ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

「私の胸は誰よりもFTMだ」

アンティル2016.08.26

Loading...


 夏になると思い出す通称バリバリ。FTMの必需品として知られるこのバリバリは、胸を潰し平らにするための物だ。今ではナベシャツという便利なものができ、Tシャツを着るように胸を潰せる代物があったりするが、昔はサラシか腰のサポートベルトを流用することが多かった。

 私が愛用したのは、腰のサポートベルト。今のように、腰のサポートベルトの種類も豊富ではなく、年寄りにターゲットを絞った商品を結構な値段で販売していた。その代表格であった中山式うんたらという会社のサポートベルトが私の愛用品。通常、この手のものは磁石などが入って、腰痛に悩む人々を魅了していたが、一つだけ磁石が入っていないバージョンがあった。厚さ4mmほどの結構熱いそのベルトは内側がゴムで、外側が何かの繊維でできていて、着け心地は柔らかいが、しっかり胸を平らにしてくれる安心感があった。ただ、冬はいいが夏には向かない。厚さがあるためTシャツなどの薄着では不自然な段差ができてしまい、人目が気になる。そして何より暑い。

 ゴムでできているために蒸し蒸しになる。しかも蒸されて変な体臭が出てきます。夏でも薄着はNG。段差が出るから厚手の生地でなくてはいけない。しかも腕の細さを隠し、肩パットの装着が可能な長袖シャツ。この出で立ちでナべシャツはさらに暑い。

 私のバリバリの情報源は同居していた祖母だ。中山式うんたらの愛好者であった祖母は、新シリーズが入ると教えてくれた。もちろん私のセクシャリティは知らなかったが、ブラジャーの代わりにサラシで胸を巻いていた明治20年生まれの祖母には、私が胸にベルトを巻くことに抵抗感がなかったらしい。
 私は祖母おすすめのそのメーカーの本店によく通った。値段が高く、2本しかなかったバリバリを毎日着けているためにすぐにぼろぼろになる。もって半年。その度に私は、そのお店に行った。通常使用したら2、3年はもつそのベルトを買いに、半年に1度来る私はかなり目立っていたようだった。
 「今日もおばあさんのために来たのかい?本当におばあちゃん孝行だよ。」
 そう言って、私はよく飴をもらった。

 暑い以上に辛いのが、圧迫感だった。非常に巨乳だった私は胸を平らにするためにきつくベルトを締め付けた。そのために、マジックテープ自体が半年で破れるほどだった。激しく体に巻かれた状況では、生活するだけでも息苦しい。
 体育の時間などはさらに大変で、マラソンや100メートル走などの後はこのまま息絶えてしまうのではないかと思っていた。しかし、今にしてみればこれ加圧トレーニング?!同じ原理だ。腕や足をベルトで締め付け、血圧計のような原理で加圧し血の流れを止めてトレーニングすることで、筋肉を作るはやりのトレーニングを私は30年前にしかも胴体でやっていたのだ。ただでさえ、強靱な運動神経だったが、高校生になりさらにパワーアップしたのはあのバリバリ生活のおかげではないかと思うことがある。

 私は胸と生殖器の除去手術を受けている。胸がなくなった生活は私を自由にさせた。思いっきり背筋を伸ばして歩ける。バリバリの段差を気にして背中を丸める必要もなければ、Tシャツだって着られる。1000m走ったって、普通の苦しさ。暑い夏も普通の暑さ。あの頃の私にはけして戻りたくはない。一つの代償を除けば。

 手術後、私の胸はまだ傷を負っている。取られ過ぎた脂肪と筋肉は、山のてっぺんにある湖のようにへっこんでいる。乳輪のまわりにはブラックジャックのような傷が残っていて、乳輪の大きさも、形も不自然過ぎる。女の乳房でもなければ男の乳房でもないような、妙な胸。プールに行くと監視員がひそひそ話しをしていることがよくある。梅雨になると傷口が痛み、ひきつったりもする。
 もちろん、バリバリの時代よりは安心に生活できている。服を脱がなきゃ。信じられないほど快適だ。しかし私の胸は誰よりもFTMだ。

 夏になると思い出す。バリバリ。今は進化したナベシャツがあるという。さらに快適に進化すれば、手術をしない選択をする人も多いのかもしれない。同じように、手術も進化すればいい。メスを握る医者達が自分のカラダに置き換えてその胸の造形を作る視野があれば、私のような胸は生まれないはずだ。当事者が作った台湾製のナベシャツ、ラブピースクラブで売ってます。


 ラブピで売っているナベシャツ。2重の作りになっていて内側の部分にマジックテープが付いています。昔からは考えられないほどの進化。
utida20160826-1.jpg

Loading...

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP