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モテ実践録(12)コロナ禍でモテを世界中で味わってみたら……

2020.05.25

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約2カ月にわたる自宅勤務も終わりが来て、とはいえ、この期間に私は欧米メディアを中心に見ていたので、どの国も条件(具体的にはソーシャルディスタンシングの順守)付きの外出制限の解禁なのに、日本ではあたかも以前の生活にそのまま戻れるように考えている人が多いのは、やはり危険なのではないかと思ってしまう。友達とZoomなどで話しても、乗らなくても仕事ができるとわかった満員電車で再び通勤するようになるのはキツイよね? と話していた。自分ひとりで過ごす時間が増えると、いろんなことを考える。そして、物質的にできないことも多いけれども、この機会だからこそできたこと、考えられたこともあったように思う。

さて、ヨーロッパでも、新型コロナウイルスによって2カ月近く続いていた封鎖の解除が始まっている。この2カ月、ヨーロッパ在住の友人は暇だったらしく、名前も忘れていたような人からも連絡を受けるようになった。

私はFacebookのヘビーユーザーで2007年頃から使っている。その当時、大学に来る留学生の受け入れを手伝っていて、彼らとの連絡手段として使うようになったのが始まりだ。ロンドンに暮らすJもその頃の友人のひとりで、日本に留学していた時は2、3回しか話したことがないのだが、互いに「いいね」を送って生存確認をし続けてきた。
前回の連載で私は、コロナ禍によって将来の見通しが立たないので、この先の人生をひとりで生きるという決意をはじめたと書いた。しかし、そうは言っても、単純に「はい、そうですか」と割り切れるものではない。そこで私は英語で「2 years from now on, keep social distance… ok, should I stay single?(これから2年は社会的距離維持……私はこの先も独り身かな?)」というような投稿をFacebookにした。気持ちを整理するためである。そしてそこで、10年以上「いいね!」以上の記号を交わしていなかったJから以下の提案を受けたのであった。
Jもシングルであるような記述は見たような見ていなかったような状況ではあったものの、Jは上の私の投稿にコメントをしてくれた。いわく、彼はあらゆるマッチングアプリを使ってみたのだが、イマイチ効果がない。ただ、世界的に有名な「Tinder」がコロナウイルスによる外出制限を受けて、自分の住む場所だけではなく、全世界でも相手を探せるような機能を解放している(2020年5月4日で無料期間終了)。誰か知らない人とおしゃべりするために使ってもいいんじゃないか、という内容だった。

私は、ズーイ・デシャネル目当てで映画「イエスマン」(ジム・キャリー主演。それまであらゆることに否定的だった主人公が、自己啓発セミナーを経て、すべてのことに「YES」と言う)を見てから、提案されることを〈とりあえずやってみる〉という癖がついた。……と、言い訳するわけじゃないけれども、今回はJの提案に乗ってみることにした。 
4月最終週。アプリをダウンロードし、設定をする。自分の写真を数枚載せ、希望すれば短い自己紹介文も書くことができる。Spotifyで好きな音楽や、Instagramも連携することができる。
 
……ここで話はズレるが、写真について書いておきたい。前に、アイルランドに行った際、バーで隣になったおじさんと話していると、「自分はTinderのために300ユーロ出して写真を撮ってもらった」と話していた。そのおじさんはいかにも薬物中毒者のような感じがあったので「そうなんだ、すごいねー」とテキトーに受け流していたけれども、その後で私も新聞で連載が決まったのを機に、自分のオフィシャルな写真を撮ってもらった。
例えば人と人との間で酔っ払って顔が赤らんでいたりしない、だからと言って証明写真のようにあらたまった表情でもなく、魅力的な自分の写真というのは案外少ないものである。私は旅行もひとりの場合が多いので、自分が写った写真というのはそんなに多くない(そう言えば、友人が昔「インスタにその当人が写った写真が増えたのは、彼氏・彼女ができた証拠」と話していたっけ)。自分の写真というのは自分でも目にするものであるし、そうすると、イメージの刷り込みのように自己像へ反映されるようになっていく。だったら、きちんとした写真がほしい。2016年に雨宮まみさんがお亡くなりになった後、やはり同じ業界にいるからか、生前の雨宮さんを知る人が身の回りに何人かいた。それから雨宮さんの書いた本やコラムを手当たり次第に読み、生きていらっしゃる頃に会いたかったな?と何度も思った。そんな雨宮さんのコラムで、「資生堂フォトスタジオ」で写真を撮るという回があり、そのお写真がとてもすてきだったので私も同じところで写真を撮ってみたい、と予約をとったのである。

とはいえ、生来の「卑屈さ」ゆえ、「私みたいなのが銀座の、資生堂スタジオに行っていいんだろうか、迷惑じゃないだろうか」と当日までおびえていた。終始私はオドオドと、とても明るい部屋でメイクを受け、髪を巻いてもらい、指定されるポーズをとって、プリントしてもらう写真を選んだ。今、時間がたって思うと、クレジットカードさえ持っていれば(そして最低限の身の清潔ささえ確保していれば)私たちはどこへだって行ける! と思うのだが、「私がこんなところにいていいのだろうか」「こんなことをしていいのだろうか」「こんなものを着てもいいのだろうか」という気持ちは、あらゆる瞬間で、なかなか拭うことができない。それでも、刷り上がった写真は「魔法」によって、自分でも魅力的だと思うとともに、自分とはかけ離れすぎてもいないという素晴らしいバランスであった。その写真を見ているうちに、私って知的な顔してる?とか、かわい?  とか、自分のことももっと好きになれそうだった。
 
ということで、今回もTinderの登録にあたり、その写真を使った。他に複数枚、とっておきのものを使う。無料期間中は、世界中のどこでも、何回でもロケーションを変更することができ、そこのシングルたち(そうじゃない人も大勢いたが)を見ることができる。気に入った人は右に、気に入らない人は左にスワイプする。両方が右にスワイプするとマッチングし、メッセージを交わせるようになる(こんなの常識かもしれないが、私は今回初めて使ったので「へえー!」と驚きながら使っていた)。
 
私は「南極大陸」などを設定してみたものの、そこで他の人を見つけることができなかったので、これまでに旅行したことがある場所を中心に設定し、寝不足に陥るまで、どんどんと世界中のシングルたちを見て行った。私は、今後のことはわからないけれども、今のところヘテロなので、男性を見られる設定にした。表示される年齢なども設定することができるが、年齢は自己申告のため、設定よりもはるかに年上だと思う人も表示された。
特にヨーロッパの男性たちを見ていくと、彼らの写真にはいくつか傾向がある。

1. サーフィン中または海辺にいる上半身裸の写真
2. ジム、またはエレベーターの鏡で撮られたとおぼしき筋肉を強調する写真
3. 山の上にいる写真(トレッキング等)
4. 車に乗っている写真
5. 犬を抱いている写真
6. テーブルを挟んで食事をしている写真

そして、身長を必ずと言っていいほど記している。これはヨーロッパにおける男性のモテの傾向を表している。つまり、デート相手に求めるのは、サーフィンやトレッキングなどのアウトドアに熱心で、筋肉隆々で、高身長で、車を持っていて、犬を飼っているという条件なのだろう。
思い返すとドイツ留学中、フラットメイトたちとよくパーティーに出かけた。私が留学した大学では、各学部主催のパーティーがあったものの、学部によってモテのヒエラルキーがあるため、例えばスポーツ学部などの入場チケットを手に入れるのは至難の業である。ドイツ人のフラットメイトたちと話した印象だと、学部によるモテる男性のヒエラルキーは、上から、スポーツ、医学、法律、物理・化学、歴史ときて、哲学(ドイツの場合、哲学部は文学部も含む)という感じであった。

私は会話相手が車を持っていようがどうでもよかったので、会話をして面白そうな人から右スワイプをしていった。ただし、注意しなければいけないことがある。自己紹介文のところに記号のようなものがあり、ONS(One Night Stand=一夜かぎりの関係)や、Open Relationshipなどと相手を限定している人もいるからだ。私の場合も、ひとり「どうして直接会えないのに連絡してきたのか」と言ってきた人がいたので、その後、特に返事をしなかった。だいたいはPassport機能について理解をしていて、「今、日本の状態はどう?」などと聞いてくれたりする。私は何人かとたわいもない会話を楽しんだ。

その中で、インドに住む弁護士とは会話が弾み、毎日メッセージを交わすようになった。「何してる?」「何食べた?」「何見た?」「どこに行った?」と話す。周りの写真を送る。そして、ともかく「かわいい」「写真がほしい」と言われるし、私も「写真を送って!」「かっこいい」と言った。彼は超のつくプレイボーイであるらしいが、別に会うこともないだろうという気もするので、いつものように嫉妬に怒り狂うこともない。単に、自分以外の人との会話を楽しんで、その人について思いを飛ばす。実は、すでにこのやりとりは途切れているものの、私はもしかすると人にきちんと接することができるかもしれない、と思えるようになったのだ。

私なんて、と常に思っていた。私なんて誰にも必要にされないし、存在するだけで周囲を嫌な気持ちにさせるような見た目であり、口を開けば頭の悪さを露呈するようなことばかり言ってしまうのだと。それは、幼少期からさらされた悪口のせいかもしれなかったけれども、今回のTinder無料機能によって世界中でモテを味わった経験から、「私は魅力的だ!!!」と大きな声で言えるようになれたような気がした。鏡に映った自分にほほ笑む。私はかわいいと思える。この魅力がわからない人は、去ってほしい。私は次に行くから。
外出自粛中に見た映画「おとなの恋は、まわり道」には、キアヌ・リーヴスが、自分の弟との婚約を破棄されたウィノナ・ライダーに向かってこう話すシーンがある。

 There are seven billion people in the world. So when one of them behaves badly toward you, he’s actually doing you a great favor because he’s saving you time. He’s telling you that he’s not worth your while. He’s freeing you to say, “Thank you for the information. I will now move on to the 6,999,999,999 other people, some of whom may have some value.(世界には70億人がいる。もしそのうちのひとりが君にひどい仕打ちをしたら、実は彼は君にすごく良いことをしている。っていうのも、彼は君の時間を無駄にしないようにしてくれているから。自分が君には物足りない人間だっていうのを教えてくれている。だから君はこう言っていいんだよ、「教えてくれてどうもありがとう。じゃあ私は残りの69億9999万9999人に向かうね。そのうちの何人かはもっと意味があるかもしれないから」)

今回、世界中のシングル男性を目にして、私を「私なんか」と思わせた人々のところに頭を下げて仲間にしてくださいと言う気は、まったくもってなくなった。世の中は広いし、きっと私を受け入れてくれる。

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(沼ZINE主宰)

沼ZINE主宰。https://numazine.themedia.jp

大学4年生の夏、内定が出ず定員割れの交換留学に申し込む。翌年、全く話せない状態でドイツへ向かい、毎日サービスデーのバーを回る「居酒屋ドイツ語」と呼ばれる勉強法で語学を習得。帰国後、大学院を経て都内の出版社に勤務しながらドイツ語翻訳を行う。2018年、友人とウェブマガジン「沼ZINE」を開始。趣味は映画・演劇・美術鑑賞、へっぽこ旅。

翻訳したドイツ語コミック「マッドジャーマンズ 」が第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品、第4回日本翻訳大賞二次選考対象作品に。

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