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開かれた国会議事堂

中沢あき2016.12.02

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 数ヶ月前の夏、ガラスを多用した建築物を巡るツアーに同行する機会があった。日本に比べて地震などがないドイツには、ガラスを使った建築物が多いのだそうで、建築関係の人ならすぐにわかる名だたる建築家の手がけたものが、あちこちにある。そのうちの一つが、ボン市のワールド•コンファレンス•センター。正確に言えば、センターを構成する2つの建物のうちの1つが、内部のホールの壁から建物の外壁まで全てがガラス張りの、透けて見えるような造りになっている。
 この建物、1992年に建築家ギュンター•ベーニッシュ(Günter Behnisch)の設計で建てられ、1992〜1999年まで使われていた旧国会議事堂なのだ。壁の全てがガラスとスチールで組まれた建物のホワイエには、色とりどりのアクリルガラスの細い板が組合わさったインスタレーション作品が設置され、ガラス越しの陽光が反射してきらめく。そんな斬新な国会議事堂は、建設が始まった1987年当時は西ドイツのものだった。ボンは当時の首都だったからだ。しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年に東西ドイツが統一されると、首都はベルリンへと移る。それに合わせて政府機能もベルリンへと移り、1999年に最後の会議が開かれた後は、ワールド•コンファレンス•センターへと名を変えて、各種の会議やイベントへと貸出される場となった。これはそんな数奇な運命を辿った建物なのだ。

 でも今でも国の重要な行事には使われているんですよ。先日亡くなったゲンシャー元外務大臣(東西ドイツ統一に貢献した元外相で、今年3月に89歳で死去)の追悼式もここで開かれて、メルケル首相もいらしたんです、と、案内役を務めてくれている女性担当者が誇らしく紹介してくれる。その彼女のガイドでホワイエを抜けて奥に進むと、そこもまたガラス越しに中が見渡せる空間が。ここが大議事室です、どうぞ、と導かれて入る空間には、ぐるっと円陣に椅子が並び、正面中央にはスピーチ台とその背景にお馴染みのドイツの国章であるワシが大きく描かれている。おおー、これがドイツの国会議事堂かあ。日本の国会議事堂ですら見学に行ったことないのにな、と思いながら、椅子に座って周りをぐるりと見渡す。ここでドイツの東西統一を進めるにあたって、色々なことが話し合われたりしたのだ。短いながらも激動の時代が流れていった場所だ。

 会議の他にも各種イベントに使われているから多少のレイアウト変更は可能なのだそうだが、背景のワシの絵を隠したりすることは絶対に許可されないそうだ。ここもいわゆる歴史的保存建築物と指定されていますから、変えてはいけないんです、とのこと。ワシの絵の右手奥にガラス越しにぶら下がる不思議なものが見えますか?あれはですね、このワシの卵が入っている巣をモチーフにしたアート作品なんです、ユーモアがあるでしょ?と担当者が笑う。

 ホワイエのアート作品といい、ワシの巣といい、どことなく遊び心があちこちにあって、親しみが感じられるのに加え、この建物、外側から見てもかなり中の方まで透けて見えるのだが、この議事室の内側に座っていても、廊下を越して建物の外の風景が見通せる程、とにかく開放的だ。斬新なデザインですねえ、ガラス張りなんてと呟くと、その担当者は説明してくれた。

 この建物のコンセプトが、控えめでありながらも透明性があって国民に近い存在であること、なんです。つまり、国会の中で何が行われているか、外から見ることができるという、国民に開かれた国会議事堂なんですよ。

 なんて素敵なコンセプトなんだろう!開かれた国会議事堂だなんて!

 勿論ガラスは堅固な防弾ガラスで、要人が居る時には警備の厳戒だろうから、誰でも簡単に入ってこられたわけではなかったと思う。それでも、テレビでよく見るマホガニー色の重厚な日本の国会議事堂とは何という違いだろう。私たちはテレビを通してそれを見ることができるだけで、テレビの放映が切られてしまえば、何が起きているかなんて、わからない。分厚い壁は議事堂の中の野次や怒鳴り声も通さず、居眠りをしている議員の姿も壁の向こう側だ。優雅だけど堅く閉ざされた空間と、光が差し込む開放的な空間。国の重要な事を決めていく場所がこんなにも違うことは、二つの国の政治や社会の違いをも垣間見せる。どっしりとした威厳ある議事堂の中で喚き合ったり、多くの国民の欺くような出来事が次々に起きる重苦しい国会議事堂の様子を思い出してはため息が出て、一方でこんなにも斬新で明朗なコンセプトの国会議事堂がとっても羨ましく思ったのだった。

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© Aki Nakazawa

外からも、ホワイエや階段や廊下などが見通せる、総ガラス造りの建物です。

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旧国会議事堂、ワールド•コンファレンス•センターの外観。館内まではあまりキレイに写っていませんが、以下のサイトで、改めて外観と大議事室内の様子を見ることができます。見学ツアーも事前予約で可能だそうです。
http://www.worldccbonn.com/en/venues/plenary-building/plenary-chamber/description.html

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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