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「あなた」も加害者

牧野雅子2018.03.22

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 しばらく前、東京で、女性専用車両に男性が乗り込んでトラブルになり、電車が遅れた…という「事件」があった。それに端を発して、女性専用車両は男性差別だとか、男性の権利が侵害されているとか、さらには女性専用車両の利用者を貶めるような話までもが、聞こえてきた。

 痴漢防止には女性専用車両があればOK、なんて思っている人はどのくらいいるだろう。当たり前だが、それは、根本的な解決策ではない。だいたい、女性専用車両の存在自体、恥ずかしいことだ。日常生活が脅かされる、普通に通勤や通学ができない社会だということなのだから。
 男性たちよ、女性専用車両の存在を快く思わないのならば、女性専用車両がいらない社会を作るにはどうしたらいいのか、を考えて欲しい。そもそも、痴漢がなければ女性専用車両は不要だったのだから。

 わたしのところには時折、SNSやメールで、被害の声が寄せられる。その中に、電車通学をする女子高校生からのものがあった。女性専用車両に乗っているのを、同級生の男子に見られてからかわれ、それから女性専用車両に乗れなくなってしまったというものだった。巷にあふれる、女性専用車両を利用する女性たちに向けられた非難の声も、彼女に突き刺さったという。男子にからかわれるくらいなら、痴漢被害に遭った方がまし、と思ったわけではないのだが、結果として、痴漢被害に遭わないために女性専用車両に乗ることよりも、痴漢被害に遭ったとしても男子からからかわれないという方を選び、一般車両(?)に乗り続けて、何度も痴漢被害に遭っているというのだ。

 女性専用車両に乗りたくても乗れない女子高校生がいる。まさに被害に遭っている、一番それを必要としている人。守られるべき人。その人のためにある車両。なのに、乗れない、という。彼女には、大人の「女性専用車両に乗ったらいいんだよ」という声よりも、同級生の男子のからかいの声や視線の方が重かった。学校を中心に回る彼女の生活世界では、同級生の視線はとてもとても重要なことだった。シェルターが用意されているのに、それを利用させない声や視線の存在も、彼女にとっては加害そのものだ。

 その女子高校生は、男子に「お前なんか痴漢に遭うはずがない」と言われて、言い返せなかったのだという。性被害を外見のジャッジとエロに結びつける、お決まりの論法だ。彼女は、被害に遭った経験があるから、もうそれ以上遭いたくなくて、女性専用車両に乗っていた。でも、その事実を、そのまま言う事は躊躇われた。


 たとえばここで、被害に遭ったことがあると言えば、その状況を語ることが要求される。エロ話として、性的な文脈で消費し尽くそうという気満々の相手に向かって、それを語らなければならなくなる。被害者に対するスティグマだって無視できない。痴漢被害が外見の評価と結びつけられることで、被害に遭うことがあたかも女性としての魅力を評価されたことであるかのように肯定的にねじ曲げられ、被害性が後ろへ追いやられてしまう。仮に、どんな人でも被害の対象になる、若くなくても、外見がどうであれ、と言ったとしても、外見をジャッジする土俵から降りたことにならない。

 彼女が黙るしかなかったのは、一瞬にして、そういうやり口を理解したからだ。そしてこれは、彼女の身にのみ起こったことではない。わたしたちが日常経験していることだ。
 はじめから、反論を封じ込めた上でなされる揶揄、からかい。男同士のコミュニケーションの中では、痴漢被害ですら、自分たちが盛り上がるいい「ネタ」扱いだ。ネタとして扱うために、状況が作られる。それを許しているのは何なのだろう。そして誰なのだろう。

 男性乗客全員を痴漢だと思っているのか、という怒れる男性の声を聞いた。「あなた」が痴漢だとは誰も言っていないのに、自分がそう思われていると思うのはどうしてなんだろう。被害者の置かれている状況に思いを馳せられないのはなぜなんだろう。被害者の姿が見えていないのはなぜなんだろう。


 あなたたちに「敵」というものがあるのだとしたら、それは女性ではなく、性加害を男性全般に共通するものとして語ろうとする男性たちだ。たとえば男には性欲があるのだからという理屈で性暴力を正当化しようとする人たち。もしかして、「あなた」もまた、その認識を共有していないか。

 自分は痴漢をしない、だから、自分は無関係だし、むしろ、女性専用車両や痴漢えん罪問題の「被害者」なのだという主張をする男性たちがいる。しかし、あなたたちが、女性専用車両を利用する女性を揶揄したり、被害に遭う女性にも非があると言ったり、外見や年齢で女性をジャッジし、あたかも痴漢被害に遭うことが女性として価値があるかのような発言をしたりすることは、被害者を追い詰め、更なる被害へと追いやっている。当事者にとっては、このこともまた痴漢被害という経験の一部なのだ。その経験の中では、「あなた」も加害者だ。あなたたちは決して無関係ではない。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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