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私はアンティル vol.75 イチゴ事件その14 Tが通り過ぎてゆく

アンティル2007.04.18

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恋する人を何時間も待ち続けたことはありますか?
裏切りに怯えつつ物影でそっと恋人の姿を探したことはありますか?

それは寒い春だった。凍えるカラダは暖かな日差しの中でも温まることを忘れていたようだった。なぜ私はあの場所を離れることが出来なかったのだろうか。現実を見届けようとしたのだろうか。午前1時から11時間後、私はTの行く手を阻む敵になってた。

遠くからやってくるTの自転車をめがけ、私はまっすぐに走り出した。鼻歌が聞こえてきそうなTの幸せな表情が一変したのは私との距離が5メートルになった頃だったろうか。私を見つけたTは必死の形相でペダルを漕ぎスピードを上げる。右、左、右、ワンツーワンツー・・・・
私はバスケットで鍛えたフットワークを使い、左右にカラダを動かしTを追い詰めた。
『嗚呼なんという再会だろうか?11時間待ち続けたあげく私は道の真ん中で自転車相手にディフェンスをしているとは・・・』
♪まわるまわるよ時代はまわる~(「時代」より)
頭の中で「時代」が鳴っていた。Tとの久々のセックスに酔いしれていた昨日。深夜の待ち合わせに心を躍らせていた昨晩。そして道端でディフェンスをしている今。私の時代はもうスピードで回っていた。

キキキー
倒れそうになったTの自転車が止まる音が街に響き渡る。
私はその音で現実に引き戻される。
『本当のことを聞くのが怖い。』
向き合わなくてはならない現実に身がすくむ。
私とTは互いにかける言葉を持たなかった。かける言葉の答えを恐れる私。
かける言葉を持たないT。
うつむく顔をあげられない私は地面に視線を落とす。
数秒の時間が果てしなく長く感じた。
プププー
車のクラクションに反応して顔を上げたその時、私は自分が大きな闇に吸い込まれていく音を聞いたような気がした。見慣れたワンピースを着たTの胸元に、私の知らない真新しいペンダントが光っていた。“T” 金色のアルファベットの文字が私に現実を突きつける。その時、凍てついたカラダがもの凄い勢いで解け始めるのを感じていた。

「どこに行ってたのT!待ち合わせしてたじゃないか!!」
怒りという濁流が私のカラダから放たれていく。
「ずーっと待ってたんだよ。Kと会ってたの!どこにいってたの!!」
問い詰める私。問い詰めれば問い詰めるほど温度がなくなっていくT。その無表情の顔がよけいに私の胸を締め付ける。
「なんとか言ってよ!どこに泊まっていたの!!」
サングラスの下から流れる涙にもTは何の感情も持たない様子だった。
「Hの家」(「イチゴ事件その12」参)
「バイトの集まりで出かけたっておばさんが言ってたよ!どういうこと!」
「早く帰らないとお母さんに怒られるからそこどいてよ!!」
漕ぎ出そうとする自転車を必死に押さえて私は同じ言葉を繰り返す。
「ずーっと待ってたんだよ。本当はどこに行ってたの!!」
自転車に跨るTが揺れるたび、胸元のペンダントが大きく揺れる。
「あっ!」
よろけた私の横をTは猛スピードで通り過ぎて行った。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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