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男のプライド

北原みのり2010.09.14

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「妻が性的不能なので、私はソープランドに通っています。私は必ずコンドームをつけています。が、私が女性の性器を舐める時は、何パーセントの確立で性病になるんですか。そのことが知りたい! そのことを知りたくて私はここに来た。なぜみんな、性病の話をしないのか。なぜ性病という大事な話をしないのですか!」
 
 あるイベントに呼ばれてトークをした時のこと。話し終え、会場との質疑応答の時間に、70代の男性が手をあげた。清潔そうなシャツをキレイに着こなした「社会的地位の高そうな男性」である。
 
 
 そこは<性の健康>について考える会で、私の他に産婦人科の先生、泌尿器科の先生がパネリストで、順番に話しをすることになっていた。まず産婦人科の先生が「セックスレス」について語り、次に私が「バイブ屋からみる性の世界」を語った。そこまで約2時間。いつまでたっても「性病」についての話が出てこなかったからだろう。一番前に席を陣取りノートを広げペンを持っていたその男性は痺れを切らしたのだ。
 
 
 ゆるゆると和やかに進行していた会の空気が一気にとがり始めた。会場の七割は女性で、婦人科の医師や助産師や性教育関係者といったプロから、大学生や主婦という幅広い人が100人ほど参加していた。広い会議室の空気の濃度があがり息苦しく緊張感が高まってくる。男性は、自分が放った空気をさらに膨張させ爆発させるかのように、次第に声を大きくする。言っているのは同じことの繰り返し。しかも、演説口調。
 
 
「私は、そのことが知りたいんだ。なぜ、みんな性病について、話さないんだ! 私はコンドームをつけている。だけど、いったい、何パーセントの確立で性病になるのか!?」
 
 
 今、その話をしてる時間じゃねーし、と思ったし、大きな声を出されるのは本当に参るし・・・と沈黙していたら、司会者が空気をスパっと割って入るように明るくこうフォローした。
 
 
「ご指摘、ありがとうございますぅー!! いくつになっても、そういう風にマジメに考えて、こういう会にいらっしゃるのは素晴らしいですね! そのご質問には泌尿器科の先生に答えていただきましょうね!」
 
 
 会場を仕切る人は立派だな。偉いな。私にはとうていできないな。だって、頭に来てるもん。と思っていたので、マイクが回ってきたとたん思わず口を滑らした。
 
 
「何パーセント以下だったら、安心してソープランドに行けるんですか?(オッサンよ、言ってみろよ、おら! とは心の声)」
 
 
 案の定・・・シーン。オジサンはまったく表情が変わらない。背筋をシャンと伸ばしてこちらを見てる。私が何を言っているのか全くわかっていないんだろう。まさか私が怒っているなんて、思いもよらないんだろう。オッサンが動じない空気を感じながら思う。妻が不能って、なんだろう。妻が不能だから風俗に行っているってどういう意味だろう。妻と関係ないじゃん。妻のせいにすんなよオッサン。えー、それは間違っているであります!! 私はそのことを訴えたい! 心の中で私も演説した。
 
 それでも私が一番驚いたのは、その男性をフォローするのが、司会者だけでなかったことだ。会場で発言した一人の女性が、「先ほどの男性のように、いくつになっても、セックスをするのは素晴らしいと思います」と、あまり文脈なくその男性を“フォロー”したのであった。思わず本当に叫びそうになった。
 ちょとあんた-、同じこと援交する女子にも言える? 「セックス、いいですよねー!」って言う? 生活に追われている50代のセックスワーカーにも言う? 「いくつになってもセックスするのは素晴らしいですねー!」 って言う? ねぇ言う? その男の妻にも言う? 「ご主人、いくつになってもセックスしてて素晴らしいですねぇ!」
 
 
 しかもさぁ! とイベント中なのに私の頭の中では妄想がどんどん膨らみ始めている。ねぇ例えばさ、もしこれが70代の女性だとしたらどうなると思うの? 男性が七割占める会場で、全く関係ない文脈で、いきなり声を荒げ、
「私の旦那は不能です。だから風俗に行ってます。男性の性器を舐めたいんですけど、何パーセントの確立で性病になるの? そのことが知りたいのに、何でみんな話さないの!! それだけを知りたくてここに来たっていうのに!! いつになったら話すのよ!!」
と言った時、会場の男性たちは失笑せずに、マジメな顔で、本気って感じで、「素晴らしいですね!」なんてフォローすると思う? そんな社会に私は生きてないと、断言できますよ。ねぇ、なんでこんな男の発言、そこまで、フォローしてあげるの!?
 
 
 はぁはぁはぁ。私の方が異常なのか、と思う。会場は、空気をこれ以上殺伐とさせないために、女性がフォローし、しかも謝罪までしたりなど(性病のこと話さないでスミマセン的な)、変な濃密を深めていった。耐えきれず、トイレと言って外に出た(本当に大人げないです。仕事中です)。
 ええ、民主主義ですから。自由にご発言下さい。そう思います。オッサンが風俗でカネを落とすことは“すてき”です。自由です。そういう発言に対して、私がその場でもっと対応すればいいし、怒るんだったら怒ってよかったただけのこと。
 ただ、何だろう。とっさに、あまり考えもせず、習慣的な感じで、「男の人の立場を悪くしないように、きちんとフォローしてあげましょう」というような女の人たちの存在に、私は衝撃を受けたんだと思う。主催者側のフォローというには、あまりにも女ジェンダーの過ぎるフォローというか。
 
 
 会の最後、私にこんな質問が来た。
 
 
「男性のプライドを傷つけたくないんですが、私も楽しみたい。どのようにセックスグッズを彼に提案できますか?」
 
 
 もう、よく言ってくれましたって感じの質問でした。ありがとうございました。
 あの時も言ったけど、今も言います。あの時言えなかったことも、言います。
 
 
 男のプライドなんて、どーでもいいんです。
 そんなに傷つきやすいんだったら、大切にしまっといて下さい、って言えばいいんです。
 “男はプライドの生き物、女は妥協の生き物。”そう、さきほど泌尿器科の先生は笑いを誘うような感じでおっしゃっていましたが、そんな「生き物」いませんから。
 よく女性誌なんかのセックス特集を読むと、「男のプライド」を傷つけないように、女性は下手に下手に出ることが指南されていますけど、あなたにプライドはないんですか? 相手のプライドよりも、自分のプライド、守って下さい。
 私は男になったことがないので、私のプライドと彼らのプライドを比べるわけにはいきませんが、自分のプライドは自分で守るものってことを少なくとも私は知っております。自分のプライドの脆弱を、相手のせいなんかにいたしません。
 いいですか、プライドが高い、プライドが傷つきやすいなんてのは、プライドの問題じゃないですよ。そんなの、“根拠のない自信”“自己イメージがプラス方向に肥大しすぎた面倒な人”っていうんです。それは別名“腐れチンコ”です。
 
 
 ということで。吐き出させていただきました。はぁ、たまってた毒、出させていただきました。すみません。ここまで読んで下さった方・・・ありがとうです。
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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