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ミルドレッドが最高にかっこいい 新たな女のロールモデル『スリービルボード』

三木ミサ2018.02.16

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近年、アカデミー賞の前哨戦と称されるトロント国際映画祭で観客賞を受賞した『スリー・ビルボード』。
閉塞的なアメリカの片田舎ミズーリ州の町の道路傍に、ある日3枚の広告看板が立てられる。閑散とした田舎町の日常を揺さぶるように、異物感を放つ真っ赤な看板に掲げられたメッセージ。
「レイプされて殺された」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ? ウィロビー署長」

看板の広告主は主人公ミルドレッド。
7カ月前に娘を殺されたミルドレッドは、事件の捜査が一向に進展しないことに腹を立て、なけなしの金を叩き、地元の広告代理店と一年間の契約を交わしたのだった。
看板の出現を機に、次々と事件が起こり、狭い町に波紋が広がっていく。

「変わった映画」「説明が難しい映画」という前評判は聞いていた。
犯人探しと復讐のクライムサスペンスと思いきや、物語は横滑りに横滑りを重ねて、思わぬところにたどり着く。

ここに登場するすべての人が、人間性をまるまるひとくくりにして「善い」「悪い」だけで二分することなどできない。
誰も彼もが、身勝手でどうしようもなくて、切実で、傷ついていて、時折は少しやさしくもなれる。
人間の多面性というのは、相反する白黒が1人の中に同居するというよりも、一人の人間がもち合わせる個性や性質が、ある場面では白と作用し、別の場面では黒と作用する、そういう、コインの表裏のようなものではないかということを感じさせられる。

どの人物も本当に味わい深いのだが、やはりミルドレッドの闘いは讃えたい。
彼女を諭しにきた神父を真っ向から侮辱して追い返す長広舌のキレの良さ。神父による性的虐待が、組織的な犯罪であることをミルドレッドらしい例えで(そして完膚なき正論で)見事に追い返す。
ウィロビー署長から、彼が抱えるある事情を聞いたときもそうだ。普通なら絆されてしまいそうなものを眉ひとつ動かさず跳ね返す。
息子の同級生から車にジュースを投げつけられた際には、投げた男子生徒だけでなく横で見ていた女子生徒にも反撃を食らわす。
屈強で、決して折れない強さ。
しかし、悪意がある人間でないことは、佇まいから伝わってくる。怒りを、相手を傷つけることを目的としてではなく表現できる人である。表現は、かなりハードではあるが。

人の多面性を描こうとしても露悪的になっていないのは、人間の可能性を信じる一貫した眼差しが、どの人物にも深く注がれているから。
完全なる善人はなかなかいない。それでも、人は変わる可能性はある。意外にも、ハートウォーミングな映画なのだ。

ミルドレッドを見て、自分もこんな風に歳を重ねていけたらと心底憧れてしまった。
こんなカッコいい女になるのは難しそうだが(あの肝の座り方!)、いままで描かれてこなかったタイプの中年女性にすっかり魅了されてしまったのだ。

ここ最近、中年女性が主人公のアンチヒーロー映画が少しずつ作られるようになってきている。
昨年公開の『エル』や『女神の見えざる手』はその好例だ。
どちらも中年女性の新たなロールモデルとして讃えられているようだが、前者の二作品はともに社会的に大成功をおさめたエグゼクティブのバリキャリ女性。
高いヒールを履きこなし、かつセクシーで、男を踏みつける「自立した女性像」は、たしかにカッコいいのだが、あまりに生身の人間とかけ離れているというか。
しかも、これはこれで、一定数いる「ヒールで踏みつけられたい系男」たちのファンタジーという感が否めない。完全無欠過ぎるのである。

そもそも、表現として溢れる日本の中年女性のロールモデルは、オカンか、キャリア志向エグゼクティブか、美しいミセスばかり。幅が狭くて物足りない。
その人らしい個性に彩られた生き方を見せる映画が、男が主人公のものならいくらでも思いつくのだが。
アウトロー中年も男なら「自分、不器用スから…」の一言で美学に回収されるというのに。それもあくまでファンタジーだというのは承知の上で、そういう中年女のロールモデルはいないものか?

ミルドレッドの登場に、ついに、ハードボイルドで、頼もしくて、ストリートワイズのある中年女が描かれる時代がきたのだと痺れた。
泣くよりも、火炎瓶を投げるミルドレッド。ジャンプスーツに身を包み、闘うミルドレッド。

転換期にある映画界。男の添え物でもなく、男のファンタジーの具現化でもない、様々な年齢、国籍、階級の、リアルな女たちがこれからもっと活躍する姿が、観られるようになるのかもしれない。



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三木ミサ(みき・みさ)

神奈川出身。元シノラー。学生時代にフェミニズムに目覚め、男子学生たちがオンナに抱く幻想を打ち砕くべく目の前で放屁をするなどの実践を試みるも、のちに、ジェンダーの問題ではなく、人としてのマナーの問題だったことに気づき反省。フェミニズムをゆるやかに模索する日々。出来れば、猫を産みたい

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