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私はアンティル vol.51 哀しいバイトその3 ~その時歴史は動いた~

アンティル2006.08.23

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アダルトビデオのパッケージを作るその工場には、地元の男子高校生と主婦のパートタイマーが働いていた。郊外の小さな工場。

その中でTは一際目立っていた。クルクル巻きの髪にブランドものの服、首には高そうなネックレスまでつけている。時代はちょうど80年代後半。イケイケという言葉が流行り始めた頃だった。Tはまさにイケイケギャル。男達の視線はそんなTを放っては置かない。

男「ねぇカレシいるの? (ワイワイ)」
T「え~っ、別にいないよ~(ワクワク)」
男「どんな人がタイプなの??(ハァハァ)」
T「頼れる大人の人って感じかなぁ(エロエロ)」

体中にみなぎる怒りを目に込めて、私は男達へ威嚇の眼力を送り続ける。しかしキラキラと輝く男達とTの輪の前では、私はいないのも同じ。私に声をかけるのは、主婦たちの輪に溶け込むことができずぽつんと作業を続ける内気なパートタイマーだけだった。
『これはまずい!』
私はTに接近する男の行動を注意深く観察し、1対1で親密な雰囲気になる1歩手前でTに話しかける作戦を執ることにした。

しかしここで一つ大きな問題があった。この工場では5メートルほどの長さの作業台を囲むように人を配置し作業するのだが、困ったことにどこの担当になるかは工場の責任者が決めるのだ。近くに配置されれば一言も漏らさず観察を続けられるが、端と端になった日などは、机に高く積み上げられたパッケージが壁を作り、声どころか様子も伺えない。

『諦めるものか!』
私は耳にすべての神経を集め遠くの会話を察知した。
余談だが、私は自分の意思がカラダをも変えてしまう経験をしている。
男に見られたいと思い続けているうちに、どんどん男化しいった私は、10年後にはホルモンなしでもほとんどの人に男に見られるようになっていた。近視で急激に悪くなった0.1の両目は、運転免許の更新になると0.6のハイスコアを叩く。“眼鏡必要”と判を押されたことがないのだ。『眼鏡なんかかけたくない!』その強い意志が、見えないはずの記号を見せるという奇跡を起こすのだ。

そして数年前、聴力検査をした時私は医者から「あなたは人間には聞こえない周波の音が聞こえている」と告げられた。この時私は工場でのバイトの日々を思い出した。ラジオが鳴り響く作業場でTと男の会話を聞き取っていたあの日々。『絶対聴き逃すまい』その強い意志が今の私の耳を育ててくれたのではないかと私は思っている。~余談終わり

男「Tさんって、○○さんに似てますよね。うちの学校にもTさんみたいな先輩がいればなぁ~」
T 「そんなことないよ~(えへへ)」
男「Tさん、今度バイトの帰りに」
私「ねぇ T!! 今日、吉田栄作のドラマの日だよねー!! 先週は栄作がひどい目にあったよね。今日はどんなことになるんだろうね。」

私はどんなに離れていても、Tと男の怪しい会話に割り込んでいった。その間で作業をしている4人の人を飛び越えて話しかける私は、ちょっと変わった女子高生だ。『またあいつかよ』そう心でつぶやく声が私には聞こえた。
作戦は成功するかのように思えた。しかしアルバイトもあと数週間で終わりという時、私は大きなミスをおかしてしまった。不注意にも風邪をひいてしまったのだ。『這ってでもいかなければ。男達を観察しなければ』
しかし39度に上がった私のカラダは布団から出ることは出来なかった。
休むこと1週間。その時、歴史は動いたのだった。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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