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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 ドイツの春の味

中沢あき2024.03.18

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今年は春の到来が早い。2月の初旬に、スノードロップやクロッカスの花が咲き始め、暖かい日が続いたしな、と思っていたら、その1週間後くらいに、近所の庭の桜の木が真っ白になっているのを見て目を疑った。この何年かは春が早いけれども、それでも桜が咲くのは3月半ばを過ぎてからだったと思う。でも今はまだ2月だぞ!

さらにその数日後、近所のママ友と一緒に子どもたちを遊ばせようと、すぐ近くの市民庭園(小屋付きの広めの庭を分譲で貸し出す庭)に行ったら、ピンク色のモクレンが咲き始めていた。これも満開になるのはいつも3月後半なのに、過去数年よりも3週間は早いってことだ……。きれいだね、という言葉よりも、早いね……、早過ぎない? という言葉を何度も呟いてしまう。ピンクや白や黄色が気持ちよく晴れた青い空に映えるのをきれいだねと呟きつつも、いやあ、これはいよいよヤバいね、と苦笑いしてしまう。美しい情景も、笑えない状況も、どちらもすぐに受け入れがたくて複雑な気持ちだ。今年の夏もまた暑いのかなあ、とうんざりしたようにママ友が呟く。

温暖化の影響を実感するほどになり、それが加速しているなと感じていることを口に出すと、目の前の子どもたちの未来を考えてしまうから、怖くて言葉にできない。車の通らない砂利道を小さな自転車で競争して駆け抜けていく子どもたちが大人になる頃、この世界はどんなふうになっているのだろうか。この数年の暑くて雨の少ない天候が災いしたのか、弱くなってしまった街中の木々が、強風が吹くたびにどんどん倒れていくのを見ると、樹木が減る分、二酸化炭素の量が増えるのだろうかと想像して、空恐ろしくなる。

そんなことをぼんやり思いながら子どもたちの後を追いかけて歩いていくと、一つの庭の前で子どもたちが止まっていた。
「あ、ここね、うちのご近所さんの庭なの」と隣のママ友がそこで作業をしていた老婦人に声をかけると、彼女はこちらにやってきた。
「今から少しずつ手入れしておかないと間に合わないのよ。でも今日はもう疲れたからこれでおしまいにするわ」とほがらかに笑う。年の頃は70代だろうか。数年前に夫に先立たれて以来この庭をほぼ一人で手入れしている彼女は、友人の子どもにとっても「おばあちゃん代わり」みたいな人。彼女の庭にもすでに春は到来していて、今年はもう野生のアネモネが咲き始めているわよ、ほら、ここも、あそこも。と指を差し、もっと見せてあげるから入りなさい、と私たちを招き入れてくれた。

ピンクと白のクリスマスローズがあちこちに花を咲かせ、歩く足元の道の上には、自然に増えるのだろうか、クロッカスが道の真ん中にもたくさん咲いていて、花を踏まないようにと子どもたちにも声をかけながら、私たちもその上を飛び越えて進んでいく。水仙やスノードロップも盛大に咲いているし、ここの桜のつぼみはちょうど開き始めてきたところ。白いモクレンはピンクよりも咲くのが遅いそうで、まだつぼみはしっかり閉じている。いつも餌をやっている野良猫が今日はいないと聞いても、「猫はどこ?」と子どもたちはどんどん奥まで進んでいく。猫はいなかったが「金魚がいる!」と大騒ぎだ。
「これは日本のカエデ。赤い葉っぱしか出てこないのよ。そしてあれは……」と、彼女の案内は途切れない。まるで植物園に遊びにきたみたい。ローズマリーの茂みを見つけたところで私は足を止めた。そういえば昨年の秋、ママ友を通してこの彼女のローズマリーの枝を分けてもらったのだっけ。水に差しておくと根っこが出てくるよ、というのでそうしたら、本当に白い根が何本も出てきて、日本に行く前にバルコニーのプランターの土の中に差しておいたのだが、そのあとが寒過ぎたのか、帰ってきたら根っこはなくなって枯れかけていた。その話をして、もう一度試してみたいから枝を分けてくれないかとお願いしたら、すぐに盆栽バサミを持ってきて何本も切ってくれた。「根を生やしてやるにはね、太い枝ではダメなの。先の方の、まだ細くて柔らかめの枝を水に漬けるのよ」と教えてくれる。

私がハーブに興味を示したからか、彼女は周りを見回してから、これは知ってるかしら? と、そばに生えていた葉っぱを何本もちぎって「食べてごらんなさい」と私たちに渡す。それはスイバで、口に入れると少しこうばしい香りと共に爽やかな酸味が広がる。「すっぱーい!」と子どもたちは大騒ぎしながらも、おいしいと言ってむしゃむしゃ食べている。随分と前、マルクトで春になると束で売られているのを買ったことがあったっけ。クリームスープにしたりサラダに入れたりして食べるのだが、もう何年も食べていなかった。
「それからこっちはね……」と次に手渡されたのは、ベアラオホ。直訳してクマのネギというこれは日本だと行者ニンニクというらしい。私もドイツに来てから初めて知ったハーブだが、ドイツ人にとっては春の旬を知らせる葉っぱで、ドイツでは皆が大好きな味。ナッツなどと一緒に細かく刻んでオリーブオイルで和えるペストソースは手作りだけではなく瓶詰めでもよく売られているし、ベアラオホ入りのパンやチーズやソースなども年間を通して見かけるが、本当は春が旬だ。その名の通り、ネギやニンニクの風味がして、ちょっとピリッとする。在独の日本人の間では、餃子にニラ代わりに入れるアイディアもあるくらい、ニラと似た味。スイバもベアラオホも知らなかったママ友は感心しながら味わっている。
すっぱい! からい! と騒ぎながらも、もっとちょうだいとむしゃむしゃ食べる子どもたちに彼女はこう伝える。「春の味はね、冬の間眠っていた体を目覚めさせるためのものなのよ。この季節に出てくるのはこの季節の味。私たちは自然に沿って生きているのよ」おばあちゃんの話は説得力がある。日本でも春の山菜や筍は、冬の間に溜め込んだ体の毒出しと目覚めの効能があると言われているけれども、ドイツはベアラオホだな。

その夜、持って帰ってきたスイバの葉をかじる子どもに、これも春の味だよ、ちょっと苦いけど、その苦味が体を目覚めさせてくれるんだよ。と言って出した夕ごはんのメニューは2日前にマルクトで買った菜の花を炒めたパスタ。苦ーい、と言いながらもちゃんと食べた子どもには、この旬の味を覚えていってほしいなと願う。そしてそんな旬がちゃんと存在する世界が続いていってくれることも。




写真:©︎ Aki Nakazawa

これがベアラオホの葉っぱ。スズランの葉にも似ていることから、間違ってスズランの葉を食して食中毒にあたった話をときどき聞きますが、味はずいぶんと違うはず。知らないで食べたのかしら。この頃咲き始めたモクレンは3月初めには満開になりました。いつもより3週間くらい早いタイミングです。その後はまた寒い日が続いていますが、春は三寒四温でやってくるとはいえ、振り回される植物の状態が心配です。不作などにならないといいのだけれども……。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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