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『秋の夜とかつら』

アンティル2014.09.25

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今回はいつものアンティル恋愛物語ではなく、ちっと最近あったことについて綴ります。

 

私は性別適合手術と呼ばれる手術を受け、胸、子宮、卵巣、卵管を摘出した。それが30歳の時だ。手術を受ける資格を得るために、その2年ほど前からホルモン治療とカウンセリングを受けた。ホルモン前と後ではパス度(男に見られる頻度)が変わるというのが常だが、私はあまりかわらなかった。20代後半には自力の努力で見た目ではほぼ男。名前も通称を使い男として生活をしていた。

 

20代前半から中盤、名刺を出すのがとてもイヤだった。私にとって名刺とは性別を相手に知らせる紙だったからだ。「えっ!オンナなの」
「えっ!レズなの?!」「えっ!胸あるの?!」その反応に好意的なものは何一つなく、歪んだ好奇心で私を見つめる。その視線は名刺一枚で幾十にもなり、私はどんどん動物園の動物のように、無礼に視線を受けるに値する存在になっていった。その頃私はそんな視線から目をそらすことを自分に許さなかった。『私は何も悪いことはしていない』『恥ずかしがることなどない』『変な視線を向けるやつにはにらみ返さないと社会に負けることになる。負けてたまるか!』かなり無理をして社会の目と対峙していたのが20代中盤。20代後半には会社の理解も得られて名刺に通称を使い始めた。そして30歳には改名。この頃からは取引先の人達の顔ぶれも変わり、女性であることを知らない人の方が多くなっていった。

 

会社を辞めてフリーになった私は、出入りする取引先も変わってもうすっかり男として社会人生活をしていた。アンティルは男。交わされる会話も男色満載。しかし私は“男のコミュニケーションの輪”に入れない。男から一番遠いい、縁のない生き方をしてきた人間に馴染めるはずもない。そんな私が行き着く場所は“変な人”枠。ここに入れば、自由だ。
酒にも誘われなければ、パチンコにも誘われない。たまに一見さんがふらっとやってきて私を風俗に誘ったりもするが、日々関る人達は私を男ジェンダーの外にほっておいてくれる。そんな暮らしも板について、一生このまま続くと思った矢先に衝撃の事実が降ってきた。

 

先週のことだった。取引先のAさんとBさんと喫茶店で打ち合わせをしていると、
取引先の人A「いやーこの前、Cさんとも話していたんですけど、アンティルさんって女性からよく相談受けますよね
私「そうですか?」
取引先の人A「いつもCとも話しているんですよ。やっぱり苦労している人は違うなぁって」
私「・・・・」

 

『苦労って何だろう?私は何に苦労しているんだってけ?』頭の中でどんなに考えても出てこない“私の苦労”。AさんにもCさんにも、苦労話しはもちろん、自分の1日分の人生すら語ったことはない。『私が知らなくて、AさんとCさんが知る苦労とは?』その瞬間、私は悟った。『この人達、私がオンナだって知っているんだ。』

 

私の心臓はバクバクと音を立て、顔に血があがり何とも言えない感情が突き上げてくる。

 

『私はオンナだと悟られないようにこの人達の前で“僕”と言ってしまったことはなかったろうか?あっ!よりによってこの会話の寸前に、迷いに迷って、私は始めてAとCの前で“僕”って言ってしまったではないか!』

 

『パートナーとの話をしなかっただろうか?したした!Aに幸せな日々の暮らしを微笑ましく話していたではないか!』

 

『どんな女子が好きかと話さなかっただろうか?あれは1年前、飲み会の席で不覚にも盛り上がってしまった~!』

 

羞恥心。そんな心を抱えたまま私は帰宅した。AとCが知っているくらいなら、私の周りの多くの人が知っているということになる。この時、私は“どーしよう!”という不安より“恥ずかしい!”という感情を繰り返し心で呟いていた。

 

『私の恋愛観を私がオンナだと知って聞いていたんだ!だから誰からも質問が出なかったんだ。そう考えると恥ずかし過ぎてもう誰にも会いたくない・・・』

 

この時、私は始めて“かつら”の人の気持ちがわかった。「わかってないって思ってるの、本人だけなんだよね。わかんないはずないじゃんね。それも影でこそっと直してたりしてウケる~」そんなよくある“かつらトーク”それはまさしく私のことではないか・・・。『あっ!あの時もみんな知ってたんだ!あそこに行ってた時も?!』過去の私は無邪気に笑顔で取引先の人と会話している。でも、その時はみんな私が男という“かつら”をかぶっていたことを知っていたんだ。

 

あの日から私の心にはハゲのオヤジが住んでいる。必死にカツラのずれを直すハゲオヤジ。これまでかつらをかぶるオヤジの気持ちなど考えたこともなかったが、今の私にはその心のヒダまで理解できる。
ここで一句。

 

秋の夜 かつらは何を いうひとぞ
ヅラ男 見ているだけで 涙出る
知らぬのは あなただけよと 月が言う

 

もし“ズラ”という言葉が秋の季語になれば、私はいくらでも秋の句を詠めるだろう。さぁこのかつらを脱いでハゲのまま生きるべきか、堂々とかつらをかぶり続けるべきか、いっそアフロのかつらでもかぶってしまおうか・・・。カツラを前に私は今日も考える。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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