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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル(2) 守られる側から守る側へ 映画「パーフェクト・ドライバー」

成川彩2023.01.18

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2018年に♯MeToo運動が広まる以前、韓国映画は男性中心の作品が多かった。特に商業映画は監督も主演も男性が圧倒的に多く、女性は男性主人公に守られる役、あるいはそばで応援する役、犠牲になって復讐心に火を付ける役という「引き立て役」だった。#MeTooを経て目立って増えてきたのは、自ら戦う強くたくましい女性主人公。守られる側から守る側へ。日本で1月20日公開の「パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女」(パク・デミン監督)では、パク・ソダム演じる女性主人公がすご腕の「運び屋」として、事件に巻き込まれた男の子を救い出すべく奔走する。




「パーフェクト・ドライバー」の韓国の原題は「特送」だ。訳ありの荷物や人を指定された時間、場所に送り届ける仕事だが、報酬が高い分、危険度も高い。大抵は誰かに追われている状況で、カーチェイスを繰り広げることになる。

主人公チャン・ウナを演じるパク・ソダムは、ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」(2019)で、半地下の家族の長女ギジョンを演じ、世界的にブレイクした。「パラサイト」でも、ちょっとまぬけな長男ギウに比べてすこぶる有能だった。金持ちのパク社長の家に家庭教師として入り、家族の手に負えない問題児の長男ダソン(チョン・ヒョンジュン)を見事に手なずけた。

その問題児のダソンを演じたチョン・ヒョンジュンも「パーフェクト・ドライバー」に登場する。海外への逃亡を図る依頼人の息子ソウォン役だ。依頼人本人は追っ手に捕まってウナが運転する「特送」の車に乗り込めず、ウナはソウォンを乗せて逃げ回るはめになる。ソウォンは父から300億ウォンが入った貸金庫のカギを託されていたのだ。そのカギを手に入れようと、追っ手は執念深くウナとソウォンを追い回す。
依頼人も追っ手も、ウナを見るとまず「なんだ、女か」と見くびるが、クールなウナは気にもとめず、誰の追随も許さぬ高度な運転技術で圧倒する。ウナは運転がうまいだけでなく、ケンカも強い。襲いかかってくる男たちを巧みに倒していく。

ウナにとって、ソウォンは赤の他人の子どもだ。命をはって助ける理由はないのだが、おそらくウナの「脱北者」という背景が、ソウォンを守らせている。北朝鮮から脱出する過程で家族を失ったウナは、父子家庭で育ち、父まで失ったソウォンを一人にはできないのだ。ウナとソウォンは、「パラサイト」に続く2度目の共演のおかげか、息ぴったりの名コンビだった。



ところで、敏腕ドライバーを演じるパク・ソダムを見ながら思い出したのは、ヨン・サンホ監督の「新感染半島 ファイナル・ステージ」(2020)のジュニ(イ・レ)だ。韓国で大ヒットしたゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016)の続編にあたり、公開も4年後だったが、内容も4年後を描いている。

主人公ジョンソク(カン・ドンウォン)は半島から脱出した軍人だが、残された大金を求めて、再び半島に乗り込む。一方、ジュニはゾンビのうごめく半島で生き残った少女だ。ゾンビに襲われるジョンソクを、敏腕ドライバーのジュニが助け出す。急発進、急ブレーキを繰り返す激しい運転でゾンビをまき散らす。

ジョンソクも元軍人なので戦闘能力は高いが、光と音に反応するゾンビの特性を熟知したジュニの家族がむしろ大活躍する。ジュニの妹ユジン(イ・イェウォン)はピカピカ光るラジコンを巧みに操縦し、ゾンビを誘導する。この姉妹のゾンビとの戦いっぷりが「新感染半島」の見どころの一つだった。
「新感染」が2016年、「新感染半島」が2020年公開だったことを考えれば、#MeToo前後の変化という指摘もできる。「新感染」はソウル発釜山行きの高速鉄道の車内を舞台としたゾンビ映画で、主要登場人物で言えば、主人公(コン・ユ)が娘(キム・スアン)を守り、マッチョな乗客(マ・ドンソク)が妊娠中の妻(チョン・ユミ)を守るという、従来の男性が女性を守る描き方だった。続編の「新感染半島」では女性、それも少女の活躍が目立ち、男女や年齢にかかわらず互いに助け合うパートナーとして描かれた。

一方、「パーフェクト・ドライバー」のウナが脱北女性だった点に注目してみると、2021年、世界を席巻した「イカゲーム」に出てきたカン・セビョク(チョン・ホビン)も脱北女性だった。セビョクが命がけのゲームに参加するのも、幼い弟のためだった。「脱北」という困難を乗り越えた強い女性だが、やっとたどり着いた韓国でも経済的困難に苦しんでいる。ウナとの共通点が浮き上がる。実際、韓国には約3万人の脱北者が暮らしており、ある程度の韓国政府の支援はあるが、経済的自立が課題となっている。



ウナの同僚には不法滞在の外国人もいる。「特送」は社会的身分の不安定な人たちが担う、ハイリスクな仕事なのだ。カーアクションの映画にも、ちゃんと社会的なことを盛り込んでくるところが、韓国映画らしい。

#MeTooは女性を主人公に押し上げ、役の幅を広げた。パク・ソダムは韓国では1月18日公開の映画「幽霊」で再びアクションに挑み、注目を集めている。

【公開表記】
120() TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
© 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved.

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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