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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル(7)離婚というハッピーエンド、ドラマ「医師チャ・ジョンスク」

成川彩2023.06.21

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ハッピーエンドといえば結婚だったのは、今や昔? ドラマ「医師チャ・ジョンスク」は主人公が離婚するハッピーエンドだった。韓国で6月4日に最終回を迎え、18.5%という高視聴率で幕を下ろした。日本でもNetflixで配信中だ。

主人公はオム・ジョンファ演じるチャ・ジョンスク。医学部出身だが、専業主婦。意図せず若くして妊娠し、結婚して子どもを産み、医師の夢はあきらめた。医師の夫(キム・ビョンチョル)、研修医の長男、大学受験目前の高3の長女、そしてわがままな義母と暮らしている。医師として活躍する女友達をうらやましく思いつつ、家族を全力でサポートする生活にもある程度満足していた。ところが、病気を経て、やっぱり医師として働きたいと思い立ち、研修医から再スタートする。



いわゆる「経歴断絶女性(経断女)」の物語だ。出産・育児で経歴が断絶した女性のことで、ベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公キム・ジヨンも経断女だった。ただ、最近は否定的なニュアンスのある言葉として、代わりに「経歴保有女性」という言葉を使うようになってきた。

ジョンスクは家族に人生を捧げてきたようなものだったが、実は夫は浮気していた。ジョンスクは夫の勤め先の病院で研修医として働き始めるが、その同じ病院に勤める女性医師と夫が浮気していたのだ。さらにロイ・キムというイケメンの医師がジョンスクに好意を寄せ、一つの病院で複雑な四角関係が展開する。夫の浮気はドラマ初回から出てきて、視聴者としてはジョンスクがいつどうやって知るのか、知ってどうするのか、というのが気になるポイントだった。

韓国では「高校3年生」は特別扱いされる。仕事を辞めて大学受験のサポートをする親もいるくらいなのに、「高3」の親が新たに仕事を始めるというのは、大変な決意だ。ジョンスクは40代後半という設定で、長女の大学受験だけでなく、本人の病気や母の病気など、中年女性が抱える様々な問題に直面し、医師の夢をあきらめざるを得ないような状況にたびたび陥る。

ジョンスクを演じたオム・ジョンファは53歳。歌手兼俳優として長く活躍してきたが、近年は出演が減り、「往年のトップスター」という雰囲気もあった。「医師チャ・ジョンスク」のヒットに続き歌手としても活動を再開し、「第二の全盛期」と報じられている。視聴者としては、キャラクターとしてのチャ・ジョンスクと、俳優オム・ジョンファの両方を応援するような気持ちだったのではなかろうか。

最終回は登場人物がそれぞれ自立していく姿が描かれた。困るのは、ジョンスクに家事を丸投げしてきた夫や義母だ。ジョンスクは家族のサポート役を卒業し、小さな医院を開業する。ロイ・キムが運転するバイクの後ろに乗せてもらっていたジョンスクが、自らバイクの免許を取るのも象徴的だった。夫から独立しただけでなく、優しく手を差し伸べるロイ・キムにも甘えないジョンスク。清々しい結末だった。

今年は離婚弁護士(離婚を専門にする弁護士)が主人公のドラマも立て続けに放送された。「私たち、他人になれるかな?」(1~2月放送)と、「離婚弁護士シン・ソンハン」(3~4月放送)だ。「私たち、他人になれるかな?」は男女の主人公が共に離婚弁護士で、さらに2人は離婚した元夫婦だ。「離婚弁護士シン・ソンハン」は主人公シン・ソンハン(チョ・スンウ)が離婚弁護士だ。それゆえ、ドラマの中で様々な離婚のケースが登場し、結婚とは?離婚とは?と考えさせられる。

「私たち、他人になれるかな?」の主人公、オ・ハラ(カン・ソラ)とク・ウンボム(チャン・スンジョ)は、うまく離婚できず、なかなか他人になれないケースだ。

ハラは有能な離婚弁護士としてテレビにも出演するほどで、第1話では「姦通罪」についてテレビで語る。姦通罪とは、婚姻して配偶者のいる人が配偶者以外の人と姦通することによって成立する犯罪だ。日本では戦前、妻の姦通とその相手の男性は処罰されるが、夫の姦通は処罰の対象にならないという不平等なものだったが、男女平等の観点から1947年に廃止された。

韓国は夫も妻も同じように姦通罪が適用されるものだったが、2015年に廃止された。かなり最近のことだ。ハラがテレビに出演し、姦通罪の刑事処罰はなくなっても民事で慰謝料を請求することはできると興奮して主張するのは、自身もウンボムの浮気が理由で離婚した(と思っていた)ためだ。弁護士として他人の離婚と向き合いながら、自分たちの離婚についても考え直すというドラマだった。

一方、「離婚弁護士シン・ソンハン」の原題は「シン・ソンハン、離婚」で、韓国語の”シンソンハン”は「神聖な」という意味もあり、「神聖な、離婚」とも読めるタイトルだ。



第1話でシン・ソンハンが営む法律事務所を訪ねてきたイ・ソジン(ハン・ヘジン)は自分が浮気した有責配偶者だが、息子の養育権だけはほしい、というのが依頼の目的だった。イ・ソジンは人気のラジオDJで、浮気の現場を浮気相手が撮影し、世間に流布されてしまった。訴訟を通してイ・ソジンの名誉はさらに傷つく可能性もある。離婚によって何を得て何を失うのか、依頼者の究極の取捨選択にシン・ソンハンが寄り添う。

現実としてはチャ・ジョンスクのようなハッピーな離婚はまれだと思うが、いずれも主人公や依頼者の離婚から何かを学び、一視聴者の自分の人生を振り返る、そんなドラマだった。結婚が当たり前ではなくなってきた韓国で、離婚もまた、よりよく生きるための選択肢として前向きに描かれるようになってきた。


Netflixシリーズ「医師チャ・ジョンスク」独占配信中
Netflixシリーズ「離婚弁護士シン・ソンハン」独占配信中

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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