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私はアンティル vol.65 イチゴ事件その6 ~悲しいサービスタイム~

アンティル2007.02.07

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私とTの楽しみの一つにラブホテルのフリータイムサービスがあった。早い所だと朝の6時からそのサービスは始まる。通常2時間の休憩が3500円のホテルでも、平日の昼間だけ決まった時間内なら何時間でも滞在することができる夢のようなサービス。それがフリータイムサービスだ。私とTがよく使っていたホテルは、最長で夕方の7時までの13時間使用することができた。

学校がある時は利用できないこのサービスも、休みに入ると大活躍だ。

朝4時に起きて、私はまずコーラの瓶の手入れを始める。(詳しくは200/4/6「ちゃぶ台とコーラの瓶」を) 『ヒビは入っていないか?』『汚れは落ちているか?』 半透明のガラス瓶をまだ暗い部屋のかすかな照明に照らす。『よし!OK!!』 私はハンカチに包んだコーラ瓶を母のお下がりのバレンティノのセカンドバックに丁寧にしまう。残りの1時間半は私の身だしなみタイム。中山式腰用のコルセットに私の胸を平にするように押し込んで、強力なマジックテープでギュと留める。コルセットの上から触って、胸の形がわかるようだともう一度やり直し。騎上位の体勢の時に問題ないか、立位の時は大丈夫か、あらゆる体位を一人実践し、胸の納まりをチェックする。この間、平均30分。最後の仕上げにコルセットの上に腹巻きを履き、鏡で胸の谷間を隠すようにセッティングしてから私は左手に全神経を集中させる。パチンパチン。静まり返った朝4時半。爪を切る私の姿が親にばれないために最小限に照らされた小さなスタンドランプが壁に大きな陰を作り出す。それはまるで生け贄を料理する魔女のようだ。1本ずつ爪を切ってはその指先を唇にあてて、その上を何度も左右に移動する。一番柔らかそうな部分、唇から血がでなければ、痛まなければ、その指はセックス可能な指と私に許可される。通常時の3本、予備の1本。計4本の指の爪磨ぎが終わった頃、私は鳥のさえずりと共に早朝の街に走り出した。それは至福の時だった。『これから13時間もTとセックスができる! 一緒にいられる。』 電車の中に響く飲んだくれた親父の鼾と疲れたサラリーマンの顔さえも私には幸せな風景だった。

高校時代のもっとも幸せな休みの風景。その春もそんな時間を過ごしていたはずだった。そのために始めたアルバイトは“サービスタイム実践中”と書かれた垂れ幕を直視できない私を生み出した。それまでの楽しい時間を思い出すだけでも辛い。私はラブホテルの前を通りかかると決まって真っ黒なサングラスをかけた。

日に日にTの顔は晴れやかになっていった。Kとの関係を怪しむ私を避けるように、TはKとその仲間達の中で満面の笑みをごぼしていた。Tと会えるのはアルバイトの時間だけ。そしてこれまでTと私という世界と世間という世界の境に引かれていた線が、突然私の前から消えた。男子高校生たちと談笑するTと私は同じ世界にもういない。そう思うと完成したエロビデオのパッケージに気付かれることのない涙を何度も落としそうになった。サービスタイムを楽しんだあの時間はなんだったのだろう。ホテルどころか、アルバイトでしかTと会えない日が続く。唯一お茶を飲めるのがKが休む火曜日だけ。明らかな事実が私を打ちのめす。しかしそれでも私はTといられる道を探さずにはいられなかった。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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