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身体の話をしよう ②〜わたしの身体は誰のもの?前編〜

行田トモ2022.03.24

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皆さまこんにちは、行田です。徐々に春が近づいてきましたね。どこかに出かけてのんびりピクニックをしたり、春服を買いに行きたい気分です。
ところが、出かけようにもわたしは電車が苦手なのです。自分の周りで不特定多数の人が動いていると落ち着かないのですが、以前はこれに加えてもうひとつの理由がありました。

それは、男性からの視線です。

電車に乗り込んだ瞬間から待ち構えているその視線は、わたしの頭から爪先まで、じっとりと品定めをしました。「ああ、今 ”女” として見られているな」となんとも嫌な気持ちになったものです。

こうした視線に敏感になったのには理由があります。
わたしがセクシュアルハラスメントの被害者だからです。

2017年の秋、わたしの身体は限界を迎えていました。喘息に鼻の不調、さらには蕁麻疹のせいで全身斑点だらけ。「全部アレルギー症状ですね」と病院で言われました。その原因はアルバイト先の上司(職場のトップ)にありました。以前から嫌だなぁと思っていた上司の接し方が、その夏から完全にセクハラになったのです。

「ずっとカーテン閉まってるから旅行にでも行ってると思った」
「かわいいんだから、1人で帰ったら襲われるよ」

わたし以外の人にも平気でこうしたことを言う人でした。
アルバイトとして勤めている人たちは皆、職場の近くに住んでいる奥様方でした。また、上司の家も近所でした。

「玄関は東向きだよね。ベランダはどのあたり?」と言われて、ゴミ出しに行くのにも「あの人が来てるんじゃないか」とビクビクしなければなりませんでした。明らかにヤバい人だとわかっていても仕事を辞めなかったのは、「いずれ正職員になってほしい」と言われており、そのために通信制の大学にも通っていたからです。わたしの将来は上司に握られていたのです。
いよいよ身体を触られることが多くなり、バイト仲間に相談したところ、こう言われました。

「優しいからよ」

今ならその瞬間に「辞めます」と言って家に帰ったと思います。しかし、当時のわたしは自分を責めました。「うまくかわせない自分に問題がある」と。
どうやって上司からのボディタッチをかわすかの練習をしました。ばかげていますよね。でも、本気でやっていたのです。
正職員の女性の中には、一時期上司からされたこと、言われたことをノートにつけていた人がいました。「いざという時はそれを持って警察に行こうと思ってた」と話してくれました。その話を聞いても辞めなかった自分が不思議でなりません。

そして、決定的な出来事がありました。上司が皆のいる前で正職員の男性を怒鳴りつけたのです。そう、上司は女性にはセクハラ、男性にはパワハラという手のつけられない人でした。わたしはすっかりおびえてしまいました。上司のことがこれまで以上に怖くなってしまったのです。

「身体を触られても、あの人には嫌と言えない」

倉庫に隠れて泣きました。そしてようやく、仕事を辞める決意をしました。
考えてみれば、異様な職場でした。皆が大の大人ひとりのご機嫌とりに全力を尽くしていたのですから。バイト仲間との考え方のずれもありました。生理で体調が悪いと言えば「子ども産めば治るわよ」と言われました。「ウェディングドレスは若くてキレイな時に着なきゃ」、そんな言葉も聞かされました。

当時わたしは、パートナーと職場近くに住んでいました。つまり、出歩けば上司やバイト仲間に会う可能性がありました。バイトを辞め、その秋のうちに逃げるように引っ越しました。子ども時代を過ごした思い出の地が、怖い場所に変わってしまったのです。
さらに、当時通っていた精神科の医師にこう言われました。

「セクハラは小学生が好きな女の子にちょっかい出すようなもんだから。あんまり気にしないで」

もう二度とその病院に行くことはできませんでした。医師の言葉に深く傷ついただけでなく、うつ病の治療も宙ぶらりんになってしまいました。このことは、今のわたしの病状に大いに影響しています。
体調と、心が落ち着くまでに時間がかかりました。当時のことを振り返られるようになって、湧いてきたのは怒りではなく罪悪感でした。

「自分だけ逃げてきてしまった」

そう考えてしまったのです。わたしが消えたところで上司は変わらない。もしかしたら八つ当たりされている人がいるのではないだろうか。状況を知らずに新しい人が入って、セクハラの標的にされるのではないか。わたしが声を上げれば、新たな犠牲者が増えなくて済んだのではないか。

ひたすら自分を責めました。「セクハラというのはおおげさだっただろうか」とも思ってしまいました。恐ろしいですよね。被害者なのに罪悪感でいっぱいになってしまうなんて。
そんなある日、大学の友人がこう言ってくれました。
「労働局に相談に行こう。一緒に行くよ」と。

「労働局」「セクハラ」と検索すると、相談方法やQ&Aがたくさん出てきました。当時はそこまで考えられないほど疲弊しきっていたのです。
厚手のコートが必要になってから、被害の詳細を記したノートを携えて、友人と共に労働局の相談コーナーに行きました。
その日友人はめちゃくちゃかっこいい服装で来てくれました。どれだけ心強かったことか。彼女を見て泣きそうになったのを今でも覚えています。
相談員の女性にノートを渡し、上司からされたことを話しました。涙があふれました。身体が震えました。ノートを読み終えた女性は、こう言いました。

「よく耐えられましたね」
その瞬間になって初めて、
「わたしはセクハラを受けていたんだ」
「気にしすぎじゃなかったんだ」

と、自分が被害者であると思えたのです。
労働局がやってくれるのは、「匿名の元アルバイトからセクシュアルハラスメントの相談があった」ということで、職場に環境を改善するよう通知し、その結果報告を求めるということでした。上司に直接どうこうはできません。しかし、この通知があったことで、上司が多少なりとも振る舞いを改めるよう願うしかありませんでした。

正直に申し上げると、まだどこかで自分を責めています。
「もっと事を大きくすればよかったんじゃないか」と。
その後も上司が夢に出てきました。似た背格好の人がいると身体が凍りつきました。男性から見られると、上司のねっとりした視線を思い出して、気分が悪くなりました。電車通勤が苦痛になりました。
ひとりの人間ではなく、性的対象としての”女”、または”女の身体”として扱われたことは、わたしを深く傷つけました。

自分の身体が、自分のものではないように思えました。”もの”扱いされているようでした。
自分自身が、他者に踏みつけられたり奪われたりする。
女性の身体ってなんなのでしょうか。もう少し、考えてみようと思います。おつきあいいただけたらうれしいです。
※労働局の相談コーナーは予約が必要です。東京の詳細はこちら 

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/madoguchi_annai/_84745.html

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行田トモ

行田トモ(ゆきた・とも)

エッセイスト・翻訳家
福岡県在住。立教大学文学部文学科文芸・思想専修卒。読んで書いて翻訳するフェミニスト。自身のセクシュアリティと、セクハラにあった経験からジェンダーやファミニズムについて考える日々が始まり今に至る。強めのガールズK-POPと韓国文学、北欧ミステリを愛でつつ、うつ病と共生中。30代でやりたいことは語学と水泳。

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