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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 年初めに思うこと

中沢あき2023.01.26

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。

ここ最近のドイツはかなり寒い。ドイツの中でも比較的温暖と言われるケルン周辺でも日中の最高気温が0度から3度ほど、夜になると零下になって雪がちらつく。日本のお風呂に毎日浸かってゆるんだ心と体に鞭打って、今はいかに効率的に速くシャワーを済ますかを心がけるエネルギー危機の日々である。ううう。

昨年末は一時帰国していた。日本国籍を持たない人の入国制限が解かれたので、家族揃って3年ぶりに日本で年末年始を過ごした。ドイツの伝統的なクリスマスもいいが、私はやっぱり日本の大晦日とお正月がいい。

特に理由はないのだけど、我が家はいつも大晦日に鎌倉詣をする。大仏寺へ行って手を合わせ、由比ヶ浜へ散歩に出て、海岸沿いのカフェでお茶をする。ケルンには海がない。だから東京に帰ると、一度は見ておこうと海に出かける。遠くへ広がる海やゆったり寄せる波を見ると、心がホッと落ち着いて、一年の終わりにここに来られてよかったなと深呼吸をしながら思う。いろいろなことが、ここでなんとか締め括れる気がする。来年はどうなるのかなあ。いつもなら初詣の準備中の鶴岡八幡宮にサッとお参りして帰ってくるのだが、今年は時間が遅くなって八幡宮は行かずに帰った。

夕飯時に母が天ぷらを揚げ、私がそばを茹で、皆で食べ終わったあとはダラダラと紅白歌合戦を見ながら、まあこんなんじゃ日本のポップはKポップの勢いには勝てないよねえ、なんて思ってたら、Facebookのタイムラインで在外の年配の人がすごく推していた藤井風を見て、こりゃまたすごい人が出てきたもんだ、と思いながら年越し。ゆく年くる年を見て年が明けたら、夫は近所の神社の初詣の様子を撮影したいんだとか言って一人で出かけて行き、私は既に子どもに寝取られた布団になんとか潜り込んで寝る。

目覚めた元日の朝はおせちと雑煮で遅めの朝ごはん。数日前の家族旅行で滑ったスキーで転んで腰を打った父は、腰だけではなくて喉が猛烈に痛いと晦日は寝込んでいたが、年明けと共にだいぶスッキリした顔をして具合が良さそうな一方で、参加予定だった近所に住む妹は、頭痛がするとかで欠席。そんなわけで家族で揃って行こうと思っていた初詣は翌日に延期し、夫と子どもと一緒に都庁の展望台に行く。

45階でエレベーターを降りると、素晴らしいピアノの演奏が聞こえてくる。新年のライブイベントとかかな?とその音の方に近づいていくと、部屋の真ん中に置かれた、草間彌生の水玉模様が施されたグランドピアノを引いている小柄なピアニストが。と思ったら、弾き終わっておじぎをしたのは小学高学年くらいの男の子。すると次に弾き出した同じくらいの年の女の子もまたショパンだかのすごい演奏を。これは訪れた人たちが自由に演奏することができるピアノらしい。次々に飛び込みで弾く老若男女がクラシックからポップスから自分の十八番を披露するのだが、これが皆、上手い。うーん、日本人のピアノの腕前ってすんごくレベルが上がったじゃなかろうか、みんなすごいのね!とここ数年ほとんど鍵盤に触ってない自分を恥じていたら「お嬢さんも弾いてみませんか?」と女性の係員が、(私じゃなくて)私の腕の中の子どもに声をかけてくれた。「さっきからずっと見ていらっしゃるから、弾きたいんですよね、お嬢さん?」うちの子どもは弾ける、なんていうレベルでは全然ないくて、いやいやと苦笑いをしそうになった母とは対照的に子どもはすかさず「弾きたい!」

じゃあ終了前の最後の番で少しだけ触らせてください、とお願いし、最後に呼ばれて椅子に座った我が子は、適当に鍵盤にジャーンと指を一、二度おろして固まっているので、一緒に弾こうか、と手をとって、「きらきら星」のメロディーを片手の指だけでゆっくりと一緒に弾いた。なんとか間違いなく弾き終わると、びっくりするほど大きな拍手を皆さんがしてくださって、その優しさに正月から母感激である。うちの子どもにとっては生まれて初めての人前での発表だ。次に来たときには何か弾けるように練習してみよっか?と言うと、がんばる!ですと。

雲ひとつなく晴れ上がった青空の清々しさと共に迎える東京の正月は最高だと思う。高層階の大きな窓から晴れ渡る空と眼下に広がる街並みを見て、今年の抱負を思い浮かべる。一番に浮かぶのは、なんと言っても「健康」。ここ何年も、年賀の挨拶には「心身の健康を」と書いてきたけど、昨年からさらにそのことをつくづく感じる。

コロナにも罹ったし、それ以上に子どもが保育園から持ち帰ってくる風邪にも何度もやられ、出産後から悩む尿もれに絡んでの運動不足に、そろそろ更年期も始まるような兆しも感じたりと、なんというか本当に具体的に行動に移さないとヤバイ、と基礎体力の低下を感じたわけだ。

一方で、年末に5年ぶりにスキーをして、久しぶりに運動で汗をたっぷりかき、ついでに風邪もそれでスッキリ治ってしまうという体験が励みにもなった。よかった、まだスポーツできるんだ、私、と自信が少し取り戻せたのだ。

「ようし、今年は少しずつ不調を改善して、運動や筋トレも再開するぞ!」
と、青空を見つめて気合を入れた。

なのに、ドイツに帰る直前からなんと左の膝が痛くなった。曲げるにも伸ばすにも痛く、歩くのにも足を引きずるほど。まいったな……。

インターネットで調べて、良さそうな整形外科に電話で問い合わせるも、新規の患者の受付は4月までいっぱいで受けられないとのこと。出たよ、ドイツの医療現場あるある……。

しかたないので翌日に家庭医へ行き、まずは紹介状をもらってレントゲンを撮りに大病院へ行くことになった。

話はそれるが、うちの家庭医は結構イケメンだ。という記憶がある。記憶がというのは、過去3年近く、マスクをした彼の顔しか見ていないからだ。あるときインターネットの医院の紹介情報に載っていた彼の写真を見て、あれ?と思った。顎髭を生やした彼の顔に馴染みがなくて、髭なんてはやしてたっけ?

日本滞在中、誰かともそういう話をした。「マスクで半分顔が隠れたときと、外したときの顔の印象って、けっこうガラリと違いますよね、こんな顔だったんだあ、ってひそかに思っちゃう」

コロナ禍の間、みんな、同じことを思ってたのね。

ドイツでは2月1日からとうとうマスク着用義務が、医療現場などを除いた全ての場で解除となる。感染症の多い冬の時期に解除するなんて、という医療専門家たちからの反対意見もあるが、それでも政府の見解ではルール解除となるらしい。防塵マスクの着用を義務付けたときの根拠の曖昧さと同じくらい、この時期の解除の意義がよくわからないが、もうどうでもいいや。と思うくらい、コロナの話を聞かなくなった。先日買い物に行ったイケアのトイレでは、ハンドドライヤーの使用が可能になっていて、トイレで次々に鳴り響くガーっという音に懐かしさすら覚えた。

マスクは街中ではもうほとんどの人がしていないが、それでも咳き込む人がマスクをしていたりするのを見ると、そうそう、こういうマナーとしてマスク習慣が残ってくれるといいなあと思う。だってもうすぐ花粉症の季節。そうしたら私はマスクをしたいから、以前のようにマスクをしても変な目で見られたりすることがないようになってほしい。

ウィズコロナなのか、アフターコロナ/コロナ明け、と呼ぶべきかわからないが、ともかくもドイツはすでに次のフェーズに入っている。今年はコロナではなくて、戦争とインフレに振り回される一年になるのはほぼ確実。だからこそ、自分の体も心も労わり、鍛えて、生き抜くべき強靭さを備えたい、と思う年初めです。がんばりましょうね!



都庁からの眺め
写真:©️ Aki Nakazawa

東京の空に願った抱負が叶うかは自分次第。そして今年は再会が多くあるといいな。家庭医の顔を見られるようになるのはもっと先になりそうだけど(まあ別に見なくてもいいのですが)、今年は皆の顔がもっと見ることができるようになるよね。友人知人たちにももっと会いたいなという気持ちが戻りつつあるこの頃です。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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