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「恐怖の地元」

アンティル2016.06.22

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 先日地元に帰った。すっかり様変わりした街の中で、これまたすっかり性別が変わった私は、誰にも知られていない“地元民ではない人間”として街を歩く。そんな日々をここ20年ばかり過ごしていた。ちょくちょく帰っているので、そんな状態にも慣れ、よく見知った街を安心して歩いていたのだが、先日異変が起こった。

 「ね、あなたアンティル子ちゃんでしょう!」

 顎髭に無精髭、短パンにTシャツという出で立ちの私を誰かが、私を“アンティル子”と呼んでいる。目の前にいたのは、子供の頃、家族ぐるみで仲が良かった4軒先のおばさんだった。
 「久しぶりね。元気なの?」
 私は急いでTシャツを口で咥え、不自然に顎髭を隠し、80歳を超えたおばさんに挨拶をした。
 「ぽぴさしぷりです(おひさしぶりです)」
 Tシャツを咥えているので、うまく話せない。
 「何年ぶりかしら。こんなに背が高かった?うれしいわ。会えて」
 髭のことや、見かけのことを聞かれるんじゃないかと、ドキドキしている私をよそに、おばさんは普通に懐かしい“アンティル子”との再会を喜んでいた。
 「今何してるの?たまには遊びにきなさいね・・・・・」
 いっこうに“不審”がっている節がない。それはそれで不安になる。
 「じゃあね。また会いましょうね」

 一回りも二回りも小さくなったおばさんが、見慣れた家に入っていった。「おばさんは痴呆症になっているんですって」そんなことを母が言っていることを思い出した。私への“???”に対し、聞きたいことをぐっと我慢してくれている。そうとも考えられるが、おばさんの様子からは到底そうとは見えない、あの自然な再会。痴呆症になるということは、見かけに囚われることなく、その人自身を見るということなのだろうか。性別を超越し、人間と人間との触れあいができるということなのだろうか!私はそんな風に思えてならなかった。去っていくおばさんの背中に私は小さく呟いた。
 「おばさん・・・・。」

 「あら、アンティル子ちゃん?」
 しばらく歩くと、今度は10軒先の文房具屋のおばさんに声を掛けられた。これまでも何回もすれ違っているのに、目が合っても一度も気がつかれたことがない相手だった。
 「アンティル子ちゃんよね。やっぱり。まぁあああこんなに大きくなって・・・・」
 45歳も過ぎて“大きくなって”とはどうかと思うが、痩せ型人間が相撲取り系になった私を見れば、正しい表現には違いない。私はまた急いでTシャツを咥え挨拶した。
 「ぽぴさしぷりです。ぺんきそうですね。おぱさんげんきそうですね(おひさしぶりです。おばさん元気そうですね)」
 先ほどのおばさんに比べ、今度のおばさんは明らかに疑いと好奇の目を輝かしている。ギラギラと光る目線の奧には、好奇心が溢れている、やっかいだ!お母さんは元気なの?今何しているの?質問攻めにされ、私はその場から逃げるように去った。

 アンティル家には姉妹がいる。という事実を知っている馴染みのご近所さん。
 アンティル家には2人の子供がいる。というくらいしか知らないご近所さん。
 アンティル家があそこにある。くらいしか知らないご近所さん。
 そんなグラデーションの中でもっとも多い、2番目と3番目の人々と関わる機会がここ10年、頻繁にあった。実家の電気工事をしてもらったり、大工工事をしてもらったり。そんなご近所さんは、私を男として認識し、“アンティル家には男と女の兄弟がいる”という情報をインプットしている。そのほとんどは男。
元々付き合いの薄かったこれらの人達は、ふつーにそれを事実として受け入れていた。この街に子供の頃からいる“アンティル”は男。そんな事実が定着した今、問題が起きた。

 「アンティルさん、次の町内会の寄り合いに出てくださいよ。」

 ひょんなことから仕事を共にすることになった、すごーく近所のおじさん。近いわりには、これまでまったくアンティル家と交流がなかったその人とは、ここ数ヶ月でぐんと距離が縮んでいた。
 「アンティル家にこんな立派な長男坊がいるとは知らなかった。地元の自慢だよ、こりゃ」。
 と、小さいながらも会社経営をする私を褒め讃えるおじさんは、私に1年に1度の町内会の寄り合いに出てほしいというのだ。おじさんと私が知り合って、初めてとなる町内会。そこには、街で声を掛けられたおばさん2人、そしてアンティル家に2人の姉妹がいるということを知り尽くしている家が3軒を含む、15軒の人が集まる。
 おじさんは間違いなく私のことを話す。そして「そんなはずはない!アンティル家は姉妹2人しかいない」と誰かが言い出すはずだ。そしてトドメは先ほどのおばさん。

 「私見たわよアンティル子。あのこ、性転換したわね・・・・」

 ぎゃああああああーーーーー
 どうしたもんか。私は真剣に悩んで知る。今年から近所に出来た公民館の部屋を借りて、ゆっくり会議をするらしい。私はそこに行くべきか、行かないべきか。おじさんにカミングアウトしておくべきか・・・・。と書きながら、若干の希望の光が私の頭に灯った。隠し子・・・・。ってことに。

 お父さんお母さん。親不孝をお許しください。

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アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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