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入管問題と落書き、そして「わたしたちはもう一緒にこの社会で生きている」

李信恵2018.11.27

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11月に入って、大阪のとある場所へ数回ほど行った。そこは「大阪メトロ中央線コスモスクエア駅」だ。大阪から釜山に向かうフェリーが、そこから出ている。しばらくドタバタしていたので、のんびり船旅がしたいと思ったので、船で釜山へと向かった。何度かこのフェリーを利用しているが、先祖が来た道を遡っているような気分で、とても楽しい。海の上には国境なんか描けないなあと、当たり前のことを思った。

5回のうち3回は、大阪入国管理局(大阪入管)の人権侵害に抗議するスタンディングアクションに参加するためだ。この駅のすぐそばにある。「入管」という言葉を聞くと、あんまりいい気分にはならない。その昔、「大村収容所」と呼ばれた長崎県大村市にある法務省の大村入国管理センターは、もともとは在日朝鮮人を韓国へ強制送還させるための施設で、迫害を受けた場所でもある。

自分自身は、アボジ(朝鮮語で父)が亡くなった後、それから自分の国籍を作るとき、それから海外旅行の際にビザを取るために、大阪の夕日丘にあった出張所へ行ったことがあるが、その時も対応が悪くて嫌な気分になった記憶がある。「ヘイトスピーチ解消法」が出来るまで、在日や外国人に対しては「管理」するための法律しかなかったし。

釜山への旅行の帰りの船内で、ある人と出会った。デッキの喫煙コーナーで煙草を吸っていたら、日本人の年上の女性たちから「そこのお姉ちゃん、ちょっと」と声を掛けられた。「横にいる男性が何を云っているかわからないので、お姉ちゃんなんとかしてくれへん」と。70代ぐらいの男性がタバコを吸いながら立っていた。多分韓国人だろう。

その男性に韓国語で声を掛けると「大阪に着いてから姫路に行きたい。電車の乗り換えが分からないから教えてほしい」。自分の韓国語が下手なせいか、英語が出来ますか?と聞くと、英語の方が得意みたいだった。

私が「自分は在日朝鮮人だけど、韓国語が下手でごめんね」と云うと、すごく喜んで「自分も日本で生まれたけど、小さいころに韓国へ帰った。そして、韓国でも生活していたが、カナダに移住してもう30年以上トロントで暮らしている。ずっとエンジニアをしていた」。なんで姫路なのだろう?と思って聞いたら、「いとこが在日で、姫路にいるとはずだ。何十年も会ってないけど、会いたい」と。

船を下りる前にその男性に再度会ったので「いとこと無事に会えますように祈っているし、困ったことがあったら電話して来てね」と伝えたら喜んでいた。同じ「李」だった。「子どもが4人、孫が9人もいる」と話していたので「幸せな人生ですね」と。その話の概要を、最初に声を掛けてきた日本人の女性たちに伝えると、すごく喜んでくれた。日本で生まれ、韓国で育ち、カナダへと渡った移民の男性。その人は、生まれた場所と違う国で、今生きている。そして、幸せになった。

その男性と別れた場所のすぐ近くに、多くの外国人を収容する大阪入管がある。

初めて参加した日には、入管の中からから「助けて下さい」「また来てください」と叫ぶ声を聞いた。何もできない自分が情けなかったけど、だからこそ、また行かなきゃと思った。移民問題や入管問題へのアプローチはいろんな方法があるけれど、ヘイトスピーチがあった時に、カウンターの人たちの姿を見て救われたこともあったから、自分にできることは行動すること、声を上げること、ひとりじゃないと路上に立つことだと思ったからだ。

また、「(来てくれて)ありがとう」という声を聞いて、胸が苦しくなった。思わず、「夢や希望を持ってこの国に来たはずなのに、こんな社会で、こんな国でごめんね」と叫んだ。私もまた移民の子孫でもある。この国に、この社会にはずっと前から移民が暮らしている。自分の祖父母の世代から、何も変わっていないような気持にもなった。別の日には、入管の中から「We Are The World」を歌う声も聞こえた。彼ら、彼女たちがどんな気持ちでこの歌を歌ったのだろう。収容されているのは、同じ心を持った人間で、自分の祖父母の時代を生きた同胞の姿でもある。

その一方で、東京入管は11月20日、ツイッターで「FREE REFUGEES」(難民たちを解放せよ)などと描かれた落書きを撮影した3枚の画像を添付し、「表現の自由は重要ですが、公共物です。少しひどくはないですか」と投稿。そのツイートを固定していた。ネット上では、「ひどいのはどっちだ」と云うコメントが殺到したが、「落書き自体が違法だ」という声もあった。差別落書きは放置し、権力に抗う落書きと一般の落書きを同一視すること。また、内容はそっちのけで落書きという行為「だけ」を批判するマジョリティと社会っておかしいんじゃないかと思う。

もちろん、東京入管(や大阪)だけじゃなく、長期収容や治療拒否など人権を侵害するすべての入管や、そのシステムやあり方について、無関心であること、現代になっても「大村収容所」的なものを存在させる、国や行政もおかしいと思う。

この落書きは23日には消されていたという。周囲にあったほかの落書きはそのままで、消されたのはこれら入管に関係するものだけだった。けれど、権力に都合の悪いものだけが消されるという事実は残った。問題を解決したいという多くの人の思いは消せないし、入管の人権侵害についてさらに広く取り上げられることにもなった。

外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、新しい在留資格を設ける入管法改正案をめぐり、与党は27日にも衆院通過を強行しようとしている。外国人技能実習生の問題も、全ては地続きだ。外国人労働者を使い捨てにするような、定住ではなく短期滞在を前提とした改正は間違っていると思うし、問題点が多過ぎる。この改正案や、そもそもの入管法についても、さまざまなアクションと同時に学んでいけたらと思う。

そして、「移民の受け入れの是非」ではなく、「わたしたちはもう一緒にこの社会で生きている」ということを前提にして、隣にいる誰かの人権が侵害されないように、自分ができることをこれからも考えたいし、行動したい。そして、今はまず入管の前で声を上げたい。「一緒に生きよう」と。

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李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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