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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 環境大国の事情とウクライナ

中沢あき2022.03.03

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2月24日の木曜日は、カーニバルの第一日目、ヴァイパーファストナハト(女性のお祭り)で始まった。子どもの保育園からも、今日は仮装して登園させてくださいね、とお達しがあったのだが、保育士の病欠が出たとのことで、カーニバルのパーティーは翌週の月曜日に延期になった。前日熱が出て休んだ子どもはすっかり元気になったので保育園へと送り出し、家の前の通りを仮装した人が歩いていくのを眺めながら、やれやれと思ってラップトップを開いてニュース画面を見たら、ロシアがウクライナに侵攻したとの報道で溢れていて、愕然とした。ほんとに始まっちゃったんだ。

やるのか、やらないのか、世界中が固唾を飲んで見ていた両者の睨み合いから、とうとうロシアが足を踏み出してしまった。キエフは避難する住民の車で大渋滞だという。爆撃を受けて立ち上る火炎ときのこ雲の写真もすでにfacebookのタイムラインにも出回っていて、見ながらため息が出てしまう。隣国ではなくとも陸続きの国で起きていることは、いつどんな形でここの生活に影響するかもわからない不安もあるし、ウクライナ、ロシア出身の人々はこの街にも多くいる。ここの市長はカーニバルの開催式で、ウクライナへ寄り添う声明を出した。

週明けの今日、2月28日はローゼンモンターグ(バラの月曜日)でカーニバルのクライマックスの日だ。子どもは友人の娘さんたちが譲ってくれたピンクのドレスに猫の耳が着いたカチューシャをつけ、保育園でのパーティーブッフェのために私が焼いた大きなりんごケーキを抱えて出かけていった。今朝のニュースでは、今日のカーニバルの伝統行事であるパレードは、ウクライナへの祈りを込めたデモパレードも兼ねるそうだ。

この数日間で状況はどんどん変わった。ロシアはウクライナ各都市へ侵攻し、しかしウクライナ軍や市民軍の抵抗で思ったように駒が進められないらしい。両国の停戦協議も合意されたが一方で、ベラルーシをはじめとした周辺国の参戦の可能性や、プーチン大統領の核兵器使用の可能性の発言や、ドイツをはじめとした欧米からのウクライナへの兵器の提供に加えて、ドイツ政府は軍備の大幅な拡大を決めたりとため息しか出ない。ロシアへの経済制裁はやっとここにきて次々と発表されていくが、なんだったらもっと早くやっても抑止力があったのではないか。

日々というより数時間ごとに変わる状況をニュースで聞きながらこの週末は落ち着かない気分のまま、当事者でない私たちが何かを言うことが欺瞞にならないか、と自問しながらこのコラムの文章を何度も書き直したり読み返したりしていた。

昨年末からずっと、ドイツの報道番組では新型コロナウイルス関連かロシア/ウクライナ情勢関連がトップニュースを争っていた。日本と同様、ドイツの報道も多くはロシア側を批判する論調である。私は政治の専門家ではないので、あくまで素人の意見と断っておくが、勧善懲悪で情報を判断するのは危険だと思っている。独裁者を擁護する気は毛頭ないが、戦争にはどちらの側にも大義名分はなく、市民が犠牲になった後の焼け跡を見ながら、冷静に情報を読んでいかなければならないことを、私たちはもう何度も過去の歴史で見ていたのではないか。またシリアやアフガニスタンの二の舞になるのではないかと何度もため息が出る。

ドイツの対ロシアの姿勢はずっと曖昧だった。ロシアからウクライナへの干渉にはもちろん米国と同じ立場で反対であるが、かといって強硬な制裁を打ち出せる状況になかったのは、ドイツの脱原発及び脱炭素を計るエネルギー転換政策がロシアの資源を頼りにしてきたことにある。

ここで問題となっていたノルドストリーム2とは、ロシア産の天然ガスをドイツ及び欧州に輸送するガスパイプラインで、ノルドストリーム1はすでに2012年に完成、稼働し、その頃からメルケル政権が脱原発を中心にエネルギー政策を進めてきたドイツにとっては重要なエネルギー資源であった。またその管理運営会社であるロシア国営企業のガスプロム社の取締候補役に指名されているのは、ドイツ元首相であるゲルハルト・シュレーダー氏と、ドイツの政治界とロシアはガッチリ固い関係を結んでいる。(ちなみにサッカー・ブンデスリーガのクラブ、シャルケ04のスポンサーはこのガスプロムだったが、一昨日その10億円とも言われるスポンサー提供をクラブ側から中止した。)
今年中に国内のすべての原発が停止する予定のドイツは現在、エネルギー資源の4割以上をロシアの天然ガスに頼っており、昨年秋に工事が完成したノルドストリーム2の稼働はさらに大きな資源として政策を支えるはずだった。ところがその頃からウクライナをめぐるロシアの動きが活発になったのは、やはりドイツの政権交代が大きな機会となったのではないか。発足したばかりのドイツのショルツ政権に与党として加わった緑の党のベアボック外務相の対ロシア、対中国へ強硬な姿勢も辞さないという政策方針を口にしつつも外交経験には乏しいという事情、脱炭素・脱原発を進める環境政策にはノルドストリーム2が必須であるという事情によって足元を見られたのではないだろうか。
メルケル政権まではロシアとドイツの関係は良くも悪くもバランスがなんとか取れていたのが、政権が変わり、特にこのノルドストリーム2をめぐる駆け引きにおいて、ロシアは強硬に出ることができる状況になったようにみえる。そしてドイツのショルツ首相がノルドストリーム2の稼働承認を停止すると発表した翌々日、ロシアはウクライナに侵攻したのだった。

ロシアの資源に頼らずとも別の可能性があると、ベアボック氏と共同で緑の党の党首を務めるハーベック環境・エネルギー相も強硬な発言を添えた。具体的にどんな可能性なのかは明言されていなかったが、おそらく日本政府がこれまで受けていた供給量を融通すると発表した米国からのガス供給のことだろう。先立つ2月中旬には米国が日本への天然ガスの供給量を欧州向けへ融通してくれという要請があり、日本政府はそれを承諾している。欧州でブラックアウトが起きないようにするためには、日本の貧困層がガスの値段や物価の上昇を受け入れなければならないのか、とこの報道にドイツの環境政策の裏構造を垣間見た思いだったが、ノルドストリーム1についてすら既に何年も、ロシアへの制裁にならないとしてドイツのロシアからのエネルギー依存に不満を抱いていた米国としては、やっと足並みがそろったということなのかもしれない。

とはいえ、そうした制裁を決断したのが遅かったのだろうか、それともたいした功を奏さなかったのか、ロシアは侵攻を開始した。「やむをえずの侵攻」だとするプーチン大統領の真意はわからないが、いずれにしても彼にとっての(こじつけであっても)理由が成立してしまったようにみえる。

侵攻の報道を受けてメルケル元首相は、ロシアを非難し、もっと対話を続けるべきだったと発言したが、もしメルケル氏がまだ政権にいたならば、事態はまた違っていたかもしれない。左党の連邦議員であるザラ・ヴァーゲンクネヒト氏は「ロシアが何を懸念しているかを見極め、ウクライナのNATO加盟をドイツ政府は今回は見送るべき。ミンスク合意の見直しをして、外交的に解決を」と発言していたが、ドイツ国内では彼女のような意見は少数派だ。

独裁者は絶対悪であると思うが、悪を抑えるには真正面からぶつかるのが得策と必ずしも言えない。ヴァーゲンクネヒト議員の言うように、ウクライナのNATO参加を、少なくとも当面は承認しないという交渉の余地はあったのではないか。またはノルドストリーム2の稼働承認などの経済制裁についても、もう少しあとでもよかったのではないかと。ロシアへの包囲網が固めたところで、西側諸国からの脅威に対するロシアの怖れを煽ってしまい、かえってロシア側へ侵攻の理由を与えてしまった気がする。そして欧米の支援をあてにしていたウクライナの外交も読み間違えたのか、欧米から梯子を外されたような形になってしまった。

あれこれ当事者ではない私たちが話したところで、所詮それは余所者の戯言にすぎないのかもしれない。かつては旧ソ連の一部でありロシア系の住民も多く住む一方で、ウクライナという土地と民族への愛国心も強いと言われる国の内部事情は、私たちの想像以上に複雑なはずだ。それでも、市民を巻き込む戦争だけは回避しなければならない、とFBに次々に投稿されるウクライナ市民たちからの助けの求めを読むと焦る気持ちにある。「戦争に正義はない。巻き込まれた市民が犠牲になるだけ」とは、かつてのユーゴスラビア紛争後のクロアチアに育ち、セルビア人の夫がいるクロアチア人のママ友の言葉だ。「戦争なんて上部の人間がやってるだけなのに、犠牲になるのはいつも市民よ。それも特に女性がね」

それがまた起きるのか、と彼女の言葉を思い浮かべながら、重い気持ちになる。どうかこの侵攻が泥沼化しないよう、まずは人命がこれ以上失われることがないような解決を探ってほしいと願うが、政治家たちにその思いが届くのかはわからない。国民総動員法を発動し、志願兵を募るウクライナのゼレンスキー大統領の支持率は、コロナ禍や自身の隠れ資産発覚などで下がっていたのが一気に上がったという。ウクライナもその周辺国も欧州はどこも国境線が何度も変わってきた歴史を持っているゆえ、愛国心は日本人の私たちの想像以上かもしれない。でも命が消えたら国も消える。

そしてドイツ。週末の連邦議会でのショルツ首相の演説にはコロナ政策で何度も使われた「団結を」の言葉が現れた。そして大幅な軍備拡大である。彼の演説の区切りごとに拍手の喝采が聞こえるたび、めまいがしそうになった。戦争反対なのに、やむを得ないからと軍を増強するのか?兵器は持てば使うのが目的のはず。使わない脅しのための兵器に何の意味があるのだろう?その多額の予算投入の決定を聴きながら、ドイツの軍需産業は結構な規模であることを思い出す。

プーチン氏にしろ、ゼレンスキー氏にしろ、ショルツ氏にしろ、男たちの勇ましい発言に私は警戒感を抱かずにはいられない。これがメルケル氏だったらどんな言葉を選んだだろうかと思う。

コロナ禍に入ってからだろうか、我が家の上空を戦闘機がよく飛ぶようになった。隣の州には米空軍基地があるのでそれが米軍のものなのかドイツ軍のものなのかは知らない。今までは気づいていなかっただけなのか、それとも飛行区域が変わったのかはわからないが、普通の旅客機とは違う、鋭く凄まじい飛行音が夜などに響くと心のどこかがスーッと冷たくなる。たびたび聞こえるようになったあの音に、戦争が起きるのか?なんて思っては、いやいや思い込みすぎ、なんて打ち消していたけど、遠い国の話なんて思えない不安がうっすらと浮かぶ。その音が止むことを、少なくとも紛争地域で一刻も早く止まることを祈り続けている。


 

写真:©️ Aki Nakazawa
ウクライナ侵攻の翌日は雹が降り積もりました。三寒四温で春が近づいてきます。紛争地にもどうか早く雪解けの日が訪れますように。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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