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私はアンティル vol.18 処女牛とわたし

アンティル2005.07.28

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最近、私は街で視線を感じる。何年ぶりかに感じる好奇の視線。

「男? 女?」剃ってはいるが、明らかに存在を主張する顎髭と、切除して平らになった胸を持ってしても、? である。
ホルモンを打ち始めた6年前、私は完全に街の視線から解放された。それ以来、電車に乗っていても、食事をしていても、指をさされることがなくなった。安心してただそこに存在出来るという新鮮な感覚にも次第に馴れ、当たり前になってきた私に、再び向けられている懐かしく、面倒くさい.......私に何が起こっているのだろうか?

誰が見ても男装をしているレズだった10代の私は、どこにいてもヒソヒソ話しをされる対象だった。人に見られないように、電車に乗っている時はなるべく下を向き、誰かといても、けして声を出すことはしなかった。ひとたびどこかで、「あの人女だよね。レズじゃない!」という声があがると、瞬く間に車内の人に情報が伝染していく。だから私は細心の注意を払いカラダを緊張させる。しかしほとんどの場合、どこかで始まってしまう。「ねぇねぇ・・・」

私のカラダを凝視して性別を判断する無数の視線はたまらなく不快だった。私はそんな人達一人一人に眼を飛ばし、睨み付けることで黙らせようとしていた。そのため、私は電車を降りる頃にはいつもぐったり疲れていた。

サングラスと肩パットとファンデーション。人の視線を浴びないための私の必需品。「どんなに男の子のような恰好をしても目は女の子よ」と私を分析する人が多かったから、私はその目を隠す、館ひろしのようなサングラスをかけていた。「色が白い男の子はいない」そう言われて私は、そのころ流行っていた色黒男を演出する男性用化粧品ギアというファンデーションをシャネルズばりに塗りたくり顔がいつも真っ黒にしていた。「肩幅でわかるよ」といわれ、ならばと私はシャツはもちろん、Tシャツにも肩パットを数枚重ねて縫いつけ、競泳選手のような肩幅になるよういにしていた。しかし私が変装をすればするほど男という記号と女という記号が絡み合って、私はますます異様な存在になっていった。

「普通の男だったら○○するはずだ。」頼んでもいないのに、私がオンナであることを見破った訳を語りたがる人は多い。
「あんたオンナでしょう。だって男だったら・・・」
世間は私に男とはというものを教えてくれた、男は甘いものを食べない。男は食事の前には必ずビールを飲む。男は人差し指と中指の付け根付近でたばこを支える、歩き方が違う、話す言葉が違う、女の体をもっと目で追う、などなど。
わたしがオンナだろうとオトコだろうと、この人達には関係ないのになぜ知らない人までが、こうまでも私自身のことに口を出そうとするのか、私はいつも、ほっといてよーと怒鳴りたくなる衝動を抑えていた。私が怒れば怒るほど、世間は面白しろがる。それがわかっていたから、私は睨み付けることしかできなかった。

今日私は、焼き肉屋の看板を見ながら久々にその頃の苛立ちをはっきり思い出してた。
“焼肉屋 遊牧 米沢の処女牛 一頭丸ごと買い”
オヤジ達を満足させるために処女牛とうたわれる牛と、かっての自分を、私は重ね合わずにはいられなかった。当然の権利だと、言わんばかりに私のカラダについて関与しようとする人達と、処女牛だよ寄っておいでと客を集め、処女だぁ~と喜んで食べるオヤジ達。私と皿の上の牛は同じだ。私は食べられている牛に「何もできずにすまない」と心の中で呟いた。

最近私は、また「女? 男?」と振り返られるようになった。
オンナなのかオトコなのか性同一性障害なのか、またわからなくなってきた私のモヤモヤが、顔に表れているからなのか? いずれにしてもどうやらまた興味の対象になりつつあるみたいだ。でも今回は以前とは明らかに違う。? を向けられても気分が幾分か楽なのだ。無論頭にくることもあるが、比にならない程楽ちんだ。頻度がすくないから? 年をとってキモが座ったから? 性格が変わった?

変わったのは自分自身への眼差しだと思う。オンナ、オトコそして性同一性障害というあらたなカテゴリーまで増えて、私は自分何なのかますますわからなくなっているけれど、そのことで、私が私を苦しめることがなくなった。わからないことが苦しくない。だから、私は楽なのだ。オトコ記号、オンナ記号、性同一性障害記号が無茶苦茶な配列で並んで、社会からみたら私は歩く変態に写るかもしれないが、しかし、社会が割り当てた記号によって私は私を陥れることはない。だから私は安心して興味の対象にもなる。これから嫌な目に遭うかもしれないし、身の危険を感じることもあるかもしれない。しかし私が私を語る力があるうちはきっと大丈夫だと思う。

遊牧という名の焼肉屋で皿の上にのるメス牛と同じように、私も社会という名の牧場で遊牧され、オヤジに食べられるメス人間だ。皿の上に盛られる日がくるかもしれないが、私はその日までクリトリスを触り続け、私の快楽を見つめ続けるメスでいたいと思う。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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