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一線を越えてしまった!~ドイツ与党は誰と連立を組むべきか?

中沢あき2020.02.19

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とうとう一線を越えてしまった! というショックを多くのドイツの人たちに与えた衝撃のニュースは、先日のテューリンゲン州の州首相選挙の結果だ。

このテューリンゲン州で昨年11月に行われた州議会選挙では、メルケル首相率いる第1与党のCDU党がかろうじて第一党の立場を守ったものの、政権では連立を組んでいる一大政党のSPD党はボロ負けをし、代わりに第2党となったのが極右政党といわれるAfD党という結果に、ドイツ社会は衝撃を受けた。

旧東ドイツであるテューリンゲン州のこの状況に、それまでも言われてきた東西の分断、文化や社会観の分断が改めてはっきりと見えたからだ。

東西統一30年経っても、いまだ東西の経済格差は埋まらず、旧東側の人々の不満はそのぶん、移民や難民といった「ドイツ人でない」人たちへの差別として発されていると言われてきたが、それが政治の場にもますます姿を現してきたかと、ちょっと背筋が寒くなった。

さて、AfD党が第2党となれば、州議会の様子もこれまでとは違う。

与党は誰と連立を組むべきなのか、話がまとまらない中でこのたび2月初めに行われた州首相選挙。これは議員からの投票で決まるのだが、これまでの首相は左派のLinke党の人物で、CDU党とは政策方針が相容れないから、与党のCDU党としては別の首相を選びたい。

かといって、CDU党からは候補者を上げられず、かつては勢いがあり、CDU党とも連立を組んだこともあるFDP党から出された候補者へ投票をという流れになった。

ところが蓋を開けてみれば、結果、Linke党の候補であった旧首相の再選は1票差で叶わず、代わりにこのFDP党からの候補者でありCDUも支持をしたケメリッヒ氏が選出されたのだが、その投票結果の内容がなんと、同じく候補者を出さなかったAfD党からも得票をしてしまったという、とんでもない構図の結果になってしまった。

移民や外国人排斥を公言するこの極右の政党が躍進することは許されないとしてきたのに、メルケル首相が率いるCDU党がどうして同じ候補者を支持しているのか? 極右の進出を認めるのか? とばかりに州内だけではなくドイツ全国から非難ゴウゴウの嵐である。

FDP党というのは極右ではないが、自由主義を掲げ、簡潔に言ってみれば経済的なパワーゲームの勝者にやさしい党である。そしてFDP党ほど明確には言わなくとも、CDUも保守的で、どちらの党にもやや右寄りの人たちはかなりいる。

今回選出されたケメリッヒ氏もそのうちの一人であるらしく、AfD党としては連立もしくは何かしらの有利な可能性も見えそうな支持しやすい候補者だったのだろう。それにしてもCDU党、極右が台頭してきていてもなんとか押さえ込まなければと多くの人々が懸念してきていたのに、なんと与党が自分たちの座を勝ち取りたいばかりに極右の手を借りてしまった、という禁じ手をおかしてしまったのを見て、多くの人と同じく私も思った。

あーあ、とうとうやっちまった……。

しかし、ドイツ人はここで黙って見ている国民じゃない。

これで極右が州政権に食い込んでくるという構図はなんとしてでも避けなければならぬ、と、CDU党の党首であるメルケル氏は早速、AfD党と同じ候補者を支持した自らの党員を厳しく批判し、この結果を許すなとあちこちでデモが行われた。

ラジオのコメンテーターは、選挙後にケメリッヒ氏へ祝意の握手を差し出すAfD党首の様子が、1930年代に当時の大統領へ握手を差し出したアドルフ ・ヒトラーの仕草とソックリだと非難し、デモでは「ヒトラーの第3帝国に続く第4帝国など絶対に許すな」とスローガンが掲げられた。

そして当人のケメリッヒ氏はその当選翌日に自ら首相の座を辞任し、というわけで、再選挙となることになった。

とまあ、大騒動に発展しているのだけど、私自身はこの動きの速さには正直驚いた。

氏にとってもよっぽど予想外のことで責任を感じたんだろうか。

そこへいくと日本なんか、国政選挙で何年も一票の格差が憲法違反だから選挙をやり直しすべきとか、訴訟まで起きているというのに、いったん選挙が終わればどんな内容であっても票を取ったもん勝ち。誰が何を言おうと、さらには選出されたからには何をしようと(実際、一般人がやったら犯罪のことばっかりですよ)、その座に居座ってられるんだし、ましてや閣僚や議員の辞任だなんていまやあり得ない。批判はされていても、ケメリッヒ氏の決断と行動の速さには、日本人の私としては感心すらした。

再選挙になるとはいえ、その後の状況は全然安心できるものではない。

今回の件を受けて、メルケル首相の後釜とみられていた党首のクランプ=カレンバウアー氏は、AfD党と連携を取ろうとしたことで党内の支持を失い、夏までに党首の座を降りると表明。もっとも彼女はこれまでも、ゲイをネタにした失言をしたり、なんかこう浅いというか頼りない感じだったので党首交代自体は当然と思うが、問題はその後に誰が党首となるかであって、前回も党首候補であった右寄り保守派の人物がまた表に出てくるなど、まさに「いやな感じ」である。極右を押さえ込んでも、代わりに出てくる人が頼りにならなければやっぱり問題だ…。

メルケル氏の後任問題は数年前から話題になっていたけれども、ここに来て本当になんだかドイツもちょっと危なっかしげな感じだと、これまで楽観的にみてきた私ですら思う。

私はドイツの国籍は持っていないので当然選挙権もないのだが、この国で外国人として暮らす身としても、この国の国籍も持つ子どもの親としても、すごーく気になる状況なわけで。幸い私の暮らすこの町の環境は、こんな排斥主義もどぎつい差別も今のところはないが(外国人が多く暮らしている地域、ということも大きいけど)、国全体としてみれば、こういう動きが以前に比べて大きくなってきたというのは見逃せないことである。

おぉーい! ドイツよ、民主主義を頑張って守ってくれ〜。

世界のあちこちがこんな不安定になっている中で、なんとか踏ん張ってくれないと。ドイツよ、頼むぜ!

写真1:
今回の出来事の舞台となったテューリンゲン州の州都であるエアフルトは、2年前にロケの仕事帰り、数時間だけ立ち寄ったことがあります。大きなデパートや映画館が並ぶ通りは新しくモダンな感じでしたが、一歩奥へ進んだ旧市街に現れた大聖堂は、長い階段の上に建つ荘厳な姿で美しくて思わず見とれました。安物のスマホで撮ったのでブレブレの残念な写真ですが、また機会があれば訪れたいなと思った古都の町、そのときはどんな印象を抱くでしょうか。少し複雑な思いで写真を見返しました。

©Aki Nakazawa

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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