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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (13) 韓国の離婚熟慮期間「ラブリセット 30日後、離婚します」

成川彩2024.03.05

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日本では離婚届を出せば基本的にすぐに受理されて離婚が成立するが、お隣の国、韓国では「離婚熟慮期間」というのがある。裁判所に離婚の意思を伝えてから1ヵ月(未成年の子どもがいる場合は3カ月)離婚について再考する期間が与えられるのだ。日本で3月29日に公開予定の映画「ラブリセット 30日後、離婚します」(ナム・デジュン監督)は、離婚熟慮期間の30日を描いた映画だ。

そもそも韓国の原題は「30日」だった。それでは何のことか分からないので日本のタイトルは補ったのだろう。韓国では昨年公開され、ラブコメディーでは異例の観客数200万人超を記録した。



ジョンヨル(カン・ハヌル)とナラ(チョン・ソミン)の離婚話だが、映画の冒頭、ナラの結婚式のシーン、相手はジョンヨルではない。ジョンヨルはナラと別れたことを後悔し、友人の営むバーでやけ酒を飲んでいたが、ナラを取り戻しに結婚式場へ行こうとドアを開けた瞬間、そこにはウェディングドレス姿のナラ。式場から逃げ出して来たのだ。再び付き合い始めた2人は親の反対も押し切ってめでたく結婚。という映画のような(映画ですが)恋愛結婚をした2人だったが、そのジャンルはロマンスからスリラーに。裕福な家庭で育ち、映画プロデューサーの仕事もしているナラに対し、司法試験受験生のジョンヨルはコンプレックスの塊だ。試験に合格して弁護士になってもジョンヨルの幼稚な態度は続き、ナラはたびたび怒りを爆発させる。ジョンヨルもデリカシーのないナラに愛想をつかし、2人は離婚を決意する。

日本では役場に離婚届を、それも2人一緒に行く必要もなく、2人の署名があれば1人で出しても受理される。だが、韓国では双方合意の上の離婚でも、一緒に裁判所に行って離婚の意思を伝えなければならない。熟慮期間を経て、それでも離婚の意思が変わらなければ、やっと離婚届が提出できる。

ところが、ジョンヨルとナラは熟慮期間を言い渡された裁判所からの帰り道に交通事故に遭い、2人一緒に記憶喪失になってしまう。憎しみ合っていたことも忘れて再び惹かれあう2人と、離婚成立に向けて必死に記憶を取り戻させようとする親たちのコメディーが繰り広げられる。ナム・デジュン監督は熟慮期間について「悪い記憶のせいで大切な記憶を忘れてしまったカップルに考える時間を与える一つの機会では」と話していた。

離婚熟慮制度は韓国では試行期間を経て2008年から義務化された。離婚の急増が背景にあるという。一時の感情で簡単に離婚して後悔しないよう、冷静に考えることを促す期間ということだろう。特に未成年の子どもがいる場合は養育費など決めるべきことがあり、離婚に向けた準備期間という意味合いもある。一方で、本人たちの意思を尊重して早く離婚できるようにするべきだという意見もある。



とにかく韓国では近年、離婚にまつわる映画、ドラマが増えている。2022年の韓国の結婚件数は19万1690件、離婚件数は9万3232件と離婚が結婚の半数近くに達している。少し前までは離婚はタブー視されていたが、それもだんだん変わってきた。韓国では離婚して独身となった人を「トルシン」と言う。「トラオン(戻ってきた)シングル」の略語で、トルシン男女の恋愛や、離婚した夫婦の再会など、様々な形で離婚を取り上げたバラエティー番組も人気だ。

熟慮期間が経過しても、離婚届を出さなければ離婚は成立しない。離婚を決めて裁判所に行ったけども結局離婚に至らなかったという夫婦も少なくない。さて、記憶を失ったジョンヨルとナラは30日後、どんな選択をするのか?



©CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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