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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 「焼いて焼いて焼きまくれ」

中沢あき2022.06.21

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金曜日の朝、「Backen backen Kuchen(バッケン、バッケン、クーヘン)」というドイツでは皆が知っている子どもの歌が、私の頭の中でぐるぐる回っていた。「ケーキを焼こう」というこのかわいらしい歌が今日は「焼いて焼いて焼きまくれ」と聞こえてくる。これから焼く予定の2つのケーキの材料の量を計算するが、普段の2倍のサイズで焼かないと足りない。なんてったって、翌日の保育園のお祭りのビュッフェに持っていくケーキなのだ。「今年こそは開催できるといいですね」という願いを込めたお知らせが半年も前に園長先生から来ていて、子どもたちも楽しみにしていたのだ。

しかし園の教室の入り口に貼られた「保護者のお手伝い分担リスト」がまだ全部埋まってないと、子どもを送っていった夫から写メが送られてきた。ケーキを持っていくのはわが家ともう一家族。そしてクッキーを持っていく家族、スイカを持っていく家族までは決まっているが、その他のお菓子やらコーヒーや紙ナプキンなどの担当が空欄のまま。いつもならわが子のクラスの連絡網のチャットに他のお母さんたちが声がけしてくれそうだが、ここ数日のタイムラインは静まり返ったまま……。

うーむ、でもそんなに参加者がいないとも思えないし、かといって、このままではどう考えてもビュッフェは足りないんじゃないか? と心配になって、自らチャット欄に「足りるか不安だから、参加者は買ったお菓子でもフルーツでもなんでもいいから少し持ってくるのはどう?」と提案を投げると、「あら、そのリスト、知らなかったわ!(いや、ずっと教室の入り口に貼ってあったぞ……)」と次々にお母さんたちから返信が来て、私はコーヒー、私は紙ナプキン、私はチョコ、とさささーっと素早く担当が決まった。ママたちの行動力、お見事!

さて当日は天気予報通りの快晴。お祭りは園の中庭で開かれるから、子どもにも自分にも日焼け止めをしっかり塗っていく。お手伝いのために始まる30分くらい前に行ったら、あれ、先生たちがほとんど飾りつけなどをし終えていて、手伝うこともなく、持ってきたケーキをビュッフェのテーブルに置きに行く。他は保育士さんたちが用意したスナック菓子とかジュースくらいしか並んでないが、連絡網のやり取りでは、これからもっと並ぶはず……。

この日は同じ敷地内に並ぶ小学校や中高校の親たちが開いたフリーマーケットが隣接の駐車場で行われていて、この園や学校の支援団体が焼きソーセージやビールなどの屋台も出すなど、すでにおおにぎわい。ちなみにこの売り上げや寄付金はこの団体を通して、年間行事の催し物の予算の足しにしたりするそうだ。この保育園も小学校も中高校も市立で同じ敷地内に並んでいるが、基本的にはそれぞれ別の運営で、こうして同じ日にイベントが並んでそれぞれの生徒たちや親たちが入り交じるのはめずらしいタイミングだ。

そして午後2時。予定通りに園の門が開いて、園児たちと親たちがどんどん入ってくる。参加義務があるわけではないので全員はそろわないが、見知っている顔ぶれがそろって親子ともども楽しそう。お祭りということで祖父母や親戚の子どもたち、園児の友だちも来ていたりする。おめかししてドレスアップしている子もいたりして、外部の人が参加しないクリスマスやカーニバルなどとは違った一大イベントである。

園長先生がマイクを取り上げてあいさつを始め、これからの2時間の流れやビュッフェの場所、保育士たちが準備した各種ゲームのことを説明したら、子どもたちの歌と踊りのお披露目でスタート! なるほど、この頃うちの子が家で歌ってたのはこの歌だったのか。日本で言うと、学芸会も兼ねてる感じかな。ネズミの耳のついた紙製のヘッドバンドをつけた子どもたちは、よちよち歩きの子から就学直前の年齢の子までと体の大きさがさまざまだ。ドイツの保育では一般的だが、3歳から6歳までの子どもたちが一緒のクラスにいて、大きな子が小さな子の面倒を見たり、小さな子は大きな子から学び、さらに年齢を超えてのコミュニケーションもしっかり彼らなりに取っている。

特にわが子のような一人っ子にはこの環境はとてもありがたい。1歳以下から2歳くらいまでの乳幼児のクラスも一つだけあって、ここの子どもたちも数人来ていたが、そのうちのハイハイをしているリリちゃんと言う女の子は皆に人気があるらしく、わが子も他の子も、リリ! リリ! かわいいー! と騒いでいる。いつもは赤ちゃんのように甘えたりすることもあるわが子だが、自分よりもっと小さな子に夢中になるのを見て、こうやって子どもって成長していくのかな、と思う。

子どもたちは歌い終わると即座に遊び場のほうへ、ビュッフェのほうへと散り散りに走っていく。この場合、わが子は食べものが優先である。ビュッフェのテーブルは持ち寄りのケーキやお菓子、フルーツでいっぱいになっていて、子どもも大人も次々に集まってくる。ちなみにコップや取り皿や各自が使う分を準備して持ってくるルールで、これは使い捨ての紙コップや紙皿でゴミを増やさないようにするためだとか。サスティナブルな時代だからね。わが子は普段家にはないクッキーやスナック菓子に夢中である。夫はちょっと苦い顔をしていたが、ま、特別な味と思ってもらえばよいので今日は放置。私は他の人が持ち寄ったものをいただきにテーブルへ。衛生面を考慮して、生クリームや肉を入れない焼き菓子のみというルールなのでチーズケーキやクリーム系のものはない。ブラウニーやベリーを焼き込んだバターケーキなど、ドイツではおなじみのケーキが並ぶ中、私が手に取ったのはほうれん草とフェタチーズが巻いてあるトルコ風のパイと、同じクラスのスペイン出身のママが持ってきていた塩味のケーキ。スペインのケーキかと思って尋ねたら、ちょうど遊びに来ているフランス人の義母が焼いてくれたとのこと。先述の通りこの保育園は市立なのだが、マルチカルチャーのここの地域がら、園児たちの家庭もなかなかインターナショナルで、だから持ち寄りビュッフェも異国の味があるだろうなと期待していたのだ。ちなみに私が持ち寄ったのは、ドイツでは一般的なリンゴのケーキと緑茶に小豆を混ぜた和風パウンドケーキである。皆、食べてくれるかしら?

なかなかビュッフェから離れないわが子をうながして外に出ると、カラフルな旗や工作もので飾り付けられた中庭で子どもたちが走り回り、親たちもおしゃべりを楽しみながら、芝生の上で食べたり飲んだりピクニックパーティーさながらだ。保育士たちが描いてくれるフェースペイントコーナーでわが子は頬に真っ黒いクモ(!?)を描いてもらい、庭の中に隠された動物の絵を探し当てるゲームでアイスをもらったり(とまた食べる)、砂場で踊る、というか転げ回ったり。なるほど、なぜいつも頭まで砂だらけになって帰ってくるのかがよくわかった……。

そもそもコロナ禍で今まで他の園児や親たちと会う機会があまりなかったし、1年目のわが子はともかく、2年前に入園した子どもたちは今までこういう機会がほとんどなかったのだろうから、本当に楽しいだろうなと思う。ロックダウンで園の友だちとずっと会えなかったり、楽しい行事がなくなったり、コロナ検査も先月まで義務でやらされていたり、と、皆よくがんばったね。というより、子どもたちはそれなりにその環境にちゃんと対応していて、むしろ大人の都合であれやこれやと子どもたちを振り回したこともあったように思う。子どものほうが冷静でたくましいかもしれない。

そうこうするうちに2時間はあっという間に過ぎ、最後の締めは、とあるパパがギターの弾き語りの伴奏をつけた、子どもたちの合唱。これまたドイツでは皆が知っている「カメムシの歌」を歌っている子どもたちを見て、ちょっと涙腺が緩んだ。先述の通り、この保育園は市立、公立のごく一般的な園である。ただマルチカルチャーの地域の中にあることもあり、子どもたちの肌の色や顔立ちもさまざまだ。送迎の時の親子の会話でもドイツ語以外の言語をよく耳にする。そんな顔立ちも体の大きさもバラバラの子どもたちが一緒にドイツ語で楽しそうに歌を歌っているその様子を見て、この子たちがこれからの未来を作っていくのだと思ったら、なんか感傷的になったのだ。いろいろなバックグラウンドの子がいて、いろいろな言語が飛び交い、それぞれの生育環境の文化がある。公用語以外の言語を話してもいい、それが当たり前である社会や国。そして世界にはそれが当たり前ではない、許されない社会や国があることを思うと、これは幸せな、でも特別であってはいけないことだと改めて思う。「愛国心」なんていらないよな、と、そんなことまで考えたりしたのだった。


写真:
©️ Aki Nakazawa
最後の踊りはミツバチのダンス。大人も一緒に踊ります。我が州はもうすぐ夏休み。新学年が夏の終わりからスタートするドイツでは、年長の子どもたちが卒園していきます。最後にいい思い出ができてよかったね!

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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