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世にも恐ろしい老化現象

アンティル2012.12.20

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生理が止まる、腕や足の毛が濃くなる、ヒゲが生える、声が低くなる。FTMが求める男性ホルモンによる効果としてあげられるものにはこれらのことがある。生理が止まるという第一ステップに達するまで、週1を数ヶ月続ける必要があると言われているが、私の場合は、1回目の男性ホルモン注入で第一ステップに達してしまった。次のステップ、体毛や声の変化は、元から濃くそして低かったために、際立った変化はなかったものの、ヒゲにいたっては4回目くらいになると立派な顎髭に育っていった。変化も早ければ男性ホルモンをやめるのも早かった私は、数年足らずでホルモン療法を止めた。
性別適合手術を経て途中でホルモン療法を止めた人はあまりいないらしく、私は現在生きるモルモット状態である。と、いっても病院に通い記録を残しているわけではないので、このコラムがその生物日誌とも言えるのかもしれない。
ホルモン注射をすっかり止めて10年。私のカラダは老化の一途をたどっている。老化というのは実に地味なものだ。
長年苦しんだ火照り。これはただカラダが“火照る”というカラダの変化で、人から見たらただ顔が赤くなるという地味な主張しかない症状である。しかしこれが思ったよりしんどい。全速力で100メートル走ったあとの疲労感と1回の火照りは、ほぼ同じ疲労レベルである。それが多い時には3分に1度。寝ている時以外は持続的にやってくる。生きているだけでヘロヘロである。地味な戦いには特効薬などない。
物忘れ。これもまた恐ろしい。私の場合物忘れの前に、暗算スピードが落ちる、
暗記ができなくなるといった症状があった。時間内に暗算をしながら仕事をするということをやっていた私は、計算処理スピードが落ちる過程を明確に自覚した。といっても病院に行き、「計算ができない」といっても診てもらうことはできないのでほおってくしかない。この過程を経てやってきたのが、本格的な物忘れ。エレベータのボタンをすぐ押せなくなる。ボタンを押す前に何のボタンなのかを考えなくては動けない、目的のボタンが探せない。その空白の数秒が健康だった頃の自分との距離を痛烈に思い知らせる。次第にその時間が長くなり、ボタンを押せなくなったりする。ここまでになるまで6、7年。「みんなあるよ!」と笑い飛ばせなくなるころには、自分が自分を信用できなくなっていく。MRも撮った。脳も調べた。しかし老化は目に見えない。このじっくり首を絞められるような苦痛のような苦悩は、いつも私の影のようにカラダにへばりつき、いつかすべての頭の機能を奪われるような恐怖心を抱かせる。
集中力の欠如。集中という行為は若さの象徴だと私は思う。新聞を読む、ドラマを見る、音楽を聞く、人の名前を覚える、歩く、会話する、そのどれもが集中力に関与している。集中しようとしないとそれらの行為ができなくなる。文字を読んでいるとしよう。老化が始まると、これまで見落とすことのないような小さな認識違いを続発してしまう。これこそ地味であるが、恐ろしい老化の現れである。
言葉を頭の中で探すという行為も実は集中力に関与しているらしく、記憶倉庫から言葉を探している間に集中力が切れると、とんでもない言葉を拾ってきたりしてしまうのだ。
最近のそんな事例①「ローソンチケットで買えばいいんじゃない!」→
「ローションチケットで買えばいいんじゃない!」
事例②「飛行機を初めて作った兄弟だれだっけ?」「ナイト兄弟でしょ。」
今日も恐ろしい老化現象を体験した。事例3として上げよう。
初めて体験するWEBオークション。長年ほしかった某高級スーツケースがオークションに上がっていた。新品で買うと数万もする超高価商品。それが1円オークションで出ていたのだ。私は説明を注意深く読み、“1000円”と入札した。誰かがそれを上回る金額で入札する。それならば、と、私はそれ以上の根をつける。数万円もするものを数千円で買えるならば、と、競い合う。不思議と3000円の値がついた頃から、競い合う人がいなくなった。
『祭日だからみんな忙しいのかなーじゃあ念のために5000円で、パチっ!』
“5000円!おめでとうございます!あなたが落札しました!”
「やった!!!」
勝利の喜びにわきつつ、決算する前に気になる表示について問い合わせしようと電話を鳴らした。自分を信用しない私は、注意深くもなっている。
「このスーツケースのサイズ表記おかしいんですけど、(笑)間違いですよね。
うぷぷ。60cm×40cm×5cmって書いてあるけど5cmってね。うぷっ」
私が落札したのはスーツケースの片側の“ふた”だけだった。
そりゃ、よく見ればスーツケースの“ふた”って書いてあったよ。でもね、写真はどうみてもスーツケースそのものだったよ~。どうするんだよーこのふた!
もし私に昔の集中力があったなら、こんな失敗はしなかったはずだ。地味だが恐ろしい老化現象。これはあなたの数十年後、いや数年後の姿である。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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