ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (25) 傷を抱えた男女のロードムービー『愛の誕生』

成川彩2025.12.31

Loading...



シン・スウォン監督の新作映画『愛の誕生』が、9月の釜山国際映画祭に続き、12月のソウル独立映画祭でも上映された。『愛の誕生』は傷を抱えた初対面の男女が旅に出る、一風変わったロードムービーだ。韓国では来年(2026年)公開予定という。

男性主人公のセオは韓国生まれの韓国人だが、見た目は黒人。これはセオを演じたハン・ヒョンミンも同様だ。ハン・ヒョンミンはナイジェリア人の父と韓国人の母の間で生まれ、モデルとして活躍している。韓国生まれで韓国語が母語なのに、劇中のセオと同様、英語で話しかけられることが多いと言う。共感しながら演じたと語っていた。演技経験は少ないが、ハン・ヒョンミンでなければ成り立たない映画だった。

ただ、セオは父も母も韓国人だ。正確には分からないが、母(キム・ホジョン)はそう言っていた。「私は黒人と寝たことはない」、「セオは突然変異」と。セオはそんな母に可愛がられて育ったが、母以外の家族には冷遇されたようだ。唯一の心の拠り所だった母の病死が、セオが旅に出るきっかけとなった。

セオはブランド品の高価なキャリアケースを購入して地下鉄に乗り、不特定多数の乗客に呼びかけた。「一緒に旅に出てくれる人を募集する」、「旅の終わりにこのキャリアケースをプレゼントする」と。これに応じたのが、女性主人公のソラ(イ・ジュヨン)だ。

セオとソラの共通点は、大切な人を失った過去から立ち直れないでいる点だ。ソラの場合は、性的少数者であるがゆえ、愛する人と結ばれなかった。セオと二人旅に出るが、男女の愛に発展するわけではない。

シン監督が自ら脚本も書いたが、原作の小説がある。キム・ヒジンの『異なる夏』という小説で、セオが韓国人夫婦の息子でありながら見た目が黒人という点は原作のままだが、ソラが性的少数者というのは原作とは異なる点だ。

特に印象的だった小道具が二つあった。一つはホワイトタイガーの着ぐるみ。セオはいろんな仕事に挑戦してきたが、見た目が黒人という理由で続かないことが多かった。旅に出る直前は、遊園地でホワイトタイガーの着ぐるみを着てパフォーマンスをする仕事に就いていた。セオにとって着ぐるみは「仮面」だ。仮面をかぶった状態で親しくなった友人もいる。その友人は仮面を脱いだセオの顔は知らなかったが、知った時の反応はやはりセオを失望させる。ホワイトタイガーなのも、理由がある。ホワイトタイガーも突然変異だからだ。

もう一つは、食卓。ソラはオーダーメイドで食卓を作る仕事をしている。食卓というのは、家族の象徴でもある。母と二人で食卓を囲んでいたセオは、食卓の前に座るたびに、母の不在を感じるだろう。私自身、母が亡くなって2年半経つが、家族で囲んできた食卓を処分できないでいる。一方、ソラは元恋人のミンジの結婚祝いに送った食卓が、ミンジの配偶者から返送されてきたという痛みを抱えている。

『ガラスの庭園』(2017)のムン・グニョンのほか、『若者の光』(2020)のキム・ホジョン、『オマージュ』(2021)のイ・ジョンウンらシン監督作で主演を務めた俳優たちも出演し、脇役だがさすがの存在感を放つ。

平凡に生きろと、型にはめようとする人たちが多い世の中で、ソラは言う。「平凡って何?」。セオとソラの旅は、それぞれの痛みを克服するための旅だ。一人では勇気が出ないが、二人なら歩みだせる。偏見の向こうへ。

RANKING人気コラム

  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ