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自由でおおらかな水着を求めて

中沢あき2017.08.28

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 この夏、水泳ダイエットを思い立った私は、パリでも里帰りした東京でもプールに通った。そこで気がついたのだ! 杉並区の市民プールで、自分の水着が浮いていることに!(プールに水着が浮いていたのではありません、念のため。)  スポーツ用に買ったのだから、大して高価なものではなかったが、それでも今年の水着だった。なのに、どうしようもなく、私の水着姿は違和感があった。  何故、なぜ女性たちは全員、脚が腿まで隠れる、まるで1930年代みたいな水着を着ているのだろうか!?   私はたった一人、脚の付け根に沿ってすっぱり切れる水着を着て、見苦しい太い腿を誰よりも潔く人目に晒していたのである。
 フランスでも、ショートパンツ丈のものはたまに見るが、それでも、ちょうど股スレスレくらいのラインで切れるのが主流で、腿を覆ったものというのは見たことがない。  いったいいつから、どうして日本女性は、あんなに肌を覆う水着を着始めたのだろう? 
 フランスでは昨年、イスラム教の戒律と海水浴を妥協させるための頭まで含めて全身を覆う水着(ブルキニ)を着ていた女性が浜辺から警察が引っ立てられ、ブルキニ禁止令を出す自治体が出る事件があったが、私はうっすらとそんなことまで思い出してしまった。やれやれ、フランスでは露出していない方がかえって警察に睨まれてしまう… その裏には、女の肌の露出度が女性の自由に比例するという考えがあるのだが…。
 さて調べてみたら、プールで日本人女性たちが着ていたのは競泳用の水着で、あの太もも部分はキック力を高めるため筋肉をサポートしているらしい。市民プールでまでスピードを追求しているのかと密かに舌を巻いたが、ひょっとすると、水泳日本を支える水着会社が開発資金の元を取るため、素人女性もプロ仕様の水着を着せられているのかもしれない。ともあれ露出を控えるのが目的ではないらしく、ブルキニを思い出したりしたのは見当違いだったことが分かった。
 しかし、一旦、考え出すと、日本女性の水着はやっぱり「隠すこと」を狙っているのではと気になり始めた。競泳水着とは違うが、デパートで見かけたレジャー用の水着も、フランスでは見たことがないようなものだったのだ。ブラジャー部分がフリフリになって胸の丸みを見せなかったり、タンキニのタンクトップ部分が異様に長く、太ももを隠し、ただのワンピースのようだったり。水着が水着であることを忘れていくような倒錯的なものが並んでいるではないか! 
 日本女性が隠したがる理由は宗教ではなく、まず体型コンプレックスだろう。水着のキャッチコピーが「体型カバー」であることからも察しがつく。ビキニは体に自信のある女子の独占物なのだ。  私自身、まだパリで学生をしていた頃、友だちになったスペイン人の女の子に呼ばれて、カナリア諸島にバカンスに行ったら、スペイン人の女の子二人はビキニで、私だけがワンピースの水着だったという経験がある。その写真を見て、台湾人の友人に「あんた保守的だね〜」と言われたのでよく覚えている。だって、あたしの体型でビキニなんて着られたもんじゃないでしょ? と私は内心思ったのだが、よく見れば三人の中では私は一番痩せていたのだ。横に写った女子二人は、お腹の肉、脇の肉、おおらかにはみ出していたが、屈託なくビキニを着ていて、かわいらしかった。なるほど、体型、気にし過ぎなのかな、とその時、私は思ったのだった。ヨーロッパ人たちの、人目を気にしないで自分の体を露出できる大胆さ、自由さを私は好ましく羨ましく思った。
 露出と言えば、いつだったか、フランス人の夫を伊豆の白浜海岸に連れて行ったとき、「トップレスがいない!」と驚いていたのを思い出す。  フランスでは、モノキニ(bikiniでなくmonokini、つまりトップレス)の女性はごく普通に見かける。フランス女性の三人に一人は、トップレスを経験したことがあるそうだ。
 今年の夏、IFOPが行った調査によると、29%の女性が、すでに海岸でトップレスになったことがあると答えた。この回答はスペイン人の49%、ドイツ人の41%、オランダ人の35%よりは低いが、イギリス人26%、イタリア人20%、アメリカ人、カナダ人11%よりは上だ。確かにここに日本人を入れてみたら、いったい何%になるのだろう?
 日本では法律で禁止されているという話もあるが、明確にトップレスを禁止した条項はない。なんと、1964年に日本においてもトップレスが流行するのを恐れた警察が、軽犯罪法第1条20項により、取り締まる方針を出したというのが禁止説の根拠だが、「公衆の目に触れるような場所で公衆に嫌悪の情を催させるような仕方で尻、腿その他身体の一部をみだりに露出した者を拘留又は科料に処する」というのだから、トップレスが当てはまるかどうか、よく考えてみよう。
 トップレスというのは、欧米社会では、「胸を人前で見せてはならない」という宗教的な禁止を破って、人間が自由を獲得するというコンテクストの中から産まれて来た。男性は胸を露わにして構わないのに、女性の胸が「わいせつ」扱いされることへの抵抗、女性の自由を標榜する運動という意味もあった。  ヨーロッパにおいても、乳房を露わにすることは自明のことではなく、タブーを破って獲得した権利なのだと考えると、日本では、そういう運動をやって来なかったというだけなのではないのかと思えて来る。  そして、体を隠す方向へ向っている2017年の日本の水着が、体を露わにしてはいけないという宗教的抑圧との妥協として生まれたブルキニと重なって見えたことにも、少しは根拠があるような気もしてきた。
 さて、歴史的にトップレス慣れしているフランスだが、実は現在、トップレス離れが進行中だ。トップレス経験女性は60代以上では39%もいるのに、34歳以下では15%と半減する。1984年には、50歳以下のフランス人女性の43%が海岸で胸を太陽に晒していたが、2017年の50歳以下では22%だ。
 トップレス離れは、いくつかの理由で説明される。残念なことに、私の憧れたヨーロッパ人のおおらかさが近年失われ気味で、人目を気にする人が増えた。完全なボディの幻影に呪われて、体に自信のない女性は見せられないと感じる。また、性革命から50年が経ち、女性解放の象徴的行為という行動の意味が薄れ、若者にとっては、ただのファッションのひとつになったことが大きい。更に近年、肌を焼くことの害も知られて来て、肌を晒すのに慎重になってきたことだ。トップレスになる理由のひとつは、水着痕を残さず、きれいに上半身を灼きたいということだったし、かつては日焼けは絶対的な価値を持っていた。
 人目を気にするのと日焼けを避けるようになったことは、現在の日本の女性にも共通する傾向だろう。しかし日本女性たちはトップレス離れをしようにも、もともと経験していない。こうした傾向だけが強まるとちょっと行き過ぎが起こるのではないか? それが、あの不思議な水着類が生まれる理由なのかもしれない。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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