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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 日常に忍び込んでくる戦争の影

中沢あき2022.04.06

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3月後半に日本に帰ってきた。この情勢で私たちのフライトが運航になるかどうかがわかったのは出発の1週間前。便名は変わり、パリやロンドン便は運休になったがフランクフルト発はハブとして残り、出発時間もほぼ変わらなかったのは幸いだった。が、当日、空港のストライキの影響で出発ゲートをくぐれないために私たちのフライトは翌日に振替、そしてその振替便もまた当日の朝になって、中国の軍事演習のために空域制限が出たとかで運休になった。入国に必要なPCR検査結果は特例としてもう1日延長が認められるとのことで、遅めに検査を受けていたのが幸いしてギリギリ間に合った。

やっと飛んだ飛行機のフライトマップには次々と東欧から中央アジア、中国の地名が現れる。つまりシベリア上空を飛ばなくなった迂回ルートなのだった。行きはそれでも追い風を受けて13時間で着いたが、帰りは向かい風に加えて直行ではなくなるので総計18時間の空の旅になるらしい。欧州が再び遠くなったんだなとげっそりする。

フランクフルト空港に向かうICEに乗るために久しぶりに中央駅に行ったとき、駅構内の通路の床にウクライナの国旗マークが大きく貼ってあるのを見つけた。その周りにはドイツ語とそしておそらくロシア語とウクライナ語で「受付」と書いてあり、その先には同じく3カ国語で書かれた案内板が置いてあった。プラットフォームにも青と黄色の腕章をつけた数人の係員がいた。電車で到着するウクライナの避難民の案内係なのだろう。その対応の早さと細やかさに「さすがドイツ」と思うとともに、目の前に戦争が現れたとふと思う。

3月は日常の中に戦争が次々にそうやって姿を現してきた。夫や車通勤の友人たちが、かつてないほどのガソリンの値上がりに驚きと怒りと戸惑いが混じった声を上げていた。スーパーに行くと、小麦粉とスパゲティの棚が空っぽになっていた。ひまわり油もごっそりとなくなっていて、レジには「ひまわり油、菜種油は一人1本まで」と貼り紙がしてあった。ウクライナはこれらの原材料の一大生産国である。店によってはトマト缶やツナ缶などもなくなっていた。政府は買い占めを戒めていたが、備蓄のムードが広まったのだろうか。流通しなくなったのはウクライナ産のものだけではない。正月のために近所に住む友人たちと一緒にロシア産のイクラを注文したが、そのうちの一人がイクラの好きな娘のためにまた注文しようと思ったが、もうないだろうなとつぶやいていた。

影響は食品だけではない。トイレットペーパーなどの雑貨も値上がり、車なども部品が流通せずに生産できず、現在店頭にあるものも値段が上がるのだとか。おそらくこれからあらゆるものが値上がり、または入手できなくなるものも出てくるだろう。電気などのエネルギー代の値上がりは、そもそも昨年末くらいからエネルギー転換政策などの影響もあって警告されていた上にこの一撃である。わが家は年末に差額精算が来るのだが、今から今年の電気代の支払いがどうなるのか想像するも恐ろしい。ラジオの討論番組では、ウクライナの凍えた避難民のことを思えば、重ね着をして過ごすことくらいなんでもない、という意見があったが、すでに重ね着をして過ごしてきた家計事情の人々はこの先どうすればよいのだろう?

保育園の園長からもメールが来た。もうすぐ我が園にもウクライナからの子どもがやってきます。各ご家庭でも戦争のことは話をしていることでしょうが、我が園でも子どもたちに不安を与えないよう、注意深く話をしていくつもりです、と。東欧に近いベルリンにとどまらず、このドイツの西側の街にもやってくるということは親戚や知人を頼ってくるのだろうか。近所でもあちらこちらの窓から青と黄色の旗が下げられている。そろそろ貸すのかな?と思っていた空き家の窓ガラスには市からの住居案内などがドイツ語、ロシア語で書かれていた。

仕事の問い合わせの返信がこないカメラマンに電話をしたら「今、ウクライナ」と言われて絶句。慌てて電話からSMSに切り替えた。その翌々日に彼のエージェントから電話が来て案件はつながったが、彼自身はまだポーランドにいるという。この状況でエージェントにつないでくれたことへのお礼と共に「どうぞ、ご無事で」とメッセージを送っておく。日々送られてくる戦争の映像や画像やニュースの情報は注意深くと思っていても自分の内に入ってくる。ラジオのニュースを聞いて、いったいどうすればいいんだ、どうしたらこんなむごいことができるんだ、とうめくように言った夫の目が赤くなっていた。私も知らず知らずストレスを受けていたのか、体調までおかしくなってしまった、と同じ体験をつづったメッセージをママ友が送ってきた。買い物帰りにばったり出会ったうちの子どもの保育ママも胸に手を当てて「見ていて耐えられない」と言う。ああ、皆、そうなのか。そのことを友人に愚痴ったら「これ効くよ」と勧めてくれた自然由来の鎮静薬をのみ込むと、ラベンダーの匂いのゲップが出て笑ってしまう。なんか効きそうだわ。

戦争はテレビやインターネットの情報としてではなくて、確実に私たちの日常に入ってきている。街が戦場となり住み処を奪われた人たちの状況とは比べものにならないと言われればそうだが、これも戦争なのだ。もはや遠い国の出来事ではない。ウクライナへ連帯を示し、恐れと怒りとおびえを共有するドイツやヨーロッパの人々の間には、シリアやアフガニスタンで起きた戦争の時とは明らかに違う雰囲気と感情があることに対して批判もある。それについてとある在欧の邦人ジャーナリストが、今回のことは隣家が燃えているという感情からだと言っていた。その通りだと思う。でもそれはつまり、遠くの家の火事については、私たちはしょせん人ごととして受け止めていたことが露呈したことでもあるのではないだろうか。米露という大国の後ろ盾で国が分断され、市民が戦火にまかれて犠牲になっていった、その遠い国々での出来事をしまいには見ぬふりをしてきたのではないだろうか。「プーチンの戦争」と名づけてドイツの軍備拡大を決めたショルツ政権や政権に肯定的な報道に批判的な意見の友人はこう指摘していた。ドイツの経済的に豊かな生活はロシア人の安い労働力に支えられてきたことが今回の戦争で露呈したのだと。私たちが他国の犠牲の上に得てきたこの豊かさや、例えば環境政策などのような社会の理想が、今度はウクライナを犠牲にしたのではないだろうか。ロシアの侵略は残酷で、プーチンの言動も極悪である。が、プーチンだけを非難して終わる話ではないのではないか。

欧州戦争でも世界大戦を避けたい欧米諸国は慎重に動いている。これ以上の戦争拡大を避けるためには、ウクライナを犠牲にしなければならないということを知りつつ。私たちの平穏な生活を守るためには誰かが犠牲になっている、ということに気づいて、自分の愚かさに戸惑い、辛くなる。


写真:©️: Aki Nakazawa


駅構内の床の表示。ドイツ語で「受付」と書かれ、ロシア語、ウクライナ語の訳が並んでいます。その奥の立て看板に見えるのは「ウクライナからの方へ」の文字。着いた人たちが速やかに落ち着ける場所を見つけられることを願うとともに、その人たちが早く故郷へ戻ることができる日が来ることを願ってやみません。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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