ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

私はアンティル vol.48 哀しいバイト

アンティル2006.07.06

Loading...

卒業を間近にひかえた高校3年生の冬、私はTとラブホテル代を稼ぐためにアルバイトを始めた。アルバイト先は、アダルトビデオのパッケージを作る工場だった。小さめの一軒屋ほどの敷地に建てられたその工場では、高校生のバイトと主婦のパートタイマー達が働いていた。

「新しいバイトの女の子が入りましたよ~」

大学のサークルのようなフレンドリーな雰囲気に、私は後ずさりをしながらTを見てはしゃいでいる男達にガンを飛ばしていた。

Tと共にバイトをしようということになった時、私はとても不安だった。オトコの格好をして、いかにオトコに見られるか日々鍛錬していた私がTの前でオンナとして面接を受け、オンナとして工場で働くということは、なんとも言えない複雑な気分だった。そして、私がオンナであることを感じると嫌悪を剥き出しにしていたTが、そんな私を見てどう思うかが何より心配だった。しかしTは浮かれていた。初めてのバイトに心は弾み、私の不安を「そんなこと思わないから」と気にも留めなかった。「いっぱいバイトして春休みはラブホにいっぱい行こう!」そんなTの言葉に私の不安は吸い込まれていった。

しかし、バイトの1日目。私は自分の選択に後悔することになる。
男物のズボンに男物のシャツ。怪しさを理由にクビにならないよう考えながらも、社会に心を売るようなことはすまいというこだわりから、ユニセックスにも見えるが実は男物という服を選んで、私はTとの待ち合わせ場所に向った。工場までは、そこから歩いて20分。Tと私は男女のカップルのように腕を組んで工場の近くまで歩いていた。工場が見える距離になった頃、私たちは腕をはずし工場に入っていった。

中、高校と女子校に通っていた私にとって、その場所は異次元の場所だった。
手の届く所にオトコがいる。オトコ達の日常の会話が聞こえてくる。
「俺さぁ・・・」
『オレ?!』聞きなれない一人称に私の耳が反応してしまう。そしてそんな俺たちの視線が私たちを放っておかない。『なんて所に来てしまったんだ。』
私はアダルトビデオのパッケージに全神経を集中させ、自分の世界に閉じこもる。おかげで初日にしてだれよりも早くパッケージを完成させる職人になってしまった。
ふと机を挟んで向こう側にいるTを見ると、Tを中心にオトコ達の輪が出来ていた。
「どこの学校なの? 家はどこなの? 彼氏はいるの?」
もし私がオトコでカップルとしてここにいたらけして有り得ない風景。
『Tと私は恋仲なの!』
そんな言葉が喉まで出かかる。
悔しさと、焦りと、嫉妬がカラダ中から湧き上がってくる。
しかしその言葉を止めたのはTの表情だった。
Tは楽しそうだった。笑顔を振りまきオトコ達と談笑している。
私とTを隔てていた机は、世界を2つに分ける太く越えがたい線のようだった。
社会と敵対関係であった孤立した2人のタッグが簡単に分断され、社会という敵側にTが座っているのを眺めるようなそんな気分。
オトコ達の薄っぺらな会話や存在が私をさらに打ちのめす。
そんなもんに揺らぐ私とTの関係って何なんだろう・・・。

バイトが終わり駅へと向う途中、Tはいかに楽しかったかを話し続けた。
私は返事をすることができなかった。
サングラスをかけ、よりオトコらしく振る舞い、いつものように完璧なオトコを装い街に出た私は、いつにもまして自分が偽者のオトコであるかを思い知る。オトコ達と話していた時のTの楽しそうな顔。Tが求めるものが何なのかそのことをよく知っているからこそ、私はその場を早く立ち去りたかった。
帰るにはまだ早い自宅へ向う電車の窓に映る私を、私は見ることができなかった。

Loading...

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP