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夏休みの代償ーコロナ禍が突きつける民主主義の課題

中沢あき2020.08.26

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8月に入ってからドイツは猛暑になり、3週間ほど日中の最高気温が30度を超える日が続いた。昨夏のコラムでも書いているが、去年もものすごい猛暑で一般家庭向けの冷房がスーパーのチラシに載るほどだった。

さてその同じスーパーのチラシに1年後に載ったのは、アサヒスーパードライ。そう、日本のビールである。あのおなじみのシルバーに黒字の缶が1本なんと1ユーロ以下。日本よりも安いじゃん! ドイツのビールはそもそもそんなに冷やして飲むものではないので、キンキンに冷やして、これまた最近ドイツのスーパーでも見かけるようになった枝豆(ただし冷凍ものだが)を添えれば、この猛暑にぴったりのメニューである。いまや日本の夏の味をこうして自宅でも味わえるようになるなんて、ほんと世界ってグローバル化したのねえ、と感慨深く友人に話したら、日本人の彼女はキラリと目を光らせてこう言った。いや、私が思うにあれはね、東京オリンピックに合わせた目玉商品として売ろうとスーパーが買い込んでおいたものを放出したのよ。

なるほどー! と思わず私は叫んでしまった。そんな事情があったとは(まだ憶測だけど)。そこに気づくと、チラシの中で精鋭の輝きを放っていたビール缶が、もの哀しげに映る……。

思えばこの夏、ドイツでも日本でも、世界中でオリンピックを機にいつもの何倍も人々は旅行に出かけているはずだった。それがコロナ禍でこうも変わるなんて、誰が想像しただろう?(そう思うと、本当にこのオリンピックは何かと呪われているね……)
しかしドイツ人はこの夏、それでも旅行に出かけている。前回のコラムでも書いたが、私の周囲は半数くらいは国内外へと旅行に出かけているし、世間一般もまたしかりだ。

もちろん感染の危険度は下がっていない中、飛行機に乗って出かける人、公共交通機関は避けて車で出かける人、となるとガラガラ空席の電車のほうが安心だよと言う人、結構な数の人たちがやはり旅行に出かけているようだ。まだ欧州以外の外国への旅行は無理だが、欧州内への山や海のリゾート地、または遠地の身内や親戚のところへ遊びに行くという人もいる。その根拠が私にはよくわからないが、一般のホテルは心配だけど知っている間柄なら安心、ということで、我が家も遠方に住む義姉一家から泊まりに来いと誘いを受け続けているが、私はきっぱり断っている。幼子連れての長時間の車の移動もストレスだが、普段生活を共にしていない人たちと同じ家で何日も過ごすとか、まさに感染拡大の一因だと思うのだ。が、感染を怖がって私たちの訪問すら遠慮しているわりには友人のガーデンパーティーなどには出かけていく高齢の義母自ら、車で行けば大丈夫、家族だから大丈夫と言い出す始末。おまけに姪っ子までが皆が止めるのを振り切って、医者も警察もいない南欧の小島で一人でテント生活するんだと飛行機に乗って行ってしまった……。まあこれはちょっと極端な例としても、いまや皆の気が緩んできて、公園では多数集まってのピクニックやバーベキュー、街中のカフェやレストランでは店員はマスクをしていても、客はマスクなしで対面で一緒に食事をしたりしている。

我が州は6月の終わりに夏休みが始まったが、数週間後くらいからまた感染が拡大するよね、と、旅行に出ない残り組の間で話していたことが、いよいよ現実のニュースになり始めたのが、7月の終わり頃。それまで1日の感染者数が200から300人台を推移していたのが、一気に700、800人を超え、8月に入るととうとう1000人に達し、そして後半には2000人を超え、ロックダウン中だった4月の水準に戻ってしまった……。「リゾート地で旅行者が毎晩マスクなしでパーティー騒ぎをしていたから」だの「旅行者だけじゃなくて若者たちが野外パーティーを大勢でしていたから」だの、なんだか責任の押し付け合いみたいな論争も起きたが、そんなこと最初からわかっていながら経済回すために緩和したのに、みんな、勝手だなあ。他人事のような国民の意識をさすがにまずいと思ったのか、とうとうシュパーン保健相が「感染の経路は旅行だけではなくて、家族間の集まりや友人間のパーティーでも起きている」と釘を刺し、ドイツ人のメジャーな旅行先のスペインは全国、そしてとうとうクロアチアの一部まで感染危険地域となり、それらの国からの帰国者は空港でのPCR検査を無料で受けられることになった。

そんな報道の一方で、我が家の向かいの小さなベランダでは若者たちが10人ほど集まって毎週末大騒ぎ。いまどきの若い子はニュースを見聞きしないのだろうか……。もっとも若い世代、と決めつけるのは間違ってる。なぜなら感染が再び拡大し始め、ロックダウンの可能性もありえるというニュースが流れ始めた途端に「政府の陰謀によるコロナロックダウン反対」デモが早速起きたのだから。ベルリンを始め、各地で8月初め頃から再び起き始めたこのデモ、なんと参加者はマスクもしないという徹底したアンチぶり。さすがにマスクなしはルール違反と警察が介入して解散させたそうだが、警官たちも仕事とはいえ、気の毒……。しかもこの陰謀論を唱えている中には弁護士だとか医者だとか「ちゃんとした」肩書きの人たちもいるというのだから、人間の思考の違いの難しさを考えさせられる。マスクに慣れている日本人の私からすると、たかが店の中や公共交通機関の中でマスクをすることだけで「自由侵害」となるのもどうなのよ、と冷ややかな目で見てしまうのだけど。シュパーン保健相は「マスクをしたくないという気持ちはわかる。しかし自由の権利とは、他人の自由の権利を尊重してこそ成り立つもの」、そしてメルケル首相もついに「帰国者の検査は可能かどうかの話ではなくて義務である」と明言。こんなことを国のトップがわざわざ説明するほど、大人げない人がたくさんいるんかい……。ましてや新型コロナウイルスなんてでっち上げだ、なんて言葉を実際に罹患した人や身内を亡くした人が聞いたら、どれだけ腹の立つことか。

旅行は絶対にするなとまでは言わないが、血縁でも同居家族でなければ他人と同じ感染の危険があるのだからそういう訪問方法を考える、旅先で感染する可能性は全く0とは言い切れないのだから、帰宅したらしばらく自宅隔離してみる、と自重することは頭の隅にすらない。出身地のスペインへ帰省していたママ友から、子どもを遊ばせたいと言われたのだけど、断るのに話が通じなくて疲れた、と友人はげんなりしていた。

とまあ、ドイツ人の民主主義まで問われるような事態になってきているこのコロナ禍。これから気候が寒くなるのに早くも第二波がやってきてしまい、どうなることやら。我が家の地区はすでに数校が休校措置。そして伝統行事である来年2月のカーニバルですらすでに、開催は現実的でないとシュパーン保健相から全国にお達しが出てしまった現状である。ということは少なくともあと半年はこの状況が続くという見通しだということで、秋冬は感染も症状もひどくなると予想されているからに、この危機意識の低さのままだと「ロックダウン再び」もありえるなと、懐かしの銀色のビール缶をながめながら思うのであった。


写真:©Aki Nakazawa
実はこのビールを買い損ねた私。写真のものは、1月に日本からドイツに帰ってくる飛行機の機内食についていたものを夫が持ち帰ったもの。まだ今年のことなのに、それが遠い昔のことのように思えるなんて、あらためて私たちの暮らしが様変わりしたことを感じます。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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