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人生の新しいスタートの時に、この本を送りたいと思う

李信恵2017.07.19

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差別問題に関する本は、これまで多数出版されてきて、私もそれなりに読んできた。けれど、その度に何とも言えない読後感が残った。自分も被差別の当事者であって、これまでにも幾度となく差別を受けてきた。自分以外の属性の問題であっても、その差別には共通点があり、その度に追体験するからだろう。同じような思いをしている人がこの社会にはたくさんいて、それがまだ克服できていないもどかしさに、改めて憤りを感じたり、くちびるを噛みしめたりしてきた。

『結婚差別の社会学』(著者:齋藤直子)は、さまざまな結婚差別を分析しているが、分析だけに終わらなかったところがすごい。分析はもちろん必要だけど、そこで終わりって本もこれまで結構あった。学術書だから仕方がないし、そこからその分析をどう役立てるのかなんだけど。普通の人にはそういうことはなかなかできないし、ぽつんと取り残されるような気分になったことも多い。けれどこの本は、読み終わって、なんだかほっとした。

私自身は、結婚する際にひどい差別はなかった。なかったと思いたい。結婚を報告した兄と中学時代の恩師は、「こいつ(私)と結婚したら君(夫)が苦労する。考え直すなら今だ!」と、夫に話した。それはまあ冗談だけど(真実だったかもしれないが)、年上の在日の女性からは「日本人と結婚するなんて見損なった」と云われた。「在日は在日同士結婚するべき。それがお互いにとっても家族にとっても幸せである」といった考え方を持つ人で、そういう在日は珍しくはない。自分の幸せは自分で決めたいと思っていたので、さくっと無視した。けれど、その言葉は呪いのようにしばらくどこかで引っかかっていた。

アボジ(父)の弟は、日本人の女性と結婚した。子どもたちはすべて日本籍にしたし、日本名をずっと使っていた。その子どもたちが結婚するときに、朝鮮人(ルーツがある)と云うことが相手方にばれると嫌だからと、うちの家族は招待してもらえなかったことがある。オモニ(母)は、その時のことを悔しそうに話した。「あなたの弟は、朝鮮人から生まれたんじゃないの?」とアボジ(父)に怒りとともにぶつけたが、アボジは「差別があるから仕方ない。うちの家族を呼ばないことであいつらが幸せになれるんだったら、それでいいじゃないか」と話したそうだ。けど、どれほど悔しかっただろう。

幼馴染みの在日の男性と、10年ほど前にばったりと道端で出会ったことがある。「俺、今日本人やねん。」と、唐突に彼は話した。彼とは中学生の時に民族学級で一緒に学んだが、日本人の女性と結婚するときに相手の親から帰化を条件にされたと話した。「帰化しても俺は俺やけど。お前は帰化するなよ、そのままがいいぞ」と語った。それはまるで、自分に言い聞かせているようだった。

読みながら、自分に関わる結婚差別の数々を思い出したら、少し泣いた。何もできなかった自分が、悔しかったからなのか、何なのかよくわからない。この本の第10章は「支援」だ。この「支援」は、結婚差別を受けている当事者へ、その周りの人々ができるさまざまな支援の方法を紹介している。そして、当事者へのケアの必要性についても。それはまるで、反差別のカウンターと同じだと思った。当事者だけの問題じゃなく、周りができること。完璧に解決はしなくても、救いのような、未来への光のようなものを感じた。それによって、結婚差別を乗り越えていくことができるかもしれない。私も自分の持つ、過去の呪いがとけたような気分になった。

この本は著者のおさいさん自らが刺繍した、花の冠とつばめが表紙になっている。つばめは長い旅をして春になればこの地にもやってくる。そして、家族をつくる。軒先につばめの巣が出来ると、その家は栄えると日本では云われている。つばめは、解放同盟の前進になった会の名前だとも聞いた。結婚は、ゴールではなくスタートだ。結婚制度がそもそも差別的であるという声も、もちろん知っている。けれど、誰かが結婚という制度を選んだ時、または人生の新しいスタートの時に、この本を送りたいなと思う。差別を乗り越えるための何かを、きっとこのつばめが運んで来てくれるはずだ。

『結婚差別の社会学』 齋藤直子著 株式会社 勁草書房

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李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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