あ・な・た・の・こ・と・が・き・に・な・る・・・・
Wの言葉が水に垂らされた油のように私の心を弾いていく。
オンナが好きな私を受け入れたこの世にたった一人の存在、Tを失い、これから私を受け入れない社会とどう戦っていけばいいのかと、孤独のどん底の中でもがいていた私にとって、Wの言葉は驚きを超えた理解不可能な文字の羅列でしかなかった。私は揺れるWのイヤリングを両目で追いながら、ただ文字を順番に反芻していた。
あ・な・た・の・こ・と・が・き・に・な・る・あ・な・た・・・
私はいったいどれだけの沈黙の時を過ごしていたのだろう。ゆらゆら揺れるWのイヤリング。それはまるで催眠術の振り子のように、私の意識を奪っていった。
W「聞いてる?私、あなたのことが気になるって言ってるのよ。」
拡散した意識の中でWの声が針のように私を突付く。
W「アンティル!」
顔色も変えず耳元ばかり見ている私にWは少しイラついた声を上げた。
ア「あ、ごめん。き・に・な・るって何?」
W「私、そういう趣味はないと思っていたけど、今年に入って、ずっーと学校でアンティルのことを見ないではいられなかったの。」
ア「ずーっとみてたの?」
W「本当にずっとってわけじゃないけど。気がつくと目で追っていたの。」
ア「・・・・・」
次第に戻ってくる意識の中で、ようやく私の中でWの言葉が一つの意味をなし始めた。
“あなたのことが気になる”
ア「えっ!!!!だってほとんど話したことないじゃない!」
W「そうだけど。」
ア「なんで??!!!」
W「そんなことわかんないけど、私、もっとアンティルのことが知りたいの。」
ア「知るって何を?!!」
W「アンティルってTと付き合っているんでしょう?そっちの世界の人なんでしょう?」
この場に及んでも「そうだよ」と言えない私。そして“そっちの世界”という言葉に痛んだ私。
『もうそんな言葉には傷つかないはずなのに・・・』
私はこの時、自分の心がパンパンに腫れ上がり、今にも破れそうになっていることを知った。そして“そっちの世界”のただ一人の住人であることを恐れている自分に出会っていた。
ア「・・・・・・・・・」
W「Tとのことも聞かせて!」
ア「・・・・・・・・・・」
独りの世界に閉じこもってしまった私にWは次々と言葉を投げ続けた。
W「オンナの人と付き合うってどんな感じなの?!」
ア「・・・・・・・・」
W「とにかく話したいの。だめ?」
ア「・・・・・・・・」
W「私とこうやってちょくちょく会ってほしいの。」
ア「・・・・・・・・・・・」
W「今日、私の家に来てほしいの。」
すっかり陽の落ちた見知らぬ街の中で、私の運命はごろごろと音を立てて転がっていった。