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私はアンティル vol.11 私は忙しいPART2

アンティル2005.06.09

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今年も梅雨の季節がやってきた。ようやく2005年の半分が終わった。
いつもなら月日が経つ早さを実感するこの時期、今年の私は、まだ半分もあるのかと溜息をついてしまう。

契約していた某クレジットカード会社、A社から強制退会させられた私が、今年に入ってまず始めにしたことは、新しいクレジットカードを作ることだった。私は“誰でも入れます”といううたい文句で有名な、B社の申込書に個人情報を書き込み、『今度は失敗しないぞ』と気合いを入れて、ポストに申込書を投函した。キティーちゃんカード希望だ。その1週間後、私に届いたのは“弊社の規定によりカードを発行できません”という1枚の紙切れだった。なぜ審査に落とされたのか電話で聞いてみても、B社は答えてくれなかった。『A社め~!』私はA社への怒りに震えた。

トゥルルル トゥルルル(電話の呼び出し音)
A社「いつもご利用ありがとうございます。A社お客様係りの斉藤です。」
私「あのアンティルと申しますけど」
A社「あっ!ちょっとお待ち下さい」
名前だけしか言っていないのに電話は例の男につながった。
私「新しく他の会社でカードを作ろうと思ったら審査で落とされてしまったんですけど、そちらの会社は私についての情報をどこかに流しているのですか?」
男「お答えできません。」
私「答えられないってどういうことですか? 自分の情報がどう扱われているのか知りたいって言ってるんですよ。教える義務があるでしょう!」
男「弊社の規定により答えられないことになっているんです。」

支払い能力の低い人、多重債務者、支払いが遅れている人、etcの情報はネガティブ情報と呼ばれ、企業間で情報が相互利用されているということを私は後から知った。企業を守るための情報は、当事者にすべて開示されることなく、金融機関を結ぶオンラインのネットワークに乗り、社会的信用度を計る資料となる。“この人は年収200万で結婚もしてないオンナなのにカードをF社とH社の2枚のカードを持っているから3枚目は作れない。”

判断する側の基準は不透明であいまいだ。A社に勤めていた友人に無理をいって調べてもらったところ、私の場合、遅延したということだけでなく、催促の電話にでなかったこと、たまに電話すると態度が悪かったことが影響してブラックリスト入りをしてしまったということだった。会社に個人名でかけてくるA社の人に対し、ちゃんと社名を名乗ってほしいとクレームをつけたり、朝の7時の電話に出なかったことで態度の悪い契約者と映ったのか、通常なら強制退会になるはずがないほどの遅延であっても、私は強制退会に値する人だと総合的に判断されたらしい。そのために私は5年間、カードを作ることが出来ないのだという。私が知らないルールの中で、誰かが私を判断している。その判断によって、私の様々な権利は奪われるかもしれない。そう思うと私はひどく不安な気分になった。

社会と私。長い間私は、まんこを好きだという理由で、変態、キチガイ、まともになれ、気持ち悪いと自分を変えることを社会から迫られてきた。でもそのたび私は、自分というものがこの手にあることを感じていた。自分を守るのは自分。決めるのも自分。どんなことを言われても、まんこ好きを変えることが出来ない私、変えない私。リスクも承知で私は私のことを決めていく。人からとやかく言われれば言われるほど、それでも変えることができない自分を思い知ることで私は、自分が自分として生きていることを実感していた。気にくわない社会でも、自分のことを守りながり生きていくことは出来ると思っていた。しかし、この社会は思った以上に私を取り囲んでいたのだ。

3月末、待ちに待った給料日の朝、銀行に行ってみると残高が0円になっていた。驚いて通帳を記帳してみると、そこには赤字で“差し押さえ”と書いてあった。国に支払うべきお金を支払わなかった代償だった。払いたかったけど払えなかったお金、2年間で数十万円。カードの時同様、やはり差し押さえを知らせる予告通知は届いていなかった。突然の差し押さえ。『明日からどうやって暮らせばいいの?』 私は途方に暮れながら役所に向かった。払いたいけど払うお金がないと告げると担当者は言った。

担当者「今日、5万円でも払えないのか」
私「5万円は無理です。差し押さえを解除してもらえば2万円ならなんとか払えます。」
担当者「あんたいくら滞納金があるのか知ってんの? 2万円じゃ話しになんないよ。それに差し押さえを解除するには書類作んなきゃダメなんだよ。私も忙しいんだよ。あなたのことばっかりやってらんないだよ。今すぐ誰かからお金借りてこれないの? 5万円くらい友だちから借りられるでしょう」

まるでサラ金の取り立てにあっているようだった。月々何にいくら使っているのか教えろ、車があるなら車を売ればいいじゃないかと、その男は私を責め続けた。「払いたくても払えない、相談にのって欲しい」と、頼んでも、払うのはあなたの義務だと繰り返すばかり。
「あんたこのままだど全ての財産差し押さえられるよ」
最後に担当者は私を脅すように言った。
完納出来なくても、窓口に相談に来て数万円でも払っていれば、差し押さえにはならなかったのだという。どんなに国に忠実であるか、ということが問われるのだ。通知書を送っても返答のない悪質な国民には、実力行使をしてもいいということになっているらしい。知らなかった。私の生活より、国民としての義務のほうが大切だったなんて。

最近、私は社会からせかされている。“ちゃんとしろ”“義務を果たせ”と毎日言われている気分だ。明後日は10日だから○○の引き落としがある日、来週の水曜日は携帯のお金を支払わなくちゃと、1週間も先の支払いに気を払い、銀行でお金を引き出すたびに0円になっていないかビクビクする毎日を送っている。いつわけのわからないルールを持ち出されて「アンティルアウト!」と言われるかわからない不安に怯えているのだ。だから私は毎日チェック。自分の権利を奪われないために、いろんな所に注意を払い用心を怠らない。

先日私は、遺伝子研究についてどう思うかという調査にモニターとして参加した。もし、同性愛者や性同一性障害の人だと特定できる遺伝子を探す研究が行われたら当事者としてはどう思うのか? 見つかったらどうする? といった質問だった。私は、遺伝子は社会に似ていると思った。自分の意志よりも説得力を持ってしまうかもしれない場所。私の意識の及ばないところで、息づく私を突きつける場所。私を決定づける権力を持つ所。体内の社会、そんなのまっぴらだ! もしこれ以上、私の知らないところで、私が語られる場所が存在していること知ったら、私は恐ろしくてたまらないと思う。

自分の意志が誰かに奪われないようにチェック1,私が自分の権利を好きな時に行使できるようにチェック2,油断しちゃならない何も起こらないようにチャック3。こんな社会なんて !と背を向けられない私。従うことに慣れるこも出来ない私。最近私は忙しい。寝ていても、食べていても遊んでいても忙しい。生きているだけで忙しい。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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