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LPC官能小説第3回「私はワインレッドの革を張った、重い扉を押し開けた…」

鍬津ころ2016.07.27

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 午前中から、FAXの送信ミスや電話の取り次ぎ間違いをやらかして、散々だった金曜日。
 給料日は来週で、お財布の中身はあんまりゴージャスじゃなかったけど、こんな日にまっすぐ帰宅するなんてみじめすぎる。
 だから私、最寄り駅のひとつ前で降りて、以前一度行ったことのあるバーに寄ろうと思ったの。

 そこは、もう転職しちゃった先輩に、飲み会の後で連れていってもらったお店。
 悔しいけど口説かれたりはしなかった。だけど、緩いカーブを描く分厚い木のカウンターや、優雅なカッティンググラスに浮かべたキャンドルの柔らかな光に、すごく癒されたことは覚えてる。それに。
 今思うとあの先輩、ちょっと彼に似ていたかも。
『彼』っていうのはもちろん、最近私のハートとボディを騒がせっぱなしのアスリート、四条丸走(しじょうまる・かける)。
 先輩、背は低めだったけど、胸が厚かった。背広を脱いでシャツの袖をまくったとき、意外に逞しい腕の、肘のかたちがすごくカッコよかった……ような、気がする。
 ま、私も酔っぱらってたから、都合よく記憶を改造してるのかもしれないけど。

 駅近だけど、目立たない裏通り。古びた雑居ビルの2階。あれから2年くらい経つけど、案外覚えているものね。
 私、ワインレッドの革を張った、重い扉を押し開けた。

 カウンターだけの店内だけど、天上が高くて狭苦しい感じはない。オレンジ色の柔らかな照明。BGMが流れてないのが、なんだかすごく大人っぽい感じ。
 金曜日の夜だというのに、他にお客はいないみたい。カウンターを見回していると、何故か私の右側から
「いらっしゃい」
 の声。びっくりしてそちらを見た私、さらにびっくりして、思わず声が出ちゃった。
「うそぉ!」

 赤銅色に灼けた太い首を包む、真っ白なカラー。そのセンターには、黒い蝶ネクタイが行儀よくとまってる。黒光りするベストの胸元は、ダイナミックな筋肉の隆起が、まるで段々畑。
 そして、まくりあげたシャツの袖から剥き出しになった、チキンレッグみたいに逞しい腕。
 その両腕に、スーパーの袋らしきものをぶら下げた彼、記憶の中の先輩どころじゃないほど、四条丸君にそっくりだった!
 どうして四条丸君が、バーテンダーをやってるの!?

「すいませんね、開店したばっかりで。あ、お好きな席へどうぞ。すぐにご注文を伺いますから」
 ショックのあまり、目を白黒させる私に気づかないのか、彼はフレンドリーな調子でそう言った。ドアの右には、ストック用の冷凍庫か何かがあるみたい。彼、盛り上がった背筋とプリッとした美味しそうなお尻を見せて、そこに食材らしきものを詰め込んでる。
 私、彼の方をガン見しながらも、どうにかカウンターについた。

 彼の存在感が移動する。カウンターの中に入る。私の正面に立って、小首を傾げる。
「お待たせしました。ご注文は?」
「……あ、あうあう……えっと……」
 メニューを手に取るけど、注文なんか思いつくわけがない。私、すでにメロメロに酔っぱらっているんだもの。

「じゃあ、貴女のイメージでカクテルをつくろうかな」
 いたずらっぽい口調と同時に、彼は、カウンター越しに、サッと腕を伸ばした。
 次の瞬間、私は彼の逞しい腕に両脇を掴まれ、軽々と持ち上げられている。何が起こったか呑み込む前に、私はカウンターの上に、ストンと座らされていた。
「……え? なに、なに……!?」
 混乱する私の真正面で、彼は垂れ気味の目をくしゃっとさせて、
「どんなカクテルが似合うか、しっかりリサーチしないとね」
 私の脇から腿に手をずらし、屈み込んだ。

 大きなてのひらが私の腿を撫で、スカートをまくりあげる。有無を言わさない力で、両脚を開かされる。軽くつまんだだけで、ストッキングが大きく裂けて、内腿の肌があらわになる。
 彼はそこへ、顔を近づけて……
「ひゃんッ!」
 ペロンと舐められた。思わず、子供っぽい悲鳴が出た。熱くて滑らかな、濡れた感触。それから、強く吸われて頭がぼうっとする。
「すごく甘い……パッションフルーツみたいに刺激的だよ……」
 彼、子犬が毛布に潜るように、スカートの中に潜り込んだ。パンティ越しに、アソコ全体を含むようにむしゃぶりついて、ジュウッと吸い上げたの。

「や、そんな、恥ずかし……あ、アッ、イヤ、いやァん……」
 私、彼のコリコリした肘に両手を突っ張り、顔を上げて左右に振りながら、譫言のような声をあげ続ける。だって、この蒸し暑い中、一日仕事してたのよ。アソコだって、きっとすごく蒸れてる。
 死ぬほど恥ずかしいのに、彼ったら鼻先をワレメに突っ込んで、グリグリする。そんなことされたら、もっと濡れちゃう。

「ほら、ジュースが溢れてきた……」
「言わないでッ、やんッ、あぁああ……!」
 口では拒みながら、私の腰は恥ずかしさと同じ、ううん、それ以上の快楽に、カクカク動いてしまうの。
 彼は肝心の突起を避けて、あちこちを吸い上げる。私はもどかしさに身悶える。恥ずかしいけど、悔しいけど、もう我慢できない。
「……焦らさ、ないで……吸って……クリちゃん、吸ってぇ!」
 ああ……ついに言っちゃった……!


 ガクン!
 痛い!
 私、壁に後頭部をぶつけてた。
 バーのカウンターに座ってたはずなのに、どういうこと?
 あわてて周囲を見回すと、そこはガランとした電車の中。
 半分腰を抜かして、椅子にへたりこむ私の前に、車掌さんがやってきた。
「お客さん、終点ですよ。この車両は車庫に入りますんで、反対側のホームにどうぞ」
「……えぇぇ〜、し、終点〜!?」

 私、手前の駅で降りるどころか、終点まで爆睡してたみたい。今から飲みに行ったら、終電に間に合わない時間になっていた。
 だけど、ものは考えようよね。
 あのバーに、本当に彼みたいなバーテンダーがいるとは思えないし、夢の中にしろ、タダであんな体験ができたんだから、得してるんじゃない?
 週末は、彼をサカナに家飲みしようっと。
 私、そう思いながら、手摺を掴んでよろよろと立ちあがったの。

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鍬津ころ

鍬津ころ(くわつ・ころ)

札幌出身、東京在住。山羊座のO型。アダルト系出版社、編集プロダクション勤務後、フリーの編集者&ライター。2011年『イケない女将修行~板前彼氏の指技vs官能小説家の温泉蜜筆』でネット配信小説デビュー。近著『ラブ・ループ』(徳間文庫)。馬、鹿、ジビエ大好き飲んだくれ系アラフォー女子。タバコの値上がりには500円までつきあう覚悟。 

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