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欅坂46にはないもの。

李信恵2016.11.08

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欅坂46がナチス風の衣装を着たことが、国際問題に発展した。ユダヤ系人権団体サイモン・ウィーゼンタールセンター(SWC)は謝罪を要求。欅坂46の所属レコード会社であるソニー・ミュージックと総合プロデューサーの秋元康氏が11月1日にコメントを発表し、謝罪した。

ずっと昔、女性誌でファッションやグルメの記事を書いていた。もともと洋服が好きだった。取材の合間にもブティックを回って、さまざまな服を観た。目を肥やすつもりが、衝動買いしたり。今でもそうだ。

ある日、あるワンピースに一目惚れした。白地に青い蝶の柄、気に行って何度も着た。けれど、ある日そのブランドのことをふと調べたら、1933年よりナチス親衛隊、ナチス突撃隊、ヒトラー・ユーゲントの有名な黒や茶の制服の製造を手がけたとあった。それを知ってから、そのワンピースに袖を通すことをためらうようになってしまった。捨てることもできず、今もずっとクロゼットの中にある。

私は反差別のカウンター活動を取材したり、参加したりしている。差別者は、その行為自体が醜悪なんだけど、時々とんでもない服装の人がいる。全身真っ白の除染作業のような装いで、胸元にはマジックで「除鮮中」の文字。ヘイトデモの常連参加者には、ナチスのコスプレをする男性もいる。ハーケンクロイツの旗も何度も見た。みっともないし、ダサい。けど、差別者がファッショナブルで、スタイリッシュになったとしたら、そっちの方がずっと怖いよな。

3日にイスラエル大使館がソニー・ミュージックと秋元氏に対し、Twitterでメッセージを投稿した。

「タレントさんは多大な影響力があり、皆様がこの重大な問題について知識を持つことが重要です。そこで@keyakizaka46のメンバーの皆様をイスラエル大使館でのホロコーストに関する特別セミナーにご招待させて頂きたいと思います」

ネットでは、「欅坂46は悪くない。衣装をただ、着せられただけだ」みたいな声もたくさん見られた。まあ、そうかもしれない。アイドルとしてプロデュースされているんだし。ただ、20人以上もメンバーがいて、誰一人としてこの衣装の問題に気が付かなかったんだろうか?とも思う。お人形さんのように、ただ着せられて、演じる。それって、なんだかちょっと悲しいなあっていつも思う。自分の意思が見えないところ、そういうのが引っかかる。

イスラエル大使館の発言は、すごい。知識がないから、デマや悪意に安易に乗っかってしまったり、差別に加担したりすることを、私はたくさん見てきた。差別する側は「悪意はなかった」っていつも云う。悪意がある差別は分かりやすいけど、この社会の差別は悪意が無く行われていることも多い。

知ることって、本当に大切。でも、知らせる側はいつもしんどいことも知ってる。それでも伝えるのは、自分のためだけじゃなく、相手のためでもあるから。そして、差別や偏見をなくしていきたいからだ。欅坂46は、ぜひ特別セミナーに参加して学んでほしいと思う。

昔、日本軍慰安婦についてのドラマが放映されたことがあった。確か「愛と哀しみのサハリン」ってタイトルだったと思う。大学生の時に観たと思うので、1991年ぐらいの終戦記念ドラマだったはず。主役を務めた俳優が「(日本軍慰安婦の問題を)“知らなかったこと”自体が罪だと思った」とインタビューで発言したことを覚えてる。

今のこの日本の状況だと考えられないけど、そんなドラマが作られ、そんな発言をした俳優がいた時代があったはずなのに。逆行と云うか、社会がどんどん劣化しているような気がする。どうしたらいいんだろうって、いつも思う。

女性と服、まあ今回はアイドルグループの衣装だったけど、そのことについて考えていた矢先、ある男性ジャーナリスト(田中龍作氏)が柏崎市の市長選に立候補した女性(竹内えいこ氏)に向け、このような発言を行った。

「ダークグレーのスーツ姿。女性候補なのですか?男性候補なのですか? これでは女性有権者の心も、男性有権者の心もつかめませんね。当選する気があるのか、どうか? 疑わしくなりました。」

これに対し、竹内氏は、

「私のスーツの色が、なぜ『脱原発をする気がない』ことに結びつくのでしょうか?私は化粧は嫌いですし、スカートもハイヒールも嫌いです。なぜ女だからとそれを強要されなければならないのですか?女性が化粧しないのもダークスーツなのも『多様性』で認められる社会になってほしいものです。」

「スカートでもパンツでもいい。ヒールでもスニーカーでもいい。ひげを伸ばしていても剃っていてもいい。自分で事業を起こしてもよいし大企業に勤めてもいい。 自分の良いと思うことを選ぶことができる、これが私の考える多様性です。多様な生き方でのびのびとチャレンジできる柏崎にしましょう!!」

と返した。この発言を読んで、胸がすっとした。欅坂46になくて、竹内氏が持っているもの、それは自分の意志なんだよね。ファッションはメッセージでもあるんだから、そこにいろんなものが透けて見える。男性ジャーナリストは、アドバイスのつもりだったのかもしれないけど、ひとことで言えば大きなお世話で、ジェンダーバイアスかかり過ぎ。しかも、そういうことを指摘されるまで、気が付かないもんなんだな。手っ取り早く「男女」を逆にした時に、その言葉や表現が成り立つかどうかなんだけど。

誰かに着せられる服じゃなく、ちゃんと自分で選んだ服を着たいよね。

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李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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