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「すれ違いの生活 3」

茶屋ひろし2011.07.08

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「オーシマ、この先、どうするつもりなの?」
ビールを一口飲んで、横柄に結論を急ぐ私です。まったく余裕がありません。
「あ、はい、えっと、ひろし君の家にしばらくいさせてもらいながら仕事探そうかな・・って」
「うんうん、そうだね。それで?」
「えっ、いや、・・それで?」
会話が成り立つはずもありません。インタビューに切り替えます。
「オーシマのお母さんとお父さんって、どうしているんだっけ」
「どう、って? あ、それは、手紙にも書いたんですけど・・」
「あ、そっか、ごめん、そうだよね。ちゃんと覚えていなくて。もう一回聞かせて」
「いやぁ、それが自分で言うのもなんなんですが、複雑な家庭環境で」
とオーシマは目を輝かせて話し始めました。
出身は北海道の小さな町で、中学生のときに両親が離婚、もともとは母親の連れ子だった四つ上の姉は母親の元に、オーシマと二つ下の妹は父親の元へ引き取られました。その後、父が再婚します。その再婚相手と「合わなかった」オーシマは、高校にほとんど行かず、地元の友達と自販機を壊したりして、少年院に入ったりします。そのあと一人で札幌に出て、十八から二十歳くらいまで、鳶に、カラオケボックスの店員、そしてホストと、職を転々としてから、東京を夢見て、上京してきました。そのあと歌舞伎町でホストをしますが、長続きせず、人の財布から金を盗んで、逮捕、そして東北の刑務所へ・・短い間に、行ったり来たりの人生です。
現在、母親は地元の町で生活保護を受けながら単身で暮らし、姉は一度結婚したものの離婚して三歳の子どもと母子寮に入って生活保護を受けながら暮らしていて、妹は高校を卒業後、札幌に出て、働きながら生活しているということでした。
父親は再婚した家族と生活しているそうです。
母親と父親に向けて、刑務所から手紙を何度も出したオーシマですが、母親は送金出来ないとの返事で、父親からは一切返事が返ってこなかったそうです。
親に対する感情も複雑のようで、憎んだり恨んだりしているかと思えば、こういうところが好きだった、と二転三転します。「俺、親の愛情を満足に受けてないんすよ」と笑います。ほだされるなよ、俺、と、私も「俺」になって冷静を努めます。
中学生のときに、再婚する前の父親と暮らしていたときの様子を語ります。
「フルボッコ、っすよ。すぐ俺を殴るんですよ。俺が悪いことをしたときはしょうがないんすけど、仕事から帰ってきて機嫌がわるいときも殴るんですよ。最悪っす。小遣いはもらえなくて、靴が欲しい、って言うとお父さんが自分で選んで買ってくるんですよ。だから自分で選んだ服や靴を着たりはいたりしたことないんですよ。そのせいか、自分で稼げるようになったら、すぐ服に金使ってしまうんですよ」
「もっと最悪なのは、昔、姉ちゃんをレイプしてたんすよ。親が離婚したのはそれが原因っす。姉ちゃんはお父さんのこと許してないし、俺もその話聞いてから、許せなくなった部分もあって、どうしていいのかわかんないですよ。姉ちゃんは俺にすごくやさしくて、俺大好きなんですよ。姉ちゃんはヴィジュアル系が好きだったから俺も影響を受けて、それで、ホストになりたい、って思ったんですよ。かっこいいじゃないっすか、田舎町だからダサい格好しか出来なくて、それで札幌行って、東京に出てきたんすよ」
父親の再婚相手のことについても話します。
「口うるさくて最悪でした。もう、毎日口喧嘩っすよ、それが嫌で、家に帰らないで悪さばっかりしてたらカンベツ行きになっちゃったんすよ。差し入れとかはしてくれましたけど、出たら出たで、やっぱりガミガミ言うから、それで一人で札幌に行ったんです」
話が錯綜しますが、だから結局、この子は私に、「殴らないで叱らないで、やさしく保護してほしい、そのあいだ、適当に働いてオシャレを楽しみたいの」と全身で訴えているのでした。・・無理だよ、と気が遠くなりました。
「更正保護施設」の話を持ち出すと、それまで気が緩んでたくさん話していた顔に緊張が走りました。「知ってる?」と聞くと、うなずきます。施設の件は、出所する前に、刑務所で提示されたそうです。
「いや、でも、俺は、ひろし君の家に行くことが決まっていたから、施設は断わったんですよ・・。うわ、まいったな、ひろし君がそこまで考えているとは思わなかった」
「そうなんだよね。本当は、出所前に手続きするものらしいけど、出所後も適応できるかもしれない、と思って」と、ネットで調べたことと、現実的なサポートの話をしてみました。「まあ、そういう方向も考えてみてよ。ウチにしばらくいて自立できるようになるんだったらいいけど」と私自身、先のことが見えないまま、提案してみました。
翌日職場のオーラちゃんに、オーシマの半生を話すと、「うーん、嘘かもね」と軽くいなされました。ええー! とのけぞる私です。もうだまされているの、俺。「嘘、わかんない」とオーラちゃんは笑いました。
今にして思えば、オーラちゃんは茶化していたわけではなくて、冷静に事にあたっていると自分では思いながら実は大きく状況に流されて興奮している私の粗熱を、そっと取り除こうとしてくれていたような気がします。
(まだ続きます・・)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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