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「障がいは個性」

中沢あき2016.07.08

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 連続してスポーツのネタが続きますが、先月末の日曜日の事。スポーツ•オリンピック博物館での展覧会のオープニングにお邪魔してきた。7月末まで開催されるこの展示のタイトルは「PARALYMPICS - SPORT ONHE LIMIT」(パラリンピック - 限界なきスポーツ)。そう、テーマはパラリンピックで、どんな障がい者スポーツがあるのか、また各種目に使われる特殊な用具が展示されている子供向けの小さな展覧会だ。

 この展示の為に今回、選ばれた十数名の市内の小学生たちが3人の障がい者スポーツ選手と交流するワークショップの様子がビデオに収められ、そのビデオが上映展示されている横で、その参加した子供たちがこの日、案内役として来客者に自分たちの体験を交えながら、そのスポーツのルールや用具の説明をしてくれる。

 今回の展示で紹介されている種目は、ブラインド(視覚障害者)サッカーと車椅子バスケットボール、そして陸上競技だ。この日のオープニングには来ていなかったが、数週間前にこの博物館で記者会見を開いたドイツの陸上競技代表のマルクス•レーム選手は、走り幅跳びで世界記録を出した義足の選手。パラリンピックのみならず、オリンピックへの参加を申請したものの、健常者と比べた際に義足が有利に働く可能性を否定出来ないということで、国際陸連が検討を重ねたが、結論が出ないまま、時間がないとの理由で自ら参加を断念した話題の選手だ。子供たちも参加したこの記者会見で自分の転機を語った彼は、十代の時にウェイクボードの事故で右足を失い、その後義足を付けた陸上競技選手へと転換した。競技条件が平等になるよう、こうした義足は同じ製造元の物を使うことになっているそうで、誰でも同じ義足を注文できるとのこと。

 こうしたルールや各種目を支える用具は、展示内で実際に触って体験することもできる。ブラインドサッカーのボールは中に鈴が入っていて、ボールが転がるとき、ボールが宙に浮いているとき、ボールが当たるとき、と各シーンで変わる音を頼りに競技するのだそうだ。普通のボールに比べてあまり跳ねないようになっているのも特徴の一つ。説明係の男の子たちは、自分たちがボールを切り裂いて中を調べた「解剖」の様子を話してくれた。

 車椅子バスケットボールで使われる車椅子は、物凄く動き易い。腕の力を軽く使うだけで、色んな角度の小回りが利く。なるほど、これで素早い動きが出来るようになってるわけだー、と、よく病院などで見かける重い車椅子のイメージを引っくり返されて納得。子供だけじゃなくて大人も試し乗りをして楽しそう。実際に競技を習ったこのコーナーの説明係の女の子曰く、最初は難しかったけど、すぐ慣れた、そう。

 来場したブラインドサッカーの代表選手や車椅子バスケットボールの代表選手たちも、子供たちの展示説明をそっとサポートしつつ、来客者の質問に答えている。先のレーム選手を始め、彼等は国の代表になるレベルだけあって、パートタイムで別の仕事をしつつも、プロの選手として活躍しているところは、健常者の選手とほぼ同じだ。
 そんな話を聞きながらふと思った。だとすると、何が違うんだろう?

 レーム選手がオリンピック参加を申請した理由はこうだ。義足は記録を伸ばす魔法の道具ではないし、健常者と並んで参加することに意義が有ると思っている、と。十代で足を失ったとき、スポーツ万能だった彼は絶望したそうだ。そして障がい者は不自由で守られるべき弱者であると思っていたと。しかし義足を付け、再び自分の誇りであるスポーツの分野で活躍できるようになったときに自信を取り戻せたそうだ。曰く、自分のハンディキャップは個性であると今は思っているそうだ。

 そうした考え方や誇りは、子供たちと並んで立つ他の選手たちにも感じた。自分たちは障がい者で他とは違う、とか、特別、なんていう雰囲気はみじんもなかった。

 展覧会を見た後、夫共々話し合った。彼もやはり同じ事を思ったそうだ。今までは障がい者というと、特別な存在、という風に思っていたけれど、彼等を見る限りは、自分たちと同じ「普通」であると。勿論「普通」って何かという定義にもよるが、足がない、目が見えない、ということで特別扱いにする、ということは何か違うんじゃないかと。

 勿論、身体的な障がいによる困難に対する理解は必要だ。が、私たち「健常者」だって完璧ではない。バリアフリーという言葉があるが、あれは障がい者の為だけにあるわけじゃなく、子供や高齢者など、私たち自身にも多かれ少なかれ関わる問題についての対策なのだ。障がいは個性、というレーム選手の言葉を聞いて思った。障がい者を特別な存在にしているのは、私たち健常者なのではないだろうか。多数派の考えだけで作られた社会では少数の人が弱者、として扱われてしまう。でもそうではなくて、少数派も受け入れる多様な社会であれば、障がいは個性、という考えが普通になるのかも。そもそも困っている時にサポートし合うのは、人間関係の基本の筈なのだし。

 残念ながら障害者スポーツを二流だとする見方はまだ強いが、障がいに関わらず、一流のスポーツ選手のパフォーマンスは皆に感動を与えるのだという事を、オリンピックにて健常者と共に競技することで伝えたいのだ、というレーム選手。今回は参加の機会はなくなったが、今後の世界選手権でのルール改正の可能性があるそうで、そんな彼等の伝えようとするメッセージにはっと、目を開かされた展覧会だった。

 展覧会「PARALYMPICS - SPORT ONHE LIMIT」(パラリンピック - 制約のないスポーツ)は、7月末まで、ケルン市のスポーツ•オリンピック博物館(Deutches Sport & Olympia Museum)にて開催。
http://www.sportmuseum.de/(独語のみ)

 ブラインドサッカーについての説明をする子供たちにアドバイスをするドイツ代表のマルセル•ヴィーナンズ選手。
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 今回ワークショップに参加した子供たちとドイツ•パラリンピック代表選手たち。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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