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私はアンティル Vol.92 イチゴ事件その27 真夜中の電話

アンティル2007.09.19

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大学生になった私の夜は、Wと共にあった。お母さんが“オンナが好きなオンナ”だと私に打ち明けたあの日から、Wは毎日電話をかけてきた。私には、それがWが背負う戸惑いや寂しさを埋める作業に思えてならなかった。

「何してるの?」
「はじめてオンナの人を好きになったのはいつ?」
「何人くらいつきあったことがあるの?」・・・・・・

“オンナでありながらオンナを好きになるわけ”その答えを私に求めることで、Wは母親との向き合い方を探そうとしていたのだ。
あの夜私はWと朝を迎えた。団地の中庭に太陽の光が注ぎ始めた頃、涙で溢れたWは私の膝で眠りについた。その頭を撫でることも、抱くことも出来ない私は、柱にカラダをあずけて人の出会いの不思議を考えていた。
『私はどこにいこうとしているんだろう・・・』

春の風は、私を新たな世界に引き込もうとしているかのようだった。
大学生になった私は、夜になると泣いていた。Tからの電話を待ちながら部屋で酒を飲む毎日。かかってくるのはいつもW。オンナが好きな私のままでいられるその会話は、ほんの少し私の涙を止めてくれた。毎日続く朝までの電話。私はTを求めながらWの電話で時間をやり過ごしていた。
「ねぇ、これからこない?」
深夜12時を回る頃になると、決まってこう誘うようになっていったのは、あの日から1週間くらい経った頃だろうか。
「ううん。明日学校だから・・・」
そう答えるたびに心の傷がドクドクと動き出していた。夜中に家を飛び出していたTとの日々。Wの誘いに胸をトキめかすことができない事実は、Tでなければダメだと事実を教えてくれた。
「おやすみ」
ガチャ・・・
私はさらに酔いつぶれるまで酒を飲み続けた。
プルルルル・・・・
Tと話すために買った電話が毎日夜の中に響いていた。
プルルルル・・・・
あの日、私はWとも話したくないほど落ち込んでいた。雨がヒトヒト降り続けていた夜だった。
プルルルル・・・・
ベッドに寝っころがって朦朧と宙を見つめる私の横で、留守電のアナウンスが流れはじめた。電話の向こうで受話器を握り直す音が聞こえる。
ピー・・・・・
・・・・・・無言の時間が数十秒流れたあと、電話が切れた。
チン!
それは、聞きなれたあの黒電話の音だった。
『まさか!』
私はベッドから飛び起きて、受話器に手を伸ばした。酔っ払った私は受話器をすぐ掴むことができず必死に行方を追う。
『これは夢?それとも?』
プルルルル プルルルル
ガチャ
電話で結ばれた一つの線の上で、私も相手も無言の信号を送り続けた。
・・・・・・・・
かすかに聞こえる車の音と部屋のノイズ。懐かしくて涙が止まらなくなる。雨の音が受話器の向こうからも聞こえてくる。
「Tでしょう?」
ようやく搾り出した言葉と共に電話は切れた。まだ着信履歴などなかった20年近く前の夜。私の心は再びTに揺り動かされた。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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