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TALK ABOUT THE WORLD ドイツ編 喜びの歌~あのベランダの合唱に参加した!

中沢あき2020.03.25

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今年はベートーベン生誕250年で、ドイツでも各地でベートーベン関連のイベントが予定されている、というか、今の状況では、予定されていた、にどんどん変わりつつあるのだが……。

隣町のボンはベートーベンの生誕地だけあって、毎年秋にベートーベンフェスティバルという音楽祭が開催されているが、今年は3月にもその第一弾が企画されていて、日本でも人気のスター的指揮者とオーケストラがロシアから招待されており、日本からそれを観にやって来るツアーグループを案内する仕事を私も頼まれていたのだが、前々回の記事に書いた新型コロナウイルスの感染拡大は止まらないまま、ドイツでもとうとう各種文化イベントの中止勧告(というより実質命令だったけど)が出され、開催数日前にツアーは中止、そしてその直後に音楽祭自体もまるごと中止となったのだった。

(余談だが、このオーケストラは4月中旬に来日公演が予定されており、今のところ中止の情報が出ていないようだが、欧州その他の国が国境封鎖したり入国制限をしたりとしているなかで、いったいこのオーケストラの団員たちが日本まで行けるのだろうかと不思議に思うのだが、頑張って来てほしい! ということなのだろうか?)

その翌週の3月16日にはドイツ全土で学校や保育所が閉鎖となり、そして今日、3月22日までの1週間はものすごいスピードで日々事態が変わっていった。

イタリアでの死者数の急激な上昇をうけ、ドイツも医療崩壊を起こさないように感染拡大をゆるやかにすることでダメージをなるべく抑えていくという政策方針が打ち出され、そしてメルケル首相自らがテレビ演説で、この状況は第二次大戦以後の最大の試練であり、人々、特に高齢者や持病持ちの高リスクの人たちを守るために、国民に忍耐と理解を求めた。「これは本当に深刻な状況であり、どうか皆が真剣に向き合ってほしい」と。

残念ながら一部の、特に若い人たちの理解が足らなかったのか、忍耐が足らなかったのか、営業時間を短くしたカフェのなかに数人以上で集まり、ベルリンでは野外で大勢の若者が集まって「コロナパーティー」をして警察に解散させられるなどの状況が各地で起きてしまい、結果として翌日の23日の週明けからはドイツ全土で、買い物や健康維持のための運動目的の外出は認められるものの、基本的に同居家族のみで自宅待機する、屋外での他人との接触は必要な場合のみ、それも2人以上は集まってはいけない、という外出制限令が出されることになってしまった。

一足先に我が町では昨日からこの「2人以上は禁止」を出されたので、それまで毎朝、自宅学習となった子どもたちの生活リズムを保つためにと近所の友人家族と散歩に出かけていたのも、別行動にとなってしまった。「間をあけながら歩こうね?」と言い合っていても、禁止は禁止だ。

とにかく人との接触をなるべく断つようにという命令は、普段から握手やハグやビズが挨拶という文化のこの国の人たちにとっては、頭ではわかっていてもなかなか大変だ。とはいえ、散歩途中で友人や知人に会っても、皆笑いながら「距離取って、距離!」と離れながら話を短く交わしている。

とりあえずはイースター休暇明けの4月19日までと発表されてはいるが、正直、その後の見通しがつかないことは皆わかっている。自分が、家族が感染するかもしれない、そのよくわからない病気に対しての恐れもあるし、フリーランスや中小企業の多いこの国では、仕事と共に収入のあてが一気にふっとんだ人たちが大勢いる。学校にも行けず、友だちにも会えない子どもたちの相手もなかなか大変だが、自分たちだって友人はおろか、隣町に住む家族や、特に高齢者の身内には近所であってもうっかり会いには行けないのだ。

ロックダウンとよばれる、そんな封鎖が始まってまだ1週間、これからあと4週間、いやもっと長くこんな状況が続くのかとストレスをためている人もすでに多いらしい。先週からドイツは天気がよくて、この週末は気温がぐっとまた低くなったものの、空は雲ひとつなく晴れて快晴だった。澄み切った青空を背に、ピンクのモクレンやあざやかな黄色のレンギョウが映える。桜や梨、プラムの花なども満開で、花冷えだなあ、三寒四温で春が近づいてきているんだなあと心はおどる。なのに私たちはおそらくこの春、ピクニックはできないだろう。この町にもすでにその未知のウイルスが漂っていて、命が脅かされる危険が潜んでいるとは、とても想像がつかないのだ。目に見えない何かがひたひたと迫ってきている、という薄気味悪さはあるものの、あまりにも自分が知っている現実からかけ離れていて、本当に奇妙な気分になる。

この数週間、ラジオやテレビでは「新型コロナウイルスとの闘いは」で始まるニュースが多い。「闘い」かあ。戦時中ってこんななのかな? そう、「これは戦争なんです」と各国の首脳も口にし始めている。

そんな1週間も終わりに近づいた日曜日の夕方、子どもを抱いてベランダに出ていた夫が「ちょっと来て!」と声をあげる。行ってみると、並びの棟のどこかの家からトランペットが奏でるメロディが聞こえてくる。あ、これ、ベートーベンの第九だ!

これ、他の町でもやってるらしいよ、さっきラジオでレポートされてたと話す夫に、じゃあ私たちも一緒にやろうよ、とメロディに合わせて一緒に声を張り上げて歌ってみる。歌詞はわからないので、ターターターラー、と適当におなじみのメロディを歌う。そして演奏が終わると、別の家からも拍手が聞こえてきた。イタリアでも外出禁止令が出されて家に籠もっている人々が、バルコニーに出て皆で一緒に音楽を演奏したり歌ったりしているんだよね。いいなあ、こういうの、何かできることをやるって。皆で一緒にできること、まだあるんだ!

翌日のラジオや新聞の記事で知ったが、これ、イタリアをお手本に私たちもドイツで皆でやろうと、新聞やツイッターなどでドイツ全国で呼びかけられていたもので、人とのつながりを断たれた今、それでも孤独を感じないように皆でベランダに出て歌う「バルコニーコンサート」なのだそうだ。日曜日の18時、皆でいっせいに歌ったり演奏したりしようよ、と。

ベートーベンの第九は「歓喜」の歌であり、そしてEU全体の国歌である。この自由が制限された非日常がいつ終わるのかはわからない。けれどこれが終わったとき、私たちはきっと大きな喜びをかみしめるだろう。それができるようになるためにも、少し我慢をし、何かできることで幸せや希望を感じつつ過ごしていくしかない。

先日の発表では、ドイツのバイオ製薬企業キュアバックがワクチン開発を進めており(ちなみにトランプ大統領がこの会社に資金提供の代わりに米国にワクチンを独占させてくれと持ちかけて非難を浴びたが)、うまくいけば初夏には臨床試験開始、秋には実用化できるかもしれないという。ベートーベンイヤーの今年中に、喜びの歌を歌えるときができるだけ早く訪れることを心から願う。

©Aki Nakazawa ドイツの町中には市が貸し出すレンタルガーデンがあり、借り手は思い思いの庭を作り上げます。この庭へ家族のみで立ち寄ることは、まだ制限されていないそうです。この庭では見事に満開のモクレンの下で、男の子とお母さんが落ちた花びらを掃除していました。春をみんなで堪能する機会は今年はあるのだろうか……。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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