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潜む悪意に気をつけろ!

中沢あき2016.03.22

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世界遺産の大聖堂の町から、大晦日の集団暴行事件の町と話題となってしまったケルン。千人余りの群衆の中での集団犯罪というのも前代未聞で衝撃だったが、そのうちの多くがアラビア語を話す外国人だった、というところから、難民問題に揺れていたドイツ社会を更に大きく揺さぶる事件となってしまった。
この数ヶ月、警察や市による検証は勿論、社会問題としての観点からも様々な論議が重ねられてきているが、ドイツ国内の報道を知るだけでもこの問題が孕む複雑さにため息が出てしまう。大規模な集団犯罪という前代未聞の事柄に加え、その多くが女性を狙った強盗や性的嫌がらせの犯行であったこと、アラブ系の外国人がその主な人数を占めていたことから難民問題に絡むこと、大晦日というタイミングにも関わらず警備の甘さが露呈した警察の体制の問題、そしておそらくこうした行政や政治の都合及び社会への影響を考えたかゆえに報道が遅れたこと、などあらゆる事情が絡み合う。地元で起きた事件だし、書きたい事は色々あるのだが、刻々変わる情報や状況、そしてその複雑さに考えがなかなかまとまらない。そうした中、日本でのこの事件についての報道を見るたび、もやもやするというよりは怒りすら感じることがあった。それはこの事件をかなり煽動的に書きたてている印象を受けると同時に、ソース情報を誤訳してるのかそれとも意図的に意訳したのか、言葉の表現もなんともビミョーで事実が伝わらない記事が多かったからだ。

よく目にしたのはこの事件を難民による事件、として書いていた事である。酷い記事では「やりたい放題の難民」とまでサブタイトルを付けていた。実際はどうか。この大晦日の夜、ケルン中央駅にはアラビア語を話す外国人男性が何百人と集まり始めた。彼等は年越しを祝うべく、駅前の広場で泥酔し、花火を周囲の人に向けたりと騒ぎがどんどん大きくなっていった。(ちなみに年越しに花火を打ち上げる事自体は、ドイツの慣習として普通)そうこうするうちに膨れ上がった人数は千人規模になり、ケルン駅に入ってきた電車が既に満員、プラットフォームから駅構内、駅前の広場まで溢れかえる人々に混じっていた女性たちがやがて、周りの外国人男性に取り囲まれて体を触られたり、金品を強奪されたり、という犯罪行為があちこちで起こり始める。
この時の様子の写真をドイツの報道で見たが、私も普段利用する駅の構内が正に満員電車状態で、これは痴漢や強奪が起きても逃げられんな、とゾッとした。そもそも大晦日という恒例行事のタイミングでの警察の警備が甘く、対応も後ろ手になった事にも批判が集まったが、もっともこの状態にまでなってしまったら、確かに手の出し様がない…。警察を嘲る犯行者も居たそうだが、集団心理の高揚で怖い者無しの気分だったんだろう。

とはいえ、ここに集まった千人全てがこの犯行に及んだわけではなく、この集団心理と満員電車状態を利用して犯行に及んだ大きなグループがあった、ということだ。そうした状況ゆえに犯行者の現行犯逮捕や特定も出来ず、逮捕者も数十名しか挙げられなかったのだが、そのうちの約20名が難民認定を貰っていた者、という当初の報道から、話は一気に難民政策批判へと向かっていったのである。しかし実際の所、その後の詳細では容疑者60名弱の内、難民はたったの3名とわかり、またそれ以上の難民がそこに混じっていたかどうかの証拠はない。
じゃあ残りのこのアラブ系の外国人男性たちは何なのか?実はそもそも昨年秋に大量の難民がドイツに流れ込む前から、モロッコやアルジェリアなどの北アフリカ出身のアラブ系外国人による犯罪が問題にはなっていた。今回もケルンに集まった外国人の殆どは、デュッセルドルフやデュイスブルグといった近隣の町から電車でやって来たことがわかっている。
このデュッセルドルフやデュイスブルグの外国人による盗難や空き巣被害というのがこの数年増えてきている背景からして、この夜に集まって犯罪行為を働いた外国人の多くはこれらの外国人たちではないかとみられている。この北アフリカ出身の外国人たちは、本国での政治情勢や貧困ゆえにドイツに入って亡命申請をし、もし亡命が認められればそれで生活保護を受け、そのお金を本国の家族へ送金しながら同時に犯罪を重ねて金を稼ぐ、というケースがよくあるそうだ。なのでシリアからの難民とは事情が違い、故にドイツ政府も難民認定を与える出身国のリストから、北アフリカを外している。

さて話を日本の報道に戻して、こうした背景を知らずか、またはその後にドイツ国内で続いた報道を追わずに「犯人は難民」の前提で書いた記事は、無知か無責任か意図的な誘導か、である。そしてもう一つ、この話をセンセーショナルに盛り上げるネタとして使われているようにも見えた点を指摘したい。

この事件で起きた犯行とは、このアラブ系外国人男性が集団で強盗に加え、その場に居たドイツ人女性に性的襲撃を行った、ということである。この性的襲撃というのは、ドイツ語のWikipediaのタイトル「Sexuelle Übergriffe in der Silvesternacht(大晦日の夜の性的襲撃)」に従った。同じ事項の日本語のWikipediaのタイトルは「ケルン大晦日集団性暴行事件」である。微妙なニュアンスの違いだが、私はこれが当初からずっと気になっていた。

確かにこの騒ぎではその場に居た女性たちの体を触ったり服を脱がせたりという行為があり、強姦も数件発生した。ドイツの報道ではsexualle Belästiungという言葉が使われているが、これは訳するとセクシャルハラスメント、性的嫌がらせ、痴漢行為、ということになる。加えて強姦 Vergewaltigungが数件発生した、という報道はどこの記事でも一貫していた。つまり、この二つの行為とその対応する言葉の使い分けがされている。
ところが日本の記事はほぼ一様に「性的暴行」となっていた。この訳が気になってインターネットで調べてみると、日本語の「性的暴行」の定義はWikipediaやweblio辞書によれば、痴漢行為から強姦などの直接の性行為まで含むような場合まで、自主的承諾無しのあらゆる性的物理接触を含めるとある。ただしマスコミ用語においては強姦の事を「性的暴行」と書くケースが多く、その他の痴漢行為などは強制わいせつと書かれるそうだ。ちなみにドイツ語では「性的暴行」にはsexelle Nötigungとまた別の言葉がある。なるほど確かに私の印象でも、通常の新聞記事などでは痴漢行為はそうと書かれ、強姦などの時は性的暴行と書き分けていると思っていたのだが、もしドイツの記事をソースとして日本の記事を書いているならば、そこはきちんと原文に従って、性的嫌がらせ(又は痴漢行為)及び数件の性的暴行(又は強姦)があった、と正確に書くべきではないだろうか。
現地のメディアは慎重にその情報を扱っているのに、日本のマスコミがそこを一絡げにしてしてしまうのは手荒過ぎる。念のために言っておくと、私は事件を矮小化したいわけではない。が、事実はやはり正確に伝えることをしないと、受け手の中で違うイメージが作られてそれが真実となっていってしまう危険性がある。日本の記事を読むと、まるでケルンの駅前の所々で次々と強姦が行われたような印象を受けるし、ケルン=恐ろしい町、アラブ系の人=恐ろしい人間の印象が出来上がってしまう。

先日、ドイツのフェミニズムの論客の女性たちが国内で起きている性的暴行をテーマに鼎談するというラジオ番組があった。当然このケルンの事件も話題に登ったのだが、印象的だったのは、一人がこの事件を巡る報道に苦言を呈したことだった。曰く「一番重要なのは被害を受けた女性たちへのケアや今後についての対策ということであり、そもそもこれまでもカーニバルやオクトーバーフェストなどの大きなイベントでの強制わいせつや強姦事件というのは毎年のように起きていて、包括的に考えなければならない筈なのに、難民問題の方へと話を逸らされている感がある」更に「事件の現場に居た女性が、自分も巻き込まれそうになったところで別のアラブ人男性が助けてくれた、という話をSNSで流したところ、それはお前が女性として魅力がないからだろ、などという攻撃的な書き込みが相次いだそうだ」一体この書き込みは何が言いたいのだろう?これではまるで非難相手の犯行者たちを肯定しているかのようじゃないか。自分たちの思い描く「犯人=難民、アラブ=悪」の物語を邪魔するな、と言わんばかりだ。

これなのだ、たぶん、私が感じているモヤモヤとした感じは。起きた事は決して許されないが、事実が曲げられて報道されたり、受け取った情報のみ、または受け取りたい情報のみから、自分たちの思い込みたいイメージが作られていっているように思える。つまり印象操作というか、物語のでっち上げになりかねない危険性を孕んでいる。今回の日本の報道にはガッカリしたが(現地に特派員を置いている意味がない!)、ドイツ国内の報道でもこうした危険性を感じるときがある。大晦日に起きたことはとんでもない悪意だが、しかしそれを伝える側にも何かしらの悪意が潜んでいたりしないか、そんなことを考えてしまう。溢れる情報を前に私たちのリテラシーが問われている中、冷静に慎重に向き合っていかなければ、と自戒するこの頃だ。

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事件の現場となった、ケルン中央駅の駅前の広場。こちらは大聖堂側。普段は観光客も多く行き交う場です。それゆえ、普段からスリには注意!

© Aki Nakazawa


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こちらは反対側の広場。この二つの広場を繋ぐ駅構内の通路も満員電車状態になり、両広場が群衆で埋め尽くされた中での集団犯罪、と市民の想像を超える事件はドイツ社会に大きな衝撃を与えたのでした。

© Aki Nakazawa

 

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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