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私はアンティル vol.88 イチゴ事件ちょっと中断。ロボモップとの出会い。

アンティル2007.08.02

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最近、「苺事件はどこまで続くのか?!」と読者の方から声をいただくことが多い。そんな声にプレッシャーを感じて、私は早くこの事件に片をつけなければと頭の中で“太陽に吠えろ”のテーマソングを鳴らしてみるのだが、現実には事件はすでに終わっている。縮めようにも縮まらない。気ばかりが焦る。この事件がそう簡単には終わってはくれないことを私が一番よく知っているからだ。

今日は水曜日の夜。締め切りに遅れてしまった。バタバタと急いでパソコンの電源をコンセントに差し込もうとして、私は指の肉をはさんだ。
『痛い!』
人差し指の腹が内出血している。血が鈍く滲む指を口で癒している時、携帯が震えた。ブルブルブル。編集長北原さんからだ。
“締め切り日が過ぎました。どうなっているのでしょうか。”
短い文章の中に、怒りの顔が見え隠れするメールに姿勢を正し返信メールを送った。
「あと1時間で書き上げます。すみません。」
『早く書かなければ!苺事件を進めなければ!!』
私は正座をしてノートパソコンを開き、気合いを入れて新規作成のアイコンをクリックした。
「よし!今週も書くぞ!」
カチャカチャカチャ・・・・“i c h i g o j i k e n”
と、その時だった。ノートパソコンの向こうでただならぬ気配が横切った。
ゴッォォォォォォーーーーー
視界の隅から隅を走り抜けていっても、その主がどのくらい動き回っているのか空気を通して伝わってくる。
ゴッォォォォォォーーーーー
私しかいない深夜の部屋で、強烈に存在を主張する丸い物体。私はその物体に名前をつけることにした。“深夜のワーカーホリック”。深夜のワーカーホリックは掃除ロボット“ロボモップ”だった。

掃除ロボット。量販店に行ってはその不思議な存在に釘づけになり、いつまでも見ていたい衝動にかられた現代の奇跡。センサーでゴミを探知し、隅から隅まで動き回る姿は、私が21世紀を生きていることをまざまざと思い知らせる。
そして2007年、夏、とうとう私はその機械を手に入れた。とはいっても数千円分のクレジットカードのポイントで購入した代物だけあって、その見た目はとてもチープだった。

ロボットはシャンプーハットのような形をした直径25センチほどのペラペラのプラスティックとソフトボール大の丸い球で出来ていた。“今日であなたもラクチン生活”というキャットコピーがなおさらチープさを際立たせている。その機械にはセンサーなどというものついていない。シャンプーハット型のプラスティックにマジックテープがついていて、そこに紙を貼付け、真ん中に充電型の電気で動き回る玉を入れるという原始的な構造でなりたっている。この時点で、すでにロボモップはロボットではない。クレジットカード会社から送られてきた”それ”を見た私は、がっかりしてなんちゃってロボットをしばらく箱に入れたまま放置していた。

そして1週間後、私は“なんちゃってロボット”を充電させ、スイッチを入れてみることにした。1回も使わないのももったいない。緑色のボタンを押してみる。
ゴォォォォォ――――
動き回るその姿を見て、床を撫でるだけの存在だと思っていた自分を恥じた。
それの動きは、まぎれもなくロボットだった。
凄い!まるでセンサーがあるかのように、目がついているかのように部屋を走り回るロボモップ。ゴミを付着する紙が部屋中のゴミを捕らえて進んでいく。右から左。前から後ろ。1時間半の掃除の間、私ロボコップの後をついてまわった。きれいに光る床の向こうで停止したロボモップがその存在を照らしている。私はこの日からロボモップの虜になった。

初めて手にしたロボット。それは電子レンジや冷蔵庫、そしてパソコンとは明らかに違う。“ゴミをとる”という意思の塊である機械は、これまで出会ったことのない存在感を持っているのだ。未知の物体と出会うことは、こんなにも不思議な感覚なのか!私は動揺した。カラダのどこかで、サイレンがなっている。人間の存続が危うい! ロボットによって世界を制服されるSF映画を、これほどまでに近く感じられたことはなかった。

意思。それは心でないことを私はロボコップから知った。
“ゴミをとるという意思の塊(かたまり)”それが掃除ロボットならば、人の魂はなんだというのだろう。
テレビに映る安倍首相の顔を見ながら、私は今日も懸命に働く“深夜のワーカーホリック”の存在におびえている。ゴミを拾うことが存在のすべてであるロボモップ。その完璧なまでの動きはなぜ私の心を不安にさせるのだろうか。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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