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ドイツ音楽シーンのスキャンダル

中沢あき2018.04.25

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日本でいえばレコード大賞にあたるような音楽賞が、ドイツでは毎年4月に発表される。ECHO(独語でエヒョー)というこの音楽賞、ドイツのレコード協会の会員たちの選考で、各ジャンルごとにヒットした曲が選ばれて受賞するのだが、レコ大みたいにポップやクラシック、ドイツの演歌的なジャンルもあって、例えば日本でも人気があるエド•シーランの shape of you が今年のインターナショナルヒットソングとして受賞した。で、このエコー賞、今年はとんでもないスキャンダルが起きて、未だに議論の真っ只中なのである。
「俺の体はアウシュビッツの収容者より逞しいんだぜ」「火炎瓶を持って来いよ、ホロコーストをもう一度やってやろうぜ」
と、ギョッとするような歌詞が入ったラップデュオのアルバムが、なんと今年のヒットアルバムとして選ばれてしまったのだ。この反ユダヤ主義丸出しの歌がヒットしたってこともかなり衝撃だが、それがなぜさらに協会の選考で選ばれたんだか…。
当たり前だが、そこからすぐに新聞やテレビを始め、各所で大議論が巻き起こった。ドイツの人気バンド、トーテンホーゼンもすぐさまこのラップデュオと協会を批判したが、それに対するラッパーたちのコメントは「ごちゃごちゃうるせえな、俺らは受賞パーティーを楽しんでるんだよ」ですと…。この発言がさらに騒ぎに油を注いだ。(そりゃそうだ)
この手の差別剥き出しの言葉を公然と吐くこの居直りスタイル、トランプ政権以降、彼のような下品さが世界中で広がっちゃってるのかなと恐ろしくなるが、その放言を放っておかないのがドイツ社会である。そこからの反応がなんとも素早く厳しかった。マスコミやジャーナリストたちや批評家が批判をするのはもちろん、世界的に有名な指揮者、ダニエル•バーレンボイムなど、過去にこの ECHO 賞を受賞した有名音楽家たちが、続々と賞の返却を表明し始めたのだ。政治家まで批判のコメントを出したり、早速テレビの討論番組で議題になったり、更にはユダヤ系ルーツを持つラッパーが「気をつけろよ。お前をどんなふうに爆破してやろうか。俺は焼却炉から蘇った最初のユダヤ人なんだぜ」と応戦するなど、その炎は高く上がるばかり…(でもこの挑発的な応戦は彼らと同じレベルに留まるのでいただけないが)。
そもそも、こんなギャングラッパーのこの歌がヒットしたってのも怖いのだが、そこには、この数年ドイツ社会で再び新しく現れてきた反ユダヤ主義と共に、アラブ系移民の間でも反ユダヤ主義が語られるという背景がある(簡単に言うと、パレスチナとイスラエルの問題などに絡んでいる)。それを示すかのようなこのドイツ人とアラブ系ドイツ人という組み合せのラップデュオ、若者たちにはけっこう人気があるらしい。ってことは、そんなに若者たちに反ユダヤ主義が広がっているのか?と思ったところ、こんなエピソードがラジオで紹介された。
このスキャンダル発生後、スイスのとある小学校でこんな授業があったそうだ。教師がこの歌を教室で流し、子供たちに問いかけた。この歌、どう思う?すると子供たちは、かっこいい!と口々に興奮気味に叫んだ。しかし教師がアウシュビッツという言葉について尋ねてみると、子供たちはそれが何の事か、知らないという。そこで、アウシュビッツとは何か、そこで何が起きたのか、ということを教師が語ると、教室はしんと静まり返ってしまった。そしてしばらくした後、一人の女の子が口を開いた。「この人たち(ラップデュオ)は、(他人の苦しみに)共感するってことを知らないのね!」
これはお隣の国、スイスの話で、ドイツの学校ではアウシュビッツやホロコーストについての授業はもっときちんとあると思うのだけど、どうやらそれでも若い世代にはその歴史やその出来事のその重大さをあまり感じていない、という若者もいるらしい。それには先に挙げた、アラブ系移民の子供たちがまた違う文化観の中で育っていることも一因にあるだろう。それでも一旦事実を知れば、この女の子や子供たちのような反応になる、というところにはまだ救いを感じる。そしてまだ続いている大議論を展開するこの社会にも。
忘れかけていた過去の過ちを、忘却の彼方に追いやらない、という意味では、今回の騒動は意味があるのかもしれない。一番怖いのは、関心を寄せず、口をつぐむことだ。
※ その後の4月25日の夕方、なんとこのスキャンダルが理由で、このECHO 賞が廃止されることになったのとニュースが流れました。セールス記録よりも、審査員の審議によって賞を決める形態へと変えることを検討するそう。つまり金儲けより、社会への影響や意義を重視せよ、ということですね。この決定はこの音楽協会によるもので、決して法律や国家が動いたわけではありませんが、これはドイツ社会が鉈を振るった結果です。社会、民意の力の大きさを感じた出来事でした。
1_1_0025014.JPG 1_2_0025029.JPG 1_3_0025043.JPG 1_4_0025044.JPG © Aki Nakazawa
2年程前に訪れた、南ドイツにあるダッハウ強制収容所跡。アウシュビッツと同じく、ここでもたくさんのユダヤ人やその他当時のナチス政策の標的となった同性愛者や政治犯、精神病人や障がい者が殺害されました。当時のそうした話が過去の他人事ではなく、例えば自分の身に置き換えてみる、そんな想像力というものを、こういう人たちは持ち合わせていないのでしょうか? つくづく、この想像力というものが人間にとっていかに大切なものか、ということを思う日々です。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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