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ドイツの春の旬、その裏側ーコロナウイルスが明らかにした社会の仕組み

中沢あき2020.06.12

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日本の春の旬といえばタケノコ、山菜、そして初ガツオ! あーあ、おいしそう……。何年もこの時期に日本に帰っていないのでその郷愁感たるや。

でも代わりにこの時期はドイツでの旬のものを楽しんでいる。そしてそのドイツの春から初夏にかけての旬といえば、ドイツ語でシュパーゲルという白アスパラガスとイチゴだ。4月に入ると出回り始めるが、本格的に旬となって、味も値段もベストになるのは5月から。そして白アスパラガスの収穫は、畑の土の状態を保つために、キリスト教の聖人である聖ヨハネの誕生日の6月24日までと決まっており、イチゴは8月くらいまで市場に出回る。
実は外国産のものはどちらも2月頃からスーパーなどに登場するのだが、締まり屋のドイツ人が旬の国産の白アスパラガスとイチゴには金を出す、と言われるくらい、皆こだわりがあるし、こだわる理由も納得するほど、国産物は味が濃くておいしい。国産の白アスパラガスはその太さが鉛筆3本分くらいあり、最盛期の値段はだいたい1キロ7~8ユーロ(日本円で約850円から1000円の間)くらいだろうか。国産のイチゴは小粒だが甘みと酸味のバランスがとてもよく、500グラムのパックがだいたい3・5ユーロ(約400円)くらいだ。
キロと書いたのは、ドイツはスーパーでも市場でも量り売りが基本だからだが、ドイツ人の白アスパラガスの買い方は本当にキロ単位。家庭によって多少の違いはあるだろうが、だいたい1人前で半キロを用意する。すなわち、極太のアスパラガス7~8本くらいを1人で平らげる。アスパラガスって、ドイツの食卓では主菜なのだ。

ドイツでの主なレシピは、しっかり皮をむいてアルデンテにゆでた白アスパラガスに溶かしバターやオランデーズソースをかけ、ゆでジャガイモやスモークサーモン、ハムなどと一緒に食べるもの。繰り返すが、このお皿の上での主役はあくまでアスパラガスである。以前、在英からの顧客を案内して皆でこの白アスパラガスの料理を注文したとき、「すげえ、一気にこんなにアスパラガスを食べるなんて初めて!」と彼らは、皿に何本も盛られた太い白アスパラガスを見て驚愕していた。白アスパラガスは欧州各国で食されているけれど、こんなにシンプルかつ大量に食べるのはドイツの食文化らしい。フランス料理などではもっとレシピが繊細そうだもんなあと、ドイツ流の大胆なレシピを、バターたっぷりの料理をめったにしない私もこの時期は毎週作る。私はオランデーズソース派なのだが、そこに入れるバターの塊の大きさに毎回ちょっとひるんではいるが……。

そして毎年この時期の雑誌などには、白アスパラガスやイチゴを使った料理レシピがここそこに掲載されるほど(でも毎回似かよったレシピだなーと正直思うのだが)ドイツ人に愛されるこの2つの食材は、実は外国人に支えられるドイツの労働社会を象徴している。

手間がかかり肉体的にもキツい収穫作業にあたるのは、国外からやってくるいわゆる季節労働者だ。特にポーランドをはじめとした東欧からの出稼ぎ労働者が多いらしい。いまどきドイツ人がやりたがらない肉体労働を彼らが担うおかげで、この2つの食材の値段が跳ね上がることもなく、毎年ドイツ人の食卓に上るのだ。

知られていながらも特に気にとどめられていなかったその話が今年の春、大問題となって急浮上した。

そう、3月から5月上旬まで新型コロナウイルスの感染拡大を阻止する目的で各国、そしてドイツの国境が封鎖された結果、その労働者たちが来ることができなくなってしまったのである。収穫されずに畑に残されるアスパラガスやイチゴはどうするのか、収穫や販売のできない農家にとっても大打撃だし、毎年の旬の楽しみを待ち望んでいたドイツ人たちにとってもショックな話で、一時はこのニュースが日々報道され、そしてついには、これらの労働者に限っては入国を認める特別措置が4月になされるという政治判断となった。そのニュースを聞きながら、いかにこの2つの食材がドイツにとって大切なものなのかをあらためて知るとともに、自分たちの日常生活がグローバルな構造の中にあることを、そこに頼らざるをえなくなっている仕組みになっていることを考えさせられた。

わが家がいつも白アスパラガスやイチゴを買うのは朝市に出ている2軒の農家なのだが、そのうちの1軒は今年、どちらの出荷もあきらめたという。上記の理由で収穫する人手が足りず、どちらも畑に放っておかれたままだそうだ。冗談半分で「手伝いに行きましょうか」と申し出てみたけど「無理無理、あれはスキルと体力が必要だからね」と鼻から相手にされなかった。人手不足のニュースが流れた頃、実際に手伝いを申し出る人は各地にいたそうだが、アスパラガスの収穫というのは収穫する部分だけじゃなくて根も傷めずに切らねばならず、骨が折れる作業なのだそうで、新参者は無理、結局なじみの外国人労働者の特別入国許可、というはからいになったわけだ。

そんな事情もあり、今年の値段は当初はやや高めだったが、最盛期の今は例年並みに落ち着いてきた。が、甘くてみずみずしい白アスパラガスとイチゴの今年の味は、ちょっと複雑な味わいだ。

写真:1-2
©Aki Nakazawa

朝市での1コマ。この農家の産直の白アスパラガスとイチゴです。ドイツの初夏の風景ですね。

5月に入り接触制限が緩和され始めた頃、国内の数カ所の食肉加工工場で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、感染した労働者の多くが外国からの出稼ぎであること、また彼らの宿舎が劣悪な環境であることが発覚し、ドイツの食生活と社会がこうした労働の搾取の上に成り立っていることがあらためて明るみになりました。

でもこれは食材だけの話ではなく、ファストファッションの服にも100円ショップ(ドイツは1ユーロショップ)の物にもはたまた医薬品までも、あらゆる製品がこの構造の上に成り立っているのだということが、このコロナウイルス騒動によって露呈しています。「これからは物の値段は世界中で相対的に上がっていくんだろうな。でもそれが『正当な値段』なのだというなら、受け入れるしかないんだろうな」と、アフターコロナの生活の変化をときどき考えるこの頃です。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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