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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル(3) ドラマ「愛と、利と」大卒、高卒の壁が阻む恋愛

成川彩2023.02.22

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4人の男女の社内恋愛を描いた韓国ドラマ「愛と、利と」が2月9日、最終回を迎えた。日本ではNetflixで配信中だ。こじれにこじれた展開だったが、そのこじれの背景には大卒、高卒の壁があった。

この連載の初回で映画「子猫をお願い」を取り上げた時、20年前の「高卒女性社員」に対する差別待遇について言及した。当時は大学に行かずに就職する女性が多かったが、その後韓国では女性の大学進学率が急激に上がり、2021年には81.6%に達した。だが、ドラマ「愛と、利と」を見る限り、差別待遇がなくなったわけではないようだ。

「愛と、利と」の韓国の原題は「愛の理解/利害」だ。「理解/利害」と書いたのは、「이해(イヘ)」というハングルは「理解」と「利害」の二つの意味を表すからだ。理解の難しい愛のことでもあり、利害が絡む愛のことでもある。同名小説が原作だ。
韓国ドラマにしてはめずらしく展開がゆっくりで、日本でも韓国でも「もどかしい」という視聴者が多かった。韓国では「さつまいもを食べているようにもどかしい」という表現があるが、「さつまいも100個食べているようだ」という声も上がるほどだった。そうは言いながらも最後まで見てしまう、妙な魅力のあるドラマだった。



主人公ハ・サンス(ユ・ヨンソク)は同じ銀行で働くアン・スヨン(ムン・ガヨン)に恋心を抱いている。スヨンもまんざらではないようだ。職歴はスヨンがサンスよりも長く、新人のサンスはスヨンから仕事を学んだ。2人は惹かれあいながらも簡単には結ばれず、サンスは新たに赴任してきたパク・ミギョン(クム・セロク)と、スヨンは銀行の警備を務めるチョン・ジョンヒョン(チョン・ガラム)と付き合い始める。



――サンス

4人は同じ銀行で働いているが、サンスとミギョンはソウル出身の大卒、スヨンとジョンヒョンは地方出身の高卒だ。

スヨンは契約職にあたるサービス職で、一般職への転換を目指している。能力はあってもサービス職ゆえに任される仕事は限られ、差別待遇を実感している。

一方、ミギョンはサンスの大学の後輩で、裕福な家庭で育ち、経済的には働く必要はないのだが、親の財力に頼らず働こうとするしっかり者だ。ミギョンはサンスを気に入り、屈託なく積極的にアプローチする。スヨンはサンスが自分に気があるのを知りながらも、自分と境遇の近いジョンヒョンと付き合い始める。それを知ったサンスはスヨンへの思いを断ち切れないまま、ミギョンの告白を受け入れる。



――ミギョン

サンスとスヨンの行き違いは、スヨンのコンプレックスによるところが大きい。サンスが自分への告白をためらったのは、自分と不釣り合いだからだと思い込んでいる。サンスはソウルの富裕層が多く住む江南(カンナム)出身だが、実は母子家庭で、経済的に豊かとは言えない暮らしぶりだった。視聴者の私には、スヨンはサンスとの間に自ら壁を作っているように見えた。

だが、スヨンが壁を作るのもわかる気がする。銀行の同僚に大手企業の男性を紹介され、初対面の食事の席で、男性から「何科出身ですか?」と聞かれたスヨンが「大学は出ていません」と答えると、男性は「あり得ない」という表情を見せた。女性の大学進学率が8割を超える今、2割に満たない女性は20年前以上に肩身の狭い思いをしているのかもしれない。

銀行の支店長は、スヨンの手を握って激励の言葉をかけたり、顧客接待の席に同席させたりする。「セクハラ」というには微妙なラインだが、ほかの行員にはせず、スヨンにだけするところを見れば、一般職を目指すサービス職という立場のスヨンだから許されると思っているのかもしれない。



――スヨン

結局、煮え切らないサンスとスヨンのせいで、ミギョンもジョンヒョンも振り回されることになる。「階級」にとらわれて自分の感情に素直になれない若者たち。ドラマだけでなく、実際もそうなのかもしれない。一昔前は日本に比べて積極的に自分の意見や感情を表現する若者が多かったように思うが、大学院に通う私の周りの若者を見ても、最近は全般的におとなしい。



――ジョンヒョン

2021~2022年に放送されたドラマ「その年、私たちは」でも同じようなことを感じた。クク・ヨンス(キム・ダミ)がチェ・ウン(チェ・ウシク)に別れを告げたのは、ウンが嫌いになったわけでなく、経済的に苦しい自身の状況のためだった。ウンはわけもわからず振られ、長い間失恋から立ち直れなかった。時を経て2人は再会し、依然として相手を好きな気持ちを自覚しても、互いになかなか言い出せない。さらにウンの親友のキム・ジウン(キム・ソンチョル)に至っては、高校時代からヨンスに片思いしながら、一度も本人に打ち明けないままだ。

もどかしいというよりも、その繊細さに驚いた。多くの人が食べていくのに必死だった時代から、国内総生産(GDP)がじきに日本を上回るほど経済発展を遂げた韓国で、若者たちは経済的格差に敏感になり、傷つきやすくなっているのかもしれない。

傷つくことを避けた結果、さらに多くの人を傷つけてしまう「愛と、利と」を見て感じることは、人それぞれだろう。シンプルに自分の感情に素直になるべきだったと言うのは簡単だが、それを難しくさせる「階級」が現実としてはばかっている。


Netflixシリーズ「愛と、利と」独占配信中

 

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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