterngeld)とは、出産後、最長36カ月にわたって国から育休手当が出るというもの。
基本として、産前の前年の収入67%が12カ月間分支払われ、もし男性も育休を取るならば二人合わせて14カ月分給付され、また産前まで務めていたボジションに復職できる権利も保護されている。

出産を機に職場を去らざるを得ない研究職などのハイキャリアの女性たちの労働力の損失は大きい、と試算した政府が2007年に成立させ施行したこの制度、10年以上続けてきた結果としてキャリアを継続する女性が増えたというニュースをしばらく前に目にしたから、効果あり、というわけだ。
この制度の成立を進めたのが当時の大臣フォン・デア・ライエンだったのだ。

妊娠中に産後の両親手当のことを調べていた私には、この制度に救われてきたドイツの女性たちや医師であるフォン・デア・ライエンの話が、日本のスキャンダルと対比して見えた。

もちろん7人の子持ちでもそれだけのキャリアを築いてきた彼女には、当然家族やシッターなどサポートの手やそれを可能にした経済的な余裕があっただろう。

だからドイツでも彼女の話は「スーパー」なのであって、一般的には多くの女性たちが普段は子育てと仕事に追われててんてこ舞いなのは日本と変わりない。

が、救いの手を差し伸べてくれるサポートが行政にも身近な社会にもあること、その手を借りることを彼女たちが躊躇しないことは大きな違いだ。
対して日本ではそのキャリアに挑戦する資格すら最初から奪われていることに愕然とする。

女性は医師に向かないというおかしな合理性の理論展開は、人手不足や医療事故といった医療現場の問題を深くするだけとなるだろう。
そこにもまた、自ら首を絞めていく日本の社会の現状が垣間見えて、ため息が出る。

東京医大の件は、被害者である女子学生たちと共に支援者の会が立ち上げられ、事実の調査請求を出したり、他医大での入試差別も告発されていくなど、動きが広がってきている。
日本の女性はもっと自分の権利を主張していいと思う。
そして男性はそれを理解することが、結果として男女関係なく社会を豊かにしていくことをわかってほしい。
能力がある人が、余力のある人が、仕事だろうが家事だろうが分担していけばいい。
そんな話し合いをするためにはまず、両者が同じ土俵に立たなければ始まらない。

© Aki Nakazawa

ドイツも桜や木蓮が満開です。木蓮の花言葉は忍耐や持続性だとか。高貴で可憐なイメージがあったけど忍耐とは。でもただ耐えるだけじゃなくて、道を切り拓けるよう毅然と訴えを持続していかなければ。あきらめちゃダメですよね。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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